悪役令嬢、ギャグで死ねない

スイレン

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ボケの応酬

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困った。ストーリーから離脱しなければならないのに自分がギャグを言うことで、鍵となるストーカーを自分で遠ざけているという本末転倒なことになっているのはとってもわかってはいる!!

私は作品のために死にたい。なのにギャグで溢れるこの世界も捨て難い!私、ギャグというものをとっても愛しているの!

だけど、ストーリー上早く退場しなければ!!


「早く私を殺してくださいまし!!!」

今日も叫びは虚しく響く。私が死ぬどころか、退場を邪魔する要素ばかりが増えていく。


そしてそれはある日、厄介なる者が突然目の前に現れた。

ある日の午後。いつも通り、執事のセバスチャンとメイドのリーゼロッテを巻き込んだ「紅茶と爆笑の茶会」を繰り広げていると、ノックの音とともに兄様が入室してきた。


「ロゼリア、すまない。忙しさにかまけて、また父上と母上が護衛を勝手に減らしたと知ってな……」
兄様の顔には、多忙による疲労に加え、両親への隠しきれない怒りが滲んでいた。


「え、またですか? 相変わらずですね、あの人たちは。わたくしが強い子だから大丈夫だとでも思っているのでしょうか」

「ああ。だが、もう心配ない。最強の護衛を確保した」
兄様はそう言って、背後に控える長身の男性を前に出した。


その人物は、見覚えがありすぎる、そして聞きたくもない肩書きを持つ男。

最強ストーカーの1人である兄様の友人、カイン・ディランだった。  

「カイン……?!」
私は思わず、紅茶を吹き出しそうになった。

カインは端正な顔立ちを一切崩さず、深々と優雅な一礼をしてみせた。

「ご機嫌麗しゅう、ロゼリア様。この度、兄上――もとい、私の友人より、貴女様の『ストーカー兼護衛』という、名誉ある役職を拝命いたしました」

「ストーカー…兼、護衛?」

「そうだ、ロゼリア」 
兄様は深刻な顔で語る。


「彼はロゼリアの『ストーカー』として今までロゼリアのことを見張ってきた上に、他のストーカーたちからも一目置かれていた。それなら護衛とすることで他の奴らも今後の行動を弁えるだろうし、護衛として近くに置くなら完璧なはずだ。」

だんだん兄が何を言っているのか分からなくなる。

「しかも、給与を支払おうとしたら、『ロゼリア様の日常を最も近い場所から観察できるなら無給で構わない』と宣いやがってな。友人でなければ、とっくに張り倒しているところだ」


ドン引きである。


最強ストーカーが、まさかの兄公認、無給の職務として私の監視役になった。


「お、お兄様……わたくしの尊厳はどこへ行きましたの?」

「尊厳は確保されている。カインは規則を破るストーカーを容赦なく葬る、ルール順守派だ。そして、私は彼がロゼリアに危害を加えることは絶対にないと知っている。彼は、私の友人だ」
ロゼリアは深く、深く、深すぎて底が見えないほどのため息をついた。


私が死んで推しカプのハッピーエンドを迎えようと企んでいることを、兄は知らない。
だが、兄の過剰なシスコンと、この最強ストーカーの歪んだ忠誠心が、私の退場イベントを徹底的に阻止しにかかっている。 


そもそも私を殺すはずのストーカーが、護衛をやって他のストーカーから私を護りつつストーカーを続ける。何を言ってるのかさっぱり分からない。


これはもう、ギャグ以外の何物でもない。
 
ギャグで来るなら、ギャグで返すべきだ。ギャグを愛するものとして、それが礼儀だ!!
ストーリーを進めるのはまた後で考えればいっか!!

「……わかりましたわ」私は覚悟を決めた。

「お兄様がそこまでおっしゃるなら、了承しましょう。ただし、条件があります」

「何だ?」

「彼の言動は全て、わたくしのギャグの糧とさせていただきます。彼の観察日記は、わたくしのコント台本に生まれ変わるでしょう」

カインは、それを聞くと不敵に笑った。

「望むところです、ロゼリア様。わたくしめの全てを、貴女様の喜劇に捧げましょう。さあ、本日のコントの題材は何にいたしましょうか? やはり、昨日の『兄上の靴下が片方だけ青かった件』を深掘りすべきかと」

く、狂ってやがる!!
なんておもしれぇ男なんだ!!彼はストーカーだから、一度もまともに話したことはなかったがなかなか面白い!!そして、なぜお兄様の靴下を知っているのか?!もう全てが面白い!
これは、私も狂わなければ失礼ってもんですわよ!!

「それだわ! セバスチャン、リーゼロッテ、カインの観察眼をさらに鋭くするために、彼に『片方だけの青い靴下』を着用させて!」

こうして、侯爵令嬢ロゼリアの「早く死にたい」という悲壮な願いと、「最強ストーカー兼護衛によるボケの応酬」というコミカルな存在が同居する、ねじれた日常が始まった。
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