狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

文字の大きさ
35 / 58

同情

しおりを挟む
 カークランドこと静谷さんの車でマンションまで送ってもらう事になり、助手席に座らせてもらう。
 抑制剤の眠気に目頭を指で押さえると、缶コーヒーを手渡されて眠気覚ましにブラックコーヒーを飲んで、少しだけ目が覚めた。

「先ずは、今回の件ですが……蓬生グループの手がかなり回っています」
「美羽の実家だっけ? なんか刑事が美羽はオメガなのに、アルファだとか言ってたし」
「ええ。蓬生美羽さんは登録ではアルファとなっています。しかし、良家の子息や令嬢にはたまにある事です。偽りのバース性を登録し、内々に良縁を結ぶ駒のような子供がね」

 美羽も三人婚約者がいるとかなんとか言っていたから、無い話じゃないのだろう。
 静谷さんは苦々しい顔をして、人権侵害もいいところだと吐き捨てるように言って、俺に黄色いバインダーを渡してきた。
 バインダーの中には中年の男性と、若い男性に女性の写真があった。

「その写真の三人が、将来美羽さんの結婚相手になります」
「一人女の子だけど……アルファなのか?」
「ええ。アルファは女性でもオメガならば妊娠させられるように、体が作り替えられますからね」

 実際にオメガ女性との同性アルファのカップルは居る。
 俺みたいに男性同士でも番になるぐらいなのだから、ベータのように男女を隔てる壁のようなものがない。
 数が少ないアルファとオメガなので、一般的には男女のカップルが大半を占めているだけだ。

「三人の子供を産んで、この中の誰かと結婚させられるのか……ちょっと可哀想だよな」

 俺も少し前までは、シズクの救助に自分の体と子供をさし出そうとしていたけど、あれは俺の意思で誰かに強制されたわけじゃない。
 でも、美羽は良いとこのお嬢様なのに、選択することが出来ないのだろうし、逃げ出したかったのも分かる。

「彼女には同情します。しかし、問題は……名執さんが巻き込まれていることですね」
「巻き込まれたっていうか、俺が自分から首を突っ込んでいっただけだけどな……」
「コラム将校からの依頼ですから、勝訴を目指して全力でいきますが……一番良い方法は、未成年者略取を示談で持っていくことですね。先手を打たれてテレビなどで報道されていますし、こちらが有利になる物を用意しなければいけません」
「お手数をかけます……」

 防犯カメラにバッチリ撮られている事が、とても厳しいことは分かる。
 人助けだと言うには、美羽は嫌がっていたのを車に押し込んでいるところだったのも、マイナス要素だろう。

「美羽を見付けて説明させるとか……」
「彼女は今現在、捜索中ですが、出来れば……蓬生と警察より先に見つけ出したいですね」
「街の『ハゲタカ』って情報屋を使えば、金はかかるけど早いかも?」
「情報屋も一応あたってみますが、十六歳の少女の行動を把握するのは大変かもしれません」
「……確かに」

 犯罪者の動きは情報屋も分かるだろうけど、最近の若い子の動きを分かるかというと、難しそうでもある。
 こうした時に役に立ちそうなのがシズクなんだけど、流石にシズクにばかり頼ってもいられないだろう。

「おや? コラム将校ですね」
「え?」

 マンションの駐車場からメイデルが出てくるところだった。
 メイデルを目視した瞬間から、体に変な動悸がし始めた。息が上がって胸の奥が苦しい感じがする。
 静谷さんが車を停めた瞬間、車のドアを開けてメイデルに駆け出して飛びついたのは、自分でもよく分からない。

「サキさん……!」
「すっごく、抱いてほしい」

 あれ? おかえりと言おうと思っていたのに、変なことを口走ってしまった気がするし、メイデルの首に手を伸ばして背伸びしてしまっているのは、何故なのか???
 体が自分のものじゃないように、メイデルが少しかがんで顔を近付けると唇を奪っていた。
 こんな場所で駄目だと、頭では分かっているのに、熱に浮かされたようにメイデルを求めようと必死になってしまう行動を止められない。

「わたしはここで一旦、帰らせていただきますね。資料はこちらの方にありますので」
「ああ、すまない」

 静谷さんはメイデルにファイルを渡すと、軽く会釈をして車に乗り込んでしまう。
 耳に車の発進する音は聞こえているのに、振り向けないまま、ただメイデルを自分に抱き寄せようとしていた。

「サキさん……抑制剤が、あまり効いていませんね」
「そんなの、どうでもいい……っ、はやく」
「ええ。部屋に入ったら、ね」

 メイデルにおでこにキスをされた後、何故か俵抱きにされてエレベーターに乗って部屋に戻ることになった。
 何故、俵抱きなのか……いや、俺が抱きつきまくって歩くのに邪魔だからだろうけどね。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

縁結びオメガと不遇のアルファ

くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。

処理中です...