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公爵令嬢と王妃様
しおりを挟む学園が終わり、ひと足先に王宮に到着したセシールが案内されたのは王妃のお気に入りの温室であった。
王宮内で刺客に会う事は滅多に無く、幼い頃からセシールをとても可愛がってくれている王妃の顔を見るととても安心した。
「セシール、よく来てくれたわね」
「王妃様!少し早く着いてしまったようです」
苦笑したセシールに王妃は眉を顰め尋ねる。
「愚息が失礼をしていない?テオはまだあの女生徒と親しくしているのかしら?」
「はい、良き友人だと聞いております」
「近頃、デボラ伯爵に良くない噂があるのよ」
それと……と不思議そうな顔で
「我が国で、光属性の魔法を持つのは王族と、かつて戦争中に民家が襲撃を受けた時、国の危機に平民から突如表れた治癒師のみ……」
彼女は聖女と呼ばれ、子も恋人も持つこともなく一生を終えたので子孫はいない。
「なのに、突然デボラ伯爵令嬢が光属性の治癒の力を覚醒させたらしいの」
正直セシールは個人的には全く興味の持てない話であったが王宮の人達は国王、王妃を初め皆がセシールに良くしてくれていた。
たとえ、テオドールとの仲が良好とは言えなくても大切な人達なのだ。なので王家や国の異常事態はセシールには人ごとではない。
「そうですか、お父様はそれについてはもう……」
「ええ。もちろん知っているわ」
ただそれはこの国に力を持つ者が集中していることになる。
近隣の国では急いで同盟を申し入れる国、月の女神や光魔法などのより強い魔法を持つ者を手に入れようと戦争を起こそうとする国もある。
そしていち早く、隣国を挟んで少し離れたセルドーラ国の王太子よりデボラ伯爵令嬢への求婚があったらしい。
光魔法の使い手であれば国としてはセルドーラに嫁がれてはかなりの痛手になると、エミリーをテオドールか、弟のラザールの婚約者、または妻を早くに亡くした王弟の後妻にすべきだと言う声まで上がっているという話だった。
ノーフォード家が権力では動かないのは知る人ぞ知る事実で、セシールとテオドールが結婚しなくても、ノーフォードが王家に反旗することはないという判断でもあるらしい。
「真偽の分からぬ話に王宮が左右されることはないけれど……セシール、あなたは本当に実の娘のように想っているの。だから世界がとても危険な状態であることを分かっていて欲しかったの」
「愛しているわ。くれぐれも気をつけてね」
と王妃はいつもの勝気で凛々しい姿見からは想像つかないほど弱々しく、心から心配そうにセシールを抱きしめた。
忙しかったのだろう少し痩せた王妃が心配でセシールは労わる気持ちが伝わるように抱きしめ返した。
「月の女神は迷信だとされているが、未だに信仰する国が多い。そして現実にセシール、君達は存在し魔法とは違う偉大な力を持っている」
「国王陛下……!ご挨拶を申し上げます」
セシールの登城を聞いて突然現れた国王に慌てて挨拶をするとまるで普通の父のように、ましてや実の子ではないセシールというのにセシールを心配そうに見た。
「今は形式などいらん。セシール、私も君の身を案じておる。マケールは周到な男だ、心配は無用だと思うがくれぐれも気をつけてくれ」
国の異常事態、王宮とて危険であると言うのにセシールのことばかりを心配する二人に胸が暖かくなり、目頭が熱くなる。
セシールは背筋を正し、最大の礼儀を持って二人を真っ直ぐに見つめた。
「両陛下に宣誓致します」
「ノーフォード公爵家、次期当主。セシール・グレース・ノーフォードは此度、国がどの様な状態に置かれましても、お二人の為に尽力致します」
ノーフォードが彼ら以外に命を捧げることはないと皆が知っているが、二人は王宮ではなく二人がセシールの大切な人としてノーフォードからの寵愛を受けたのだと正しく理解していたからこそ、心底愛おしかった。
「セシールありがとう。だけど貴方が命を落とすことは何があっても許しません」
「うむ、どうやら愚息が帰ったようだね」
「お心を砕いて下さり至極光栄で御座います」
セシールは暖かい心と引き締まった覚悟を持ち、温室を後にした。
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