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同情
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カークランドこと静谷さんの車でマンションまで送ってもらう事になり、助手席に座らせてもらう。
抑制剤の眠気に目頭を指で押さえると、缶コーヒーを手渡されて眠気覚ましにブラックコーヒーを飲んで、少しだけ目が覚めた。
「先ずは、今回の件ですが……蓬生グループの手がかなり回っています」
「美羽の実家だっけ? なんか刑事が美羽はオメガなのに、アルファだとか言ってたし」
「ええ。蓬生美羽さんは登録ではアルファとなっています。しかし、良家の子息や令嬢にはたまにある事です。偽りのバース性を登録し、内々に良縁を結ぶ駒のような子供がね」
美羽も三人婚約者がいるとかなんとか言っていたから、無い話じゃないのだろう。
静谷さんは苦々しい顔をして、人権侵害もいいところだと吐き捨てるように言って、俺に黄色いバインダーを渡してきた。
バインダーの中には中年の男性と、若い男性に女性の写真があった。
「その写真の三人が、将来美羽さんの結婚相手になります」
「一人女の子だけど……アルファなのか?」
「ええ。アルファは女性でもオメガならば妊娠させられるように、体が作り替えられますからね」
実際にオメガ女性との同性アルファのカップルは居る。
俺みたいに男性同士でも番になるぐらいなのだから、ベータのように男女を隔てる壁のようなものがない。
数が少ないアルファとオメガなので、一般的には男女のカップルが大半を占めているだけだ。
「三人の子供を産んで、この中の誰かと結婚させられるのか……ちょっと可哀想だよな」
俺も少し前までは、シズクの救助に自分の体と子供をさし出そうとしていたけど、あれは俺の意思で誰かに強制されたわけじゃない。
でも、美羽は良いとこのお嬢様なのに、選択することが出来ないのだろうし、逃げ出したかったのも分かる。
「彼女には同情します。しかし、問題は……名執さんが巻き込まれていることですね」
「巻き込まれたっていうか、俺が自分から首を突っ込んでいっただけだけどな……」
「コラム将校からの依頼ですから、勝訴を目指して全力でいきますが……一番良い方法は、未成年者略取を示談で持っていくことですね。先手を打たれてテレビなどで報道されていますし、こちらが有利になる物を用意しなければいけません」
「お手数をかけます……」
防犯カメラにバッチリ撮られている事が、とても厳しいことは分かる。
人助けだと言うには、美羽は嫌がっていたのを車に押し込んでいるところだったのも、マイナス要素だろう。
「美羽を見付けて説明させるとか……」
「彼女は今現在、捜索中ですが、出来れば……蓬生と警察より先に見つけ出したいですね」
「街の『ハゲタカ』って情報屋を使えば、金はかかるけど早いかも?」
「情報屋も一応あたってみますが、十六歳の少女の行動を把握するのは大変かもしれません」
「……確かに」
犯罪者の動きは情報屋も分かるだろうけど、最近の若い子の動きを分かるかというと、難しそうでもある。
こうした時に役に立ちそうなのがシズクなんだけど、流石にシズクにばかり頼ってもいられないだろう。
「おや? コラム将校ですね」
「え?」
マンションの駐車場からメイデルが出てくるところだった。
メイデルを目視した瞬間から、体に変な動悸がし始めた。息が上がって胸の奥が苦しい感じがする。
静谷さんが車を停めた瞬間、車のドアを開けてメイデルに駆け出して飛びついたのは、自分でもよく分からない。
「サキさん……!」
「すっごく、抱いてほしい」
あれ? おかえりと言おうと思っていたのに、変なことを口走ってしまった気がするし、メイデルの首に手を伸ばして背伸びしてしまっているのは、何故なのか???
体が自分のものじゃないように、メイデルが少しかがんで顔を近付けると唇を奪っていた。
こんな場所で駄目だと、頭では分かっているのに、熱に浮かされたようにメイデルを求めようと必死になってしまう行動を止められない。
「わたしはここで一旦、帰らせていただきますね。資料はこちらの方にありますので」
「ああ、すまない」
静谷さんはメイデルにファイルを渡すと、軽く会釈をして車に乗り込んでしまう。
耳に車の発進する音は聞こえているのに、振り向けないまま、ただメイデルを自分に抱き寄せようとしていた。
「サキさん……抑制剤が、あまり効いていませんね」
「そんなの、どうでもいい……っ、はやく」
「ええ。部屋に入ったら、ね」
メイデルにおでこにキスをされた後、何故か俵抱きにされてエレベーターに乗って部屋に戻ることになった。
何故、俵抱きなのか……いや、俺が抱きつきまくって歩くのに邪魔だからだろうけどね。
抑制剤の眠気に目頭を指で押さえると、缶コーヒーを手渡されて眠気覚ましにブラックコーヒーを飲んで、少しだけ目が覚めた。
「先ずは、今回の件ですが……蓬生グループの手がかなり回っています」
「美羽の実家だっけ? なんか刑事が美羽はオメガなのに、アルファだとか言ってたし」
「ええ。蓬生美羽さんは登録ではアルファとなっています。しかし、良家の子息や令嬢にはたまにある事です。偽りのバース性を登録し、内々に良縁を結ぶ駒のような子供がね」
美羽も三人婚約者がいるとかなんとか言っていたから、無い話じゃないのだろう。
静谷さんは苦々しい顔をして、人権侵害もいいところだと吐き捨てるように言って、俺に黄色いバインダーを渡してきた。
バインダーの中には中年の男性と、若い男性に女性の写真があった。
「その写真の三人が、将来美羽さんの結婚相手になります」
「一人女の子だけど……アルファなのか?」
「ええ。アルファは女性でもオメガならば妊娠させられるように、体が作り替えられますからね」
実際にオメガ女性との同性アルファのカップルは居る。
俺みたいに男性同士でも番になるぐらいなのだから、ベータのように男女を隔てる壁のようなものがない。
数が少ないアルファとオメガなので、一般的には男女のカップルが大半を占めているだけだ。
「三人の子供を産んで、この中の誰かと結婚させられるのか……ちょっと可哀想だよな」
俺も少し前までは、シズクの救助に自分の体と子供をさし出そうとしていたけど、あれは俺の意思で誰かに強制されたわけじゃない。
でも、美羽は良いとこのお嬢様なのに、選択することが出来ないのだろうし、逃げ出したかったのも分かる。
「彼女には同情します。しかし、問題は……名執さんが巻き込まれていることですね」
「巻き込まれたっていうか、俺が自分から首を突っ込んでいっただけだけどな……」
「コラム将校からの依頼ですから、勝訴を目指して全力でいきますが……一番良い方法は、未成年者略取を示談で持っていくことですね。先手を打たれてテレビなどで報道されていますし、こちらが有利になる物を用意しなければいけません」
「お手数をかけます……」
防犯カメラにバッチリ撮られている事が、とても厳しいことは分かる。
人助けだと言うには、美羽は嫌がっていたのを車に押し込んでいるところだったのも、マイナス要素だろう。
「美羽を見付けて説明させるとか……」
「彼女は今現在、捜索中ですが、出来れば……蓬生と警察より先に見つけ出したいですね」
「街の『ハゲタカ』って情報屋を使えば、金はかかるけど早いかも?」
「情報屋も一応あたってみますが、十六歳の少女の行動を把握するのは大変かもしれません」
「……確かに」
犯罪者の動きは情報屋も分かるだろうけど、最近の若い子の動きを分かるかというと、難しそうでもある。
こうした時に役に立ちそうなのがシズクなんだけど、流石にシズクにばかり頼ってもいられないだろう。
「おや? コラム将校ですね」
「え?」
マンションの駐車場からメイデルが出てくるところだった。
メイデルを目視した瞬間から、体に変な動悸がし始めた。息が上がって胸の奥が苦しい感じがする。
静谷さんが車を停めた瞬間、車のドアを開けてメイデルに駆け出して飛びついたのは、自分でもよく分からない。
「サキさん……!」
「すっごく、抱いてほしい」
あれ? おかえりと言おうと思っていたのに、変なことを口走ってしまった気がするし、メイデルの首に手を伸ばして背伸びしてしまっているのは、何故なのか???
体が自分のものじゃないように、メイデルが少しかがんで顔を近付けると唇を奪っていた。
こんな場所で駄目だと、頭では分かっているのに、熱に浮かされたようにメイデルを求めようと必死になってしまう行動を止められない。
「わたしはここで一旦、帰らせていただきますね。資料はこちらの方にありますので」
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「サキさん……抑制剤が、あまり効いていませんね」
「そんなの、どうでもいい……っ、はやく」
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