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第2章 石の花
第21話 春の足音
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凜凜が雪英と顔を合わせることのないまま、雪は完全に溶けた。
後宮では春を祝う祭りが近付いてきていた。
凜凜と雪英が後宮で迎える初めての春だった。
春の祭りには皇帝が参列する決まりになっていたので、雪英はそれを待ちわびていた。皇帝に初めて拝謁出来ると、待ち望んでいた。
今はどうだろうか。
皇帝に拝謁する機会は、もうあった。最悪の出会いだった。
これ以上、雪英は皇帝に何か望むだろうか。
「凜凜様」
宮女が昼餉とともに、言葉を伝えてくる。
凜凜はすっかり凜凜『様』、などと呼ばれるようになっていた。
かつては雪英が特別側に置いてくれているだけで、下っ端もいいところだったというのに。
「春の祭りですが……その、古堂様が凜凜様は玄冬殿の中にいるように、と……その、陛下の厳命あれば別ですが……」
宮女は言いにくそうにそう言った。
「構いません。古堂様にそう伝えてください」
皇帝には呼ばれたときに春の祭りに出たくないと言っておけばよいだろう。
別にそれを気にするような人でもあるまい。
凜凜は気付けばすっかり皇帝に呼ばれることに慣れっこになっていた。
――こんな私を雪英様がお怒りになるのも無理はないわ。
時たま、自害の二文字が頭をよぎるようになった。
しかし凜凜が死んだところで、それで雪英の気が晴れるだろうか。
どうせ皇帝は凜凜の代わりを雪英には求めまい。
下手すれば、凜凜を迫害した罪を被せられる可能性だってある。
どうしようもなくがんじがらめになっている自分がいた。
――二君に仕える、とはこういうことを言うのかしら。
どこか自嘲的に凜凜はそう思った。
雪が止んだので、輿は要らないと凜凜は皇帝に言った。
皇帝はその意を汲んでくれた。
迎えの女官と宦官が徒歩で来るようになった。
夜の外はまだ少し寒かった。
「すっかり春めいてきたな」
そう言いながら皇帝は房に飾られていた花の枝を凜凜に差し出した。
凜凜はどうしていいかわからずにただそれを受け取った。
皇帝は花の枝を抱える凜凜を、満足そうに眺めた。
「ああ、よく似合う」
「……お戯れを」
こんな褒め言葉も栄華も、与えられるべきは雪英のはずだったのに。凜凜の心には重たいしこりが渦巻いた。
「あの、陛下、春の祭りなのですが……」
「ああ、そうだな、お前にそろそろ位階でも贈らねばな。祭りに出るのに箔もつこう」
凜凜は喉が詰まった。
「い、要りません……!」
凜凜の声は震えた。
これ以上、皇帝から何も受け取りたくはなかった。
「まあせいぜい正八品あたりから始めればよかろう」
正八品は古堂と同じ位階だ。
雪英の賢妃は正一品、まだまだ差はある。それでも、雪英は凜凜が位階をもらったと聞けば、また塞ぎ込むだろう。
後宮では春を祝う祭りが近付いてきていた。
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今はどうだろうか。
皇帝に拝謁する機会は、もうあった。最悪の出会いだった。
これ以上、雪英は皇帝に何か望むだろうか。
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宮女が昼餉とともに、言葉を伝えてくる。
凜凜はすっかり凜凜『様』、などと呼ばれるようになっていた。
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宮女は言いにくそうにそう言った。
「構いません。古堂様にそう伝えてください」
皇帝には呼ばれたときに春の祭りに出たくないと言っておけばよいだろう。
別にそれを気にするような人でもあるまい。
凜凜は気付けばすっかり皇帝に呼ばれることに慣れっこになっていた。
――こんな私を雪英様がお怒りになるのも無理はないわ。
時たま、自害の二文字が頭をよぎるようになった。
しかし凜凜が死んだところで、それで雪英の気が晴れるだろうか。
どうせ皇帝は凜凜の代わりを雪英には求めまい。
下手すれば、凜凜を迫害した罪を被せられる可能性だってある。
どうしようもなくがんじがらめになっている自分がいた。
――二君に仕える、とはこういうことを言うのかしら。
どこか自嘲的に凜凜はそう思った。
雪が止んだので、輿は要らないと凜凜は皇帝に言った。
皇帝はその意を汲んでくれた。
迎えの女官と宦官が徒歩で来るようになった。
夜の外はまだ少し寒かった。
「すっかり春めいてきたな」
そう言いながら皇帝は房に飾られていた花の枝を凜凜に差し出した。
凜凜はどうしていいかわからずにただそれを受け取った。
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「……お戯れを」
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「ああ、そうだな、お前にそろそろ位階でも贈らねばな。祭りに出るのに箔もつこう」
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「い、要りません……!」
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これ以上、皇帝から何も受け取りたくはなかった。
「まあせいぜい正八品あたりから始めればよかろう」
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