【完結】後宮、路傍の石物語

新月蕾

文字の大きさ
22 / 43
第2章 石の花

第22話 春の祭りを待ち

しおりを挟む
「い、要りません!」
 凛凛は慌てて位階を拒んだ。
「そうは言ってもな、その内、子が出来るかもしれぬのだ。その時、母親に位階がないとなれば、その子が困る」
「子……?」
 凜凜は考えもしなかったというようにその言葉をつぶやいた。
 皇帝は苦笑いをする。
「皇帝と閨を共にして子を望まないなど、いささか不敬であるぞ、凜凜」
 冗談めかして皇帝はそう言った。
「…………」
 自分が皇帝の子を、王子か公主を産むなど、考えたこともなかった。
 当然それを望まれての行為だというのに。
 思えば凜凜のような下っ端の宮女が皇帝の閨に出入りして、他の者達から少しも苦言を聞かないのは、皇帝が他の妃嬪を一切、相手にしていないからであろう。
 皇帝の世継ぎが産まれてこないなどということになれば、後宮も、その外も、混乱が起こるのは間違いない。
 そんな皇帝が唯一手をつけているのだ、宮女であろうと望みを託される立場になっていてもおかしくはない。
 まさか当の本人からも望まれているとまでは思いもしなかったが。
「だからお前に位階は贈る。それは決めていた」
「……それでしたら春の祭りが過ぎてからにしていただきとうございます」
 凜凜はやっとの思いでそう言った。
「……は、初めての春の祭りです。ずっと楽しみにしていました……。私は……一介の宮女として楽しませていただきとうございます」
「そうか、わかった」
 皇帝はすんなりとうなずいた。
 気付けばこうやって、お互いの落とし所をつけるのも、だいぶ上手くなってきていた。
 まるで本当に夫婦のようではないかと、凜凜は複雑な気持ちになる。
 そんな関係になることを凜凜は望んではいなかったのに。
 しかし、雪英の父、央角星は凜凜が皇帝の寵愛を受けるようになったことをむしろ喜んだようだった。
 央角星から凜凜へ大量の服飾品が届けられた。
 いつぞや、皇帝が言ったように、央賢妃が寵愛を受けるのも、央賢妃の手の者が寵愛を受けるのも、一部の人にとってはあまりかわりはないらしい。
 この男達にとってはそうなのだ、と凜凜はぶつけどころのない憎しみや怒りを募らせた。
 いっそ央角星が娘が蔑ろにされたと怒って凜凜を呼び戻すような男であればよかったのに、と凜凜は思わずにはいられなかった。

 それから二人は二、三の言葉を交わすと、いつもと同じ夜を過ごした。
 もう房事で泣きべそをかく凜凜はどこにもいない。
 一冬経ってその行為にもすっかり慣れてしまった。
 ただいつまでも、たとえば瞼を閉じたとき、その裏には雪英の顔が刻み込まれていた。
 その雪英の顔は泣いていたり怒っていたりした。
 そしてひどくやつれていた。
 最近の雪英の顔を凜凜は知らない。
 あたたかくなってきたというのに、伏せる時間が多いとは聞いていた。
 凜凜はひたすらに心を痛めたが、もはや彼女に打つ手はなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

天然の仮面を被った令嬢は、すべてを賭けて傭兵領主に嫁ぐ──愛と復讐を誓う、たったひとりのあなたへ

葵 すみれ
恋愛
没落貴族の令嬢パメラは、売られるように元傭兵の成り上がり領主に嫁がされる。 ──けれどそれは、たったひとつ残された自分自身を賭けた、最後の勝負でもあった。 冷たく迎えられた屋敷、素性を隠す夫。 けれど、微笑みの仮面の下で牙を研ぐパメラもまた、彼を利用する覚悟を秘めていた。 ただの偽りの夫婦──そう思っていたはずなのに。 重ねた誓いの先で、ふたりの心はひとつになる。 そして、交わした誓いはただひとつ。 「奪われたすべてを、取り戻す」 これは、仮面を被った令嬢と傭兵領主が、愛を知り、復讐に挑む物語。 (他サイトにも掲載しています)

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

聖女は歌う 復讐の歌を

奏千歌
恋愛
[悠久を生きる魔女①] *②と②´まとめました。バッドエンドです。後味が悪い部分があります。ご注意ください。  幼なじみの令嬢との婚約を解消して、新たに聖女と王太子が婚約した。といった騒動があった事は私には関係の無いことだと思っていた。  ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。  こんな森の中の辺鄙な場所に誰がきたのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。  そもそも、人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られている。  カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。 「エカチェリーナ、助けて!」  開けるなり飛び込んで来たのは、この国の王太子と婚約したばかりの聖女、ヴェロニカさんだった。  コテンと首を傾げた私に彼女が頼んできたことは、第二王子を救うことをだった。  彼女に同行して、城で私が見たものは…………

処理中です...