8 / 75
公爵令嬢は次期公爵
しおりを挟むノーフォード公爵家の執事として三十五年間もの間、現当主マケールに仕えているスティーヴはマケールとはかつての戦友であり自分よりひとつだけ歳上の彼をとても尊敬している。
若くして国王になったマケールの父は、彼が十六歳の時に病床に伏して弟君を新しい国王に命名し、自身は公爵として新たにノーフォードという名を授かり臣下として降家した。
マケールが二十歳の時に十四代国王、当時のノーフォード家当主だった父君を失くした際には特に忙しくしていたがその時もまた共に奔走した。
それでも妻ディアーナとセシールへの溺愛ぶりは屋敷中の皆が知っている程だった。
月の女神の力と王家の魔力を併せ持つセシールもまたマケールを超える強さを持つ正真正銘のノーフォード家の次期当主である。
スティーヴはマケールを含めたこのノーフォード家の人達がとても好きだ。
ノーフォード家は王家の血筋でもある上に、それを差し引いても王家からの信頼も厚い。
マケールとディアーナの圧倒的な強さや、人柄に憧れ集まった使用人達や騎士達もまた腕に自信のある者達ばかりだが、ノーフォード家は危険を伴う仕事も多いので生き残る為に皆が常に自分を磨き、鍛えている。
その中でもマケールによって本日選ばれた者達は次期当主であるセシールを守り、彼女の手足となる選ばれし精鋭である。
「お帰りなさいませ、セシールお嬢様」
「スティーヴ、ただいま」
笑顔で返事をするセシールが日増しに美しくなり、立派な淑女になっていることに感動しつつマケールから命じられた通りセシールを執務室に案内する。
「当主様がお待ちです」
扉を叩く姿ですら気品漂うセシールの姿はマケールにとても似ていてスティーブは思わず涙ぐんだ。
「お父様、ただいま戻りました」
「入っていい」
セシールがどことなく緊張した面持ちなのは今日の日の意味をきちんと理解しているからなのだろう。
「セシール、お前の部下となる者だ。皆はお前に命を捧げ、お前は皆の命を預かるという事だ。直属の部下となる。今までのように私の許可を取らなくてもよい」
セシールがしっかりと頷いたのを確認して、マケールは話を続ける。
「そしてこの権限を与えるということは、セシールが次期当主としてノーフォード家を担うという意味でもある」
「はい。次期当主としてより一層気を引きしめて参ります」
「そしてこれは父親としての言葉だが……セシール、お前が幸せであることが何よりもいちばん大切だ。危険が多い仕事ではあるが必ず私よりも長生きしてくれ」
マケールの言葉は娘を愛するただの一人の父親だった。
そんな二人を見てより一層、気を引きしめて守ることを心の中で誓ったのはスティーヴだけではないはずだ。
「お父様……」
公爵家の当主という立場を理解しているセシールは、普段は公私混同せず仕事には厳しいマケールの父親としての言葉に驚きながらも、嬉しそうに美しいアメジストの瞳を潤ませて極上の笑顔を見せた。
そこはさすが現当主と言ったところか、マケールは照れ隠しに咳払いを一つした次の瞬間にはもう当主の顔になっていた。
「では紹介しよう。全員紹介するには時間かかりすぎるので、それぞれ部隊の長を紹介する」
マケールよりセシールに紹介されたのは、公爵家でも精鋭の者達でなるべくセシールの年齢に合わせて選ばれた者達だった。
殆どがセシールやマケールに拾われた者か、昔からこの屋敷で育った者で、セシールも知った顔ばかりで安心した様子だ。
侍女兼護衛には双子のエイダとエイミー。
茶髪に茶色の瞳の無表情な美少女で、とある貴族に乱暴されそうな所をセシールに助けられ拾われて以来、セシールが彼女達の全てとなり、この瞬間に選ばれる為に努力してきた二人だ。
侍女としても優秀だが、両方とも銃やナイフに長け身体能力も良い為に護衛も兼ねて選定された。
セシールの為に作られた騎士団の団長に選ばれたのはまさかのギデオンの弟である、ダンテ・バーナヴィアスであった。
これにはセシールも驚いたようで、目を丸くした。
「何故、あなたが……」
「彼は私が預かっていたんだ」
飄々とした表情でマケールが言った。
無能な兄を溺愛する余り愚行すらも擁護する父と母に愛想を尽かし絶縁した後、家を出たダンテはたまたま出会ったマケールに惚れ込み此処に来たのだと言う。
「ダンテと申します。ファミリーネームは返上いたしました。お嬢様に騎士の誓いを受け取って頂きたく存じます」
「……よいでしょう、父の人選を疑う必要はありません」
そうしてダンテはその場で騎士の誓いを捧げ、セシールはそれを受け取った。
三十人のメイドに、馬丁を二人、侍従を三十人
そしてそれらをまとめるのが、
メイド長のアンと侍従長のリアムである。
双方勿論、幼い頃よりノーフォードで訓練された手練れであり二人は魔法が得意である。
その後も次々と挨拶を終え、皆は本日よりセシールに譲渡された本邸の隣にある別邸で生活をすることになる。
「皆、我が娘にしっかりと仕えて欲しい」
「御意!お嬢様にこの命を捧げます!」
スティーヴは若者達の声を聞きながら自分がマケールの精鋭に選ばれた日を思い出し、今日というめでたい日に浸った。
110
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる