19 / 45
一章
人魚
しおりを挟む
御守さんに抱き上げられて、嬉しいと思う心と胸の奥で切ない気持ちが渦巻いている。
御伽噺の人魚姫のようだと、自分の中にストンと合致した気がした。
報われない恋に身を焦がした初恋は泡と消えた人魚姫……私は、どうして同じ状態になっているのだろうか?
御守さんの事が___好き?
ああ、言葉がしっくり胸に落ちてくる。
「麻乃……」
私を抱きかかえる御守さんの顔を見て、また涙が溢れて頬を伝う。
いつからこの気持ちが芽生えた物なのか、私には解らない。でも、この気持ちが私の体の中から泡を出している。
相変わらず、体は水に溶けるように濡れて、抱きしめている御守さんの体も濡らしていた。
「麻乃、手に何を……?」
そういえば、足首を掴まれた手を引き離すのに、何かで殴りつけた時に咄嗟に手に持ったのだった。
懐中電灯と一緒に落としたと思ったのに、こちらは手に持ったままだったらしい。
御守さんが私の手からそれを取り上げると、先程のオルゴールだった。
「随分、懐かしいな」
「開けな、いで……」
私が言葉を出したのと同時に、オルゴールの曲が短く鳴り蓋が開けられていた。
私の壊してしまったシロツメクサの指輪に、胸がまた痛んだ。
「覚えているか? この花畑で一緒に遊んで楽しかったよな」
眉を下げたまま笑う御守さんに、一緒に遊んだと言われて一緒に遊んだのは写真の子でしょう? と、思いながらも、目を瞑ると私の中にシロツメクサの花畑が思い浮かび、それは鮮明に蘇ってくる。
白いシロツメクサの花畑で、小さく可愛い声が「スイ」と呼べば、大きな手が頭を撫でて笑っていた。
シロツメクサを摘んで二人で花冠や指輪を作った。「お揃いね」と、大きな指にシロツメクサの指輪を付けて、私は笑った。
スイは「いつか本物を、君の薬指にはめてやろう」と、言って小さな私の手を取って、シロツメクサの小さな指輪を私の指にはめてくれた。
「スイ……スイ、私も、楽しかった」
「ああ。また行こう。だから、まだ麻乃のままでいてくれ」
「私は、私だ、よ……」
少しだけ思い出してきた。
私がかつて、可愛らしい女の子で、御守さんを「スイ」と呼んでいた事。
今の私と女の子は姿形が、まったく似ていない。
私は、誰だろう?
私は何だったのだろう?
ゴボッと、水の中に沈むように口から水が溢れてきた。
目に映る物も水中から見ているようだ。
「麻乃ッ!! 駄目だ! お前を悲しみから救うから……消えるな!」
悲しみ? これは悲しみで起きた現象だろうか? 救われるとしたら、それは御守さんが私を好きでいてくれる事が条件になるだろう。
だって、これは……これは、何だっただろう?
思い出そうとして、赤いシャツに強気な目をした美人な女性を思い出す。
あの地下にあった箪笥の服の持ち主、私の、母親。
母は言った。
『人魚姫が不幸なまま終わるなんて、有り得ないのよ?』
『だから、ママは、幸せな人魚姫になったわよ!』
『あなたも幸せになりなさい! パパとママみたいに!』
幸せそうな笑顔で、母は私に自信満々に自慢した。
私も、幸せな人魚姫になれるだろうか?
手を伸ばして、御守さんの頬に触れると、私の手はもう透明に透けていた。
御守さんの手が私の手に重なって、水がパシャンッと音を立てた。
「麻乃……ッ」
「み、もり、さ……好き、で……」
告白をしようとして、子供の頃の記憶が、少しずつ紐解かれていく。
私が、こんなに好きだと思うのに、御守さんには想いが届かないと、胸が痛くなって泡になろうとしているのか、それを思い出した。
御守さんには、たった一人、愛した人が居たから……
子供の頃に、それを聞いて私は泣き喚いた。
両親も御守さんも困った顔をして、私を宥めたのだから、私の告白は無駄に終わるだろう。
その時も、私は泡になろうとした。
そして、御守さんがシロツメクサの指輪を私に作ってくれた。
「指輪を、君の為に、ずっと作って持っていた」
「え……?」
「麻乃、消えてしまったら、渡せなくなるぞ……それで良いのか?」
嬉しいけど、胸が痛い。
私が泡になって消えないようにする為に、用意してくれていたんだろうな……そう思うと、迷惑を掛けてごめんなさいと、口が震える。
声を出したら、泣き出すか、泡になって散ってしまいそうだ。
私が首を左右に振ったのを、どう捉えたのか、御守さんは泣きそうな顔で笑って、頷いた。
頬に触れていた手にしっかりと御守さんの手の温度が感じられて、透けていた手は肌色に戻っていた。
そして、私の薬指に指輪が光った。
御伽噺の人魚姫のようだと、自分の中にストンと合致した気がした。
報われない恋に身を焦がした初恋は泡と消えた人魚姫……私は、どうして同じ状態になっているのだろうか?
御守さんの事が___好き?
ああ、言葉がしっくり胸に落ちてくる。
「麻乃……」
私を抱きかかえる御守さんの顔を見て、また涙が溢れて頬を伝う。
いつからこの気持ちが芽生えた物なのか、私には解らない。でも、この気持ちが私の体の中から泡を出している。
相変わらず、体は水に溶けるように濡れて、抱きしめている御守さんの体も濡らしていた。
「麻乃、手に何を……?」
そういえば、足首を掴まれた手を引き離すのに、何かで殴りつけた時に咄嗟に手に持ったのだった。
懐中電灯と一緒に落としたと思ったのに、こちらは手に持ったままだったらしい。
御守さんが私の手からそれを取り上げると、先程のオルゴールだった。
「随分、懐かしいな」
「開けな、いで……」
私が言葉を出したのと同時に、オルゴールの曲が短く鳴り蓋が開けられていた。
私の壊してしまったシロツメクサの指輪に、胸がまた痛んだ。
「覚えているか? この花畑で一緒に遊んで楽しかったよな」
眉を下げたまま笑う御守さんに、一緒に遊んだと言われて一緒に遊んだのは写真の子でしょう? と、思いながらも、目を瞑ると私の中にシロツメクサの花畑が思い浮かび、それは鮮明に蘇ってくる。
白いシロツメクサの花畑で、小さく可愛い声が「スイ」と呼べば、大きな手が頭を撫でて笑っていた。
シロツメクサを摘んで二人で花冠や指輪を作った。「お揃いね」と、大きな指にシロツメクサの指輪を付けて、私は笑った。
スイは「いつか本物を、君の薬指にはめてやろう」と、言って小さな私の手を取って、シロツメクサの小さな指輪を私の指にはめてくれた。
「スイ……スイ、私も、楽しかった」
「ああ。また行こう。だから、まだ麻乃のままでいてくれ」
「私は、私だ、よ……」
少しだけ思い出してきた。
私がかつて、可愛らしい女の子で、御守さんを「スイ」と呼んでいた事。
今の私と女の子は姿形が、まったく似ていない。
私は、誰だろう?
私は何だったのだろう?
ゴボッと、水の中に沈むように口から水が溢れてきた。
目に映る物も水中から見ているようだ。
「麻乃ッ!! 駄目だ! お前を悲しみから救うから……消えるな!」
悲しみ? これは悲しみで起きた現象だろうか? 救われるとしたら、それは御守さんが私を好きでいてくれる事が条件になるだろう。
だって、これは……これは、何だっただろう?
思い出そうとして、赤いシャツに強気な目をした美人な女性を思い出す。
あの地下にあった箪笥の服の持ち主、私の、母親。
母は言った。
『人魚姫が不幸なまま終わるなんて、有り得ないのよ?』
『だから、ママは、幸せな人魚姫になったわよ!』
『あなたも幸せになりなさい! パパとママみたいに!』
幸せそうな笑顔で、母は私に自信満々に自慢した。
私も、幸せな人魚姫になれるだろうか?
手を伸ばして、御守さんの頬に触れると、私の手はもう透明に透けていた。
御守さんの手が私の手に重なって、水がパシャンッと音を立てた。
「麻乃……ッ」
「み、もり、さ……好き、で……」
告白をしようとして、子供の頃の記憶が、少しずつ紐解かれていく。
私が、こんなに好きだと思うのに、御守さんには想いが届かないと、胸が痛くなって泡になろうとしているのか、それを思い出した。
御守さんには、たった一人、愛した人が居たから……
子供の頃に、それを聞いて私は泣き喚いた。
両親も御守さんも困った顔をして、私を宥めたのだから、私の告白は無駄に終わるだろう。
その時も、私は泡になろうとした。
そして、御守さんがシロツメクサの指輪を私に作ってくれた。
「指輪を、君の為に、ずっと作って持っていた」
「え……?」
「麻乃、消えてしまったら、渡せなくなるぞ……それで良いのか?」
嬉しいけど、胸が痛い。
私が泡になって消えないようにする為に、用意してくれていたんだろうな……そう思うと、迷惑を掛けてごめんなさいと、口が震える。
声を出したら、泣き出すか、泡になって散ってしまいそうだ。
私が首を左右に振ったのを、どう捉えたのか、御守さんは泣きそうな顔で笑って、頷いた。
頬に触れていた手にしっかりと御守さんの手の温度が感じられて、透けていた手は肌色に戻っていた。
そして、私の薬指に指輪が光った。
4
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる