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怒りっぽい天使
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自分の親切を無下にされたショック半分、腹立ち半分でリビングで少しだけ美羽が戻ってくるかと待っていたけれど、三十分ほど待ったが帰ってくる様子もない。
「金も無いのに、何処に行ったんだか……」
食料品が全部持っていかれたのは、俺としても痛手だ。
また買いに行く気力はもう残っていない。
リビングのソファの上に倒れ込んで溜め息を吐くと、体の熱っぽさに発情期が始まりそうだとぼんやり思った。
もう誘惑香もメイデル以外には効き目が無いのだし、明日は改めて薬と食料を買いに行こう。
ぐぅー……と、お腹の音が虚しく鳴った。
「お腹空いた……もう、今日は寝よ……」
空腹の時は、寝てしまった方が早そうだと目を閉じる。
発情期の時はいつもシズクが何かと世話を焼いてくれて、寝ているだけの過ごし方をしていた。誰も居ないと自分で何もかもやらなきゃいけないのかと思うと、シズクに甘えて生きていたなぁと、今更、アルファのシズクが世話をしてくれたのに、何もなかったのはシズクが抑制剤を飲んでまで一緒に過ごしてくれたのかと思うと、涙が出そうだ。
「ったく。何泣いてるのさ」
「シズク……?」
「僕が居ないと、本当にダメなんだから!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、シズクが怒った顔で見下ろしていた。
相変わらずの世話焼きで、怒りっぽいところは変わっていない。
少し見ない間に背が伸びたような気がするけれど、シズクは小さくて可愛い方がいいのに。
「あのねー、声に出して小さくて可愛いとか、馬鹿言ってないでよね! 僕が可愛いのは当たり前なんだから!」
「……やっぱり、シズクだ」
「咲に昔っから言ってるよね? 犬でも猫でも勝手に拾ってくるなって! 家の中に女の子を連れ込むとか、咲にはハードル高すぎだからね!」
なんだか酷い言われ様な気もするけど、一ヵ月ぶりのシズクの悪態にホッとしてしまう。
シズクに『小鳥』呼びではなく『咲』呼びされる事が嬉しくて、顔がだらしなくニヤける。
「ほら、いつもの抑制剤じゃないけど、これ飲んで」
「なんだか、シズクの顔が赤い」
「そりゃ、ここまで走ってきたんだから、仕方がないでしょ。それに、僕お酒飲んでた最中だったんだからね。途中で全部吐いたの、恨むからね!」
「へへっ、飲んでから走るからだよ」
「誰のせいだと思ってるのさ!」
いつもの物とは違う抑制剤を飲ませて貰って、三十分程ソファの上で横になっている間にシズクは俺のパソコンを弄り、ぶつぶつ文句を言いまわっていた。
「あのさ、シズクの部屋もあるんだ。ここ」
「僕の事なんか気にしなきゃいいのに。それにね、そのうちあのオッサンは、咲と暮らし始めるだろうからさ。新婚家庭に弟が一緒って……無いでしょ?」
「そうかなー? 俺達、桜樹やササメの新婚家庭にコブ付き状態だったし」
「おかげで、僕らは変にササメ達に遠慮したり、二人で過ごしてもらおうとして公園で時間潰したりしてたでしょ! ったく、そういうの忘れたの? 咲はさ、家族の愛に飢えてるだけ。あのオッサンにそういうのは埋めてもらいなよ」
「でも、シズクが帰れる場所も必要だろ? いつでも泊りに来て良いんだからな」
「バッカじゃないの? そういうのは、女の子に泥棒されないぐらいしっかりした人間の言う事だよ」
それを言われると痛いなぁと思いつつ、いつもより眠気は薄い抑制剤の効き目で夢見心地で過ごしていたら、ポンポンとシズクの悪態が飛んできていた。
「僕に心配かけさせないでよね。ばーか」
どこからどこまでが心配してくれているのか、怒っているのか、シズクは俺が寝た後で色々と用意してくれたらしい。
目が覚めると大量の食料に、テーブルにはいつもの抑制剤と『出歩かない事! 僕は帰る!』と、メモが置いてあった。
シズクの部屋を覗きに行けば、また来るという事なのか、シズクの気に入っていた本が机の上に並べられていた。
素直じゃない……と、クスリと笑うとシズクの「バーカ」という声が飛んできそうだ。
「金も無いのに、何処に行ったんだか……」
食料品が全部持っていかれたのは、俺としても痛手だ。
また買いに行く気力はもう残っていない。
リビングのソファの上に倒れ込んで溜め息を吐くと、体の熱っぽさに発情期が始まりそうだとぼんやり思った。
もう誘惑香もメイデル以外には効き目が無いのだし、明日は改めて薬と食料を買いに行こう。
ぐぅー……と、お腹の音が虚しく鳴った。
「お腹空いた……もう、今日は寝よ……」
空腹の時は、寝てしまった方が早そうだと目を閉じる。
発情期の時はいつもシズクが何かと世話を焼いてくれて、寝ているだけの過ごし方をしていた。誰も居ないと自分で何もかもやらなきゃいけないのかと思うと、シズクに甘えて生きていたなぁと、今更、アルファのシズクが世話をしてくれたのに、何もなかったのはシズクが抑制剤を飲んでまで一緒に過ごしてくれたのかと思うと、涙が出そうだ。
「ったく。何泣いてるのさ」
「シズク……?」
「僕が居ないと、本当にダメなんだから!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、シズクが怒った顔で見下ろしていた。
相変わらずの世話焼きで、怒りっぽいところは変わっていない。
少し見ない間に背が伸びたような気がするけれど、シズクは小さくて可愛い方がいいのに。
「あのねー、声に出して小さくて可愛いとか、馬鹿言ってないでよね! 僕が可愛いのは当たり前なんだから!」
「……やっぱり、シズクだ」
「咲に昔っから言ってるよね? 犬でも猫でも勝手に拾ってくるなって! 家の中に女の子を連れ込むとか、咲にはハードル高すぎだからね!」
なんだか酷い言われ様な気もするけど、一ヵ月ぶりのシズクの悪態にホッとしてしまう。
シズクに『小鳥』呼びではなく『咲』呼びされる事が嬉しくて、顔がだらしなくニヤける。
「ほら、いつもの抑制剤じゃないけど、これ飲んで」
「なんだか、シズクの顔が赤い」
「そりゃ、ここまで走ってきたんだから、仕方がないでしょ。それに、僕お酒飲んでた最中だったんだからね。途中で全部吐いたの、恨むからね!」
「へへっ、飲んでから走るからだよ」
「誰のせいだと思ってるのさ!」
いつもの物とは違う抑制剤を飲ませて貰って、三十分程ソファの上で横になっている間にシズクは俺のパソコンを弄り、ぶつぶつ文句を言いまわっていた。
「あのさ、シズクの部屋もあるんだ。ここ」
「僕の事なんか気にしなきゃいいのに。それにね、そのうちあのオッサンは、咲と暮らし始めるだろうからさ。新婚家庭に弟が一緒って……無いでしょ?」
「そうかなー? 俺達、桜樹やササメの新婚家庭にコブ付き状態だったし」
「おかげで、僕らは変にササメ達に遠慮したり、二人で過ごしてもらおうとして公園で時間潰したりしてたでしょ! ったく、そういうの忘れたの? 咲はさ、家族の愛に飢えてるだけ。あのオッサンにそういうのは埋めてもらいなよ」
「でも、シズクが帰れる場所も必要だろ? いつでも泊りに来て良いんだからな」
「バッカじゃないの? そういうのは、女の子に泥棒されないぐらいしっかりした人間の言う事だよ」
それを言われると痛いなぁと思いつつ、いつもより眠気は薄い抑制剤の効き目で夢見心地で過ごしていたら、ポンポンとシズクの悪態が飛んできていた。
「僕に心配かけさせないでよね。ばーか」
どこからどこまでが心配してくれているのか、怒っているのか、シズクは俺が寝た後で色々と用意してくれたらしい。
目が覚めると大量の食料に、テーブルにはいつもの抑制剤と『出歩かない事! 僕は帰る!』と、メモが置いてあった。
シズクの部屋を覗きに行けば、また来るという事なのか、シズクの気に入っていた本が机の上に並べられていた。
素直じゃない……と、クスリと笑うとシズクの「バーカ」という声が飛んできそうだ。
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