おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

文字の大きさ
20 / 45
一章

青龍

しおりを挟む
 朝、目を覚まして一番に自分の指を見て、指輪がはまっている事で、昨日の事は夢では無かった事に多少の混乱をしつつ、顔を洗う為に鏡を見たら、自分の姿が変わっていた事に、可愛らしいとは言い難い悲鳴を上げた。

「なっ、なーっ!!!!」

 何だこれ? 何だこれぇぇぇ!?
 大口を開けてポカンとした私の姿は、記憶を断片的に思い出した私の記憶にある物だった。
 あの幼い少女がそのまま大きくなった姿で、ストレートの髪もゆるくふわふわしたウェーブのある髪になっていた。
 大きくてパッチリとした目は、美少女過ぎやしないだろうか?
 
「どうした? 何かあったのか麻乃」
「み、みみ、御守さん、私の姿が……別人なのですけど? いや、別人と言うか、昔に戻っていたというべきか」

 隣りの部屋という事もあり、御守さんがやってくるのは早かった。
 説明をする私に、フッと笑って私の髪をわしゃわしゃと撫でくり回した。

「麻乃。大丈夫そうだな」
「あ、はい……昨日はお世話をお掛けしたようで……」

 私はぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛てぐしで直して、自分の髪質と今の髪質の違いに、変わりがない事に驚く。毎日触っていた髪質と変わらない……変わったのは見た目だけのようだ。
 
「姿は元に戻ったのは、昨日、水を通じて青龍に攻撃されたせいで、麻乃に掛けられた守りが解けてしまったのだろう」
「青龍って、この間話してくれた海系の妖の王様みたいなものでしたっけ?」
「そうだ。水気のある物の所へ現れる事も、あいつの得意なところだからな。足を掴まれただろう?」

 そう言われて、足首を見れば手の痕が赤くハッキリ付いている。
 
「足を掴まれた時に、あの方の守りは壊されたようだ」
「あ……守りが無くなったという事は、私は、何者か分かるって言ってましたよね? 私は何なんですか?」
「麻乃は、麻乃のままだが……そうだな。もう麻乃は泡になる事は、無い……と、思っている」

 御守さんが私の左手を取って、指輪を指でなぞった。
 気恥ずかしさに口をつぐむと、御守さんは私の指輪にそのまま唇を落としたのだから、私が硬直して動けなくなったのは仕方がない事だろう。
 流石、外国人……ううっ、恥ずかしさでまた悲鳴を上げそうだ。

「麻乃。昨日の青龍は、麻乃の母親側の親戚になる」
「ママ……じゃない、お母さんは、人魚だと言っていた気がします」
「人魚というカテゴリーに、彼女を入れて良いのか不明なところだが、海の妖同士が交わって生まれたのが、麻乃の母親だ。人魚も多少は混じっている為に、『恋はするな』というのが人魚交じりの娘には昔から言われている」
「失恋すると、泡になって消えてしまうから?」

 御守さんは頷き、私も人魚交じりの母から生まれたのならば、人魚の『恋はするな』という事が当てはまるのだろう。
 人魚の妖は、とても生き辛い世界では無いだろうか? と、少々自分を含めて思ってしまう。

「麻乃は、どういう訳か人魚の能力が子供の頃から強く出ていて、辛い事がある度に泡が体から出ていたから、こっちはヒヤヒヤさせられたものだ」
「えーと、それは申し訳ありません?」
「妖同士の子供は滅多に生まれない上に、能力がどう出るかが分からない。麻乃の母親は、水系の妖ではあるが、春を司る青龍の能力が色濃く出た女性だった。彼女の周りはいつも春めいていたな」

 青龍が春を司る妖だというのは、初耳だけれど、春の能力とはどういうものだったのだろう?
 私が不思議そうな顔をしていたせいか、御守さんは「春の能力は、草木を芽吹かせる程度の可愛らしいものだ」と、教えてくれた。
 それは、役に立つ能力なのだろうか? と、疑問でもある。

「逆に麻乃の父親は、オレを眷属けんぞくにした白虎でな。秋の能力を持っていた。二人はまさに相反する能力で、青龍と白虎は仲が悪いことからも、二人が結ばれる事は無いと思っていた」
「ロミオとジュリエット……」

 私の言葉に御守さんはおかしそうにクククッと笑って、「あの方も彼女も、そんな可愛らしいものでは無いな」と目に涙を溜めるほどだった。
 私の両親はどんな人達だったのか、益々疑問に満ちてきそうだ。
 御守さんは指で涙を拭って、私を見下ろす。

「麻乃は、血脈からいけば、白虎の能力が強く出ると思われていたが、人魚の能力が出たからな……」
「他の能力は出ない感じなのかな?」
「それは、麻乃の能力次第だ。今の所は、感情の沈み方で泡になるくらいだな」
「役に立たない……」
「まぁ、妖同士の子供は、仕方がない」
「仕方がない?」
「言っただろう? 妖は、人の想いや恐怖、見間違い等で、妖としての個を確立させられて誕生する。麻乃は今まで、人間達の中で生きにくく無かったか?」

 生きにくい……透明人間のようになってしまうのは、私が妖としての個が無かったからだろうか?
 守りがあったせいでもあるけれど、姿形が変わった今の私なら、一目見れば忘れないような容姿をしていると思う。
 自分自身を自画自賛するつもりはないけれど、まだ自分の姿に見慣れていないから言える。
 私の元の姿が可愛い……と、言えるだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...