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絶妙なギャグセンス
しおりを挟む「早く私を殺してくださいまし!!!」
喉が張り裂けんばかりに叫んだところで、現実は変わらない。
私は侯爵令嬢、ロゼリア・フォン・ヴァインベルク。そして、この世界に転生してきたカプ厨だ。しかも、悪役令嬢に。
なぜ、こんなことになったのか。
私が死ぬことで、推しカプである主人公と婚約者がハッピーエンドを迎え、さらに悪役令嬢の兄であるシスコン最強お兄様の苦しみが残り続けるという、最高の展開になるはずだったのに。
この体を乗っ取って早数年、私は来るべき「不慮の事故」による退場イベントを心待ちにしていた。原作通り、ストーカーに追われて転落死。これぞ、推しカプの未来を拓く私の使命!
だがしかし、神は私を見放した。いや、もしかしたら、この悪役令嬢のギャグセンスが私に乗り移ってしまったのかもしれない。
原作では、ストーカーに怯え、常に俯きがちだったロゼリアはどこへやら。私は今日も元気に、執事とメイドを巻き込んでコントを繰り広げている。
「ロゼリア様、本日もご機嫌麗しゅうございますね」
執事のセバスチャンが、にこやかにティーカップを差し出す。その顔は、ほんのり引きつっているが、気にしない。
「セバスチャン、今日の紅茶はいつもより香りが高いわね!まるで、そう、セバスチャンの眉間のシワくらい深いわ!」
私は満面の笑みで答える。セバスチャンは一瞬フリーズし、その眉間のシワがさらに深くなった。よし、今日も完璧なボケだ。
「わたくし、ロゼリア様は本当に面白い方だと思いますわ!」
メイドのリーゼロッテが、キラキラとした目で私を見つめる。彼女は私が何を言っても笑ってくれる、最高の聞き役だ。
こんな調子だから、原作で私を執拗に追いかけるはずのストーカーたちも、最近はすっかり影を潜めてしまった。
一度など、私の部屋の窓の外に張り付いていた最強ストーカーである兄の友人が、私が繰り出す渾身のギャグに吹き出してしまい、木から転落するという事件まで発生した。それ以来、彼らは私に近づく際は、必ず防音対策を施しているらしい。
そんなある日、兄が珍しく私を訪ねてきた。普段は侯爵家の仕事で忙殺されているはずなのに。
「ロゼリア、最近は元気そうだな。ストーカーの件も、落ち着いているようだし」
兄は優しい声で私に話しかける。その顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいた。
「ええ、お兄様のおかげですわ!最近は、わたくしのギャグセンスが爆発しすぎて、ストーカーも寄り付かないようですわ!」
私が胸を張って言うと、兄は苦笑いを浮かべた。
「それは......ある意味、良かったのか?」
「もちろんですわ!お兄様の心配が一つ減ったのであれば、本望です!」
「ロゼリア......」
兄は何か言いたげな顔をしていたが、結局何も言わずに部屋を後にした。
私は知っている。両親が、兄の小遣いを横領し、私につけていた護衛を勝手に解雇していることを。そして、そのお金を領地の農業発展に使っていることを。
なんていい両親なんだろう。いや、違う。娘のことなんてこれっぽっちも考えていない自己満足の両親だ。
しかし、私が元気である限り、両親は「強い子だから大丈夫」と、相変わらず私に関心を示さないだろう。
私は、早く死にたい。推しカプのハッピーエンドのために。兄の苦しむ姿を見るために。
だが、このギャグセンスが邪魔をする。私が生きている限り、きっとこの物語は喜劇へと変貌してしまうだろう。
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