公爵令嬢は破棄したい!

abang

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公爵令嬢の友人達

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生徒会の仕事が終わるなり忙しそうに部屋を出たテオドールの背中を寂しそうに見送ったセシール。
クロヴィス・ラウル・ランスロット辺境伯子息はそんなセシールが一瞬だけ見せた寂しそうな表情に胸を痛めた。


アルベーリア国の最北側にある辺境伯家の嫡男であるクロヴィスはセシールとは幼い頃から公務や付き添いでよく顔を見て合わせていた上にとても気が合う。

父同士が盟友であり、幼馴染でもある所為で他の者達よりも会う機会が特に多かったので二人もまた幼馴染と言えるだろう。

幼馴染といえばテオドールもそうだが、彼といえば近頃セシールを放ってエミリー伯爵令嬢の相談とやらに乗り甲斐甲斐しく世話を焼いているようだ。

セシールは気高くいつも堂々としているが、どこか儚いその姿は手を離せば遠くに行ってしまいそうで、どうしてテオドールがこうも目を離していられるのか不思議だ。

それこそ月にでも帰ってしまうのではないかと思う時がある。


「クロ?どうしたの?そんなに考えこんで」


さっきまで扉を見つめていた筈のセシールが俺の顔を覗きこんでいるあまりの近さに咄嗟に驚く。


「なっ!セシール……っ」

「何かしら。さっきから声をかけているというのにクロったら返事もして下さらないのよ?」

赤い頬を隠す為に顔を背け、後ろの机まで歩きながら誤魔化すように悪態をつく。


「少し考えごとをしていただけだ。セシールお前いつまで作業するつもりだ?早く帰るぞ」

「あなたこそ早く準備なさって?私は殿下をお待ちしているのよ」


クロヴィスの妙に慌てた態度にクスクスと笑いながら言ったセシールのそんな悪戯な姿さえも美しく、この世にいる男で彼女を愛してしまわない奴はいるのかと考えた。


ーーーー


一方、生徒会の仕事を済ませてテオドールが足早に向かうのは近ごろ令嬢達に虐められているというエミリーの所だ。


セシールとはまた違う彼女の可憐さは男として庇護欲をそそるものがあり、セシールだったら露わにしないだろう女性の魅力をエミリーは武器としていた。

魅了の魔法に長けているらしいが、私や他の高位貴族に影響できる程強力な力は持たないと診断が下りているので安心だ。

周りに居ないタイプで、弱者を守らねばならぬという使命感からも近頃はエミリーとかなりの時間を過ごしている自覚はあるが、決してセシール以外の女性を愛してしまったわけではない。


「テオ様ぁ……私、待っておりましたの」

「皆に虐げられる私の話をこんなに優しく聞いて下さるのはテオ様だけなんです。会いたかった!」


彼女は距離の詰め方が上手いが今のところ不思議と悪い気はしない程度だ。けれどもセシールに申し訳なくなり身を離す。

決してエミリーを愛していないと行動で示したつもりでもある。


「テオ様?」

「今日は何があったの?私でよければ力になろう」


やんわり拒絶したはずの押し付けられた柔らかいものに心臓が止まりそうになる。

閨の知識はあるとはいえ、セシールとは婚前にそのような関係になる事を許されていない。

よって、経験が無くセシールではない他の女性であるとは理解していながらもどうすればいいのか分からない気分になる。


「今日は暴力を振るわれてしまって……」


震えながら話すエミリーは思い出したのか涙が出て止まらないようで不憫だ。

「では、医務室まで連れていこう」

「あの医務室は先生が急用で留守だと張り紙だけがありました……。怪我の場所が場所なので……頼れる方がテオ様しかいなくて」


聞けば怪我の場所は太腿の内側だという。

未婚の令嬢だ。いけないとは思いつつ他の人には見られたく無いと泣き声を上げ続ける彼女を放ってはおけなかった。

空の様な瞳を濡らし、亜麻色の髪を片方に寄せて恥ずかしそうにドレスをゆっくりと捲る仕草は男性にとっては刺激的で、ふたりの間に秘密ができたような罪悪感に駆られる。


「あ、いや……やはり女性の教師を呼ん「いえ、私を虐げている相手にこのようなはしたない姿をみせられません!」


きっと酷いアザがあるから確認して欲しいと令嬢とは思えぬはしたない姿で両脚を開ける姿はひどく背徳的だった。


男の本能だろうか、頭が真っ白になり何故か言われるがままに引き寄せられ、太腿の間に顔を寄せた所で教室の扉が開く。


「殿下……?」


(今……放課後とはいえ学園内であることをすっかり忘れていた)


教室を開けたのは古くからセシールとの共通の友人、セシールの親友であるマチルダ・リダ・メーベル侯爵令嬢であった。



マチルダは女性の泣き声が聞こえ通りがかった教室を開けた。

鮮やかな赤い髪に赤い瞳、強い魔力のおかげで魔女だと罵られ虐められていた幼少期。大人子供関係なく親友であるセシールが私よりも小さい体で守ってくれていたあの時の背中を思い出したからである。


自らがセシールに助けられていたようにマチルダも理不尽に虐げられている者を助けてあげたかった。
ただそれだけの善意だったが、すぐに後悔した。


目を見開くテオドールの少し乱れた髪は、はしたなく開く彼女の両太腿のあいだからのぞいており、またエミリー嬢の染まった頬と涙で濡らした顔が生々しく思わず目を逸らした。


セシールはまだ色恋事に疎いが、テオドールをとても大切に思っている事を知っているし、マチルダ達もまた古くからの友人としてテオドールに信頼を寄せていた。

なのに、皆が学ぶべき学園でセシールもどこかに居るはずのこの学園で淫らな行為をしているだなんて……。

驚きと同時に腹わたが煮えくりかえる程の怒りに包まれマチルダは自分の魔力が止めどなく溢れて出るのを感じた。


(セシールをこんな形で裏切るなんて……!)


魔力を感じたのか、どこか遠くで生徒会帰りのはずのセシールとクロヴィスの声がした気がした。


こちらに顔を向けたまま焦って頭を整える殿下の向かいでほんの、ほんの微かにエミリー嬢が笑ったような気がしてゾッとしたと同時に思考は完璧に怒りに飲み込まれた。


(ああ、クロヴィスどうかセシールを連れてこないで)


それでなくともこのまま王妃になったとしても、女神の化身だと讃えられる事も、この先にはまだたくさんの辛い事があるはずなのに……



(こんな形でセシールを傷つけないで。お願い)
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