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第3章 雪は溶けて、消える
第29話 失脚
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とうとう凜凜が正五品に任じられ、世婦となった。
姓と位を合わせて張世婦と呼ばれるようになった。
凜凜という名が、春の雪のように、遠くに消えてしまうような気がした。
皇帝は凜凜のために新しい住まいを用意させようとしたが、凜凜は固辞した。
彼女は玄冬殿に居座った。
はたして雪英がそんな自分をどう思っているのか。
疎んでいるかもしれない。そう思うと、いっそ雪英手ずから追い出してほしかった。
しかし、雪英からの仰せは何もなかった。
まるで雪英に見える玄冬殿には張世婦など居ないかのようだった。
皇帝からは数名の宦官と女官を下賜された。
そしてその報せは青天の霹靂のように突如としてもたらされた。
「……お、央角星様、失脚……」
そう玄冬殿の門の前でつぶやくと古堂は倒れた。
長らく張り詰めていた彼女の精神と肉体は限界に達した。
宦官達が慌てて彼女を玄冬殿の中に運び入れた。
玄冬殿は、最後の支柱の力を失った。
「……わたくしが、至らないばかりに」
雪英はそうつぶやいて、目を閉じた。
あまり好きでもなかった父の顔が浮かんでは、一瞬のうちにかき消えた。
「……央家の旦那様が失脚って……どういうことなの?」
玄冬殿の私室で呆然と凜凜はその報せを持ってきた宦官に問いかけた。
宦官は皇帝から下賜されたばかりの宦官で、つい先日まで皇帝の元に仕えていた。
「……元々、陛下は央角星殿の汚職について調べさせておりました」
宦官は押し殺した声で凜凜からの問いかけに答えた。
「……そんな」
元々? いつから? 最初から? 雪英が後宮に入るのとどちらが先だというのだろう。
あれほど、凜凜の処遇について皇帝におもねって甘い蜜を吸おうとしていたはずの男が、こうも簡単に失脚してしまうのか?
――旦那様は陛下に利用されたのだわ。
凜凜は強くそう思った。
「……央賢妃様の処遇はどうなるのです」
「……前例に従えば、賢妃の位はまず剥奪かと」
「……そんな」
凜凜は額に手を当てた。
考え得る限り最悪の展開だった。
これを皇帝は最初から知っていて、それで雪英にこのような酷い仕打ちをしていたというのだろうか。
「……そうしたら、どうするの。後宮を出たところで、父君の庇護がないのなら……雪英様はどうなるの……どこへ行けるというの……」
「それが、その、陛下は……央賢妃様を後宮から出すつもりはないようで……」
「……え?」
これが寵愛を受けていた妃嬪であるのなら話はわかる。
どうにか庇って後宮に留め置こうともするだろう。
しかし皇帝は雪英に興味などないはずだ。それがどういう風の吹き回しだろう。
「ちょ、張世婦の、願いであるから……と」
宦官が額に玉のような汗をかきながら、凜凜にそう告げた。
「あ……」
――私が、雪英様と離れたくないと言ったから? 陛下は私を手放す気はないから……雪英様も後宮から出さないというの? これ以上、何の望みもない後宮に留め置いて、飼い殺しにしようというの?
「私は……そんな、つもりじゃ……」
凜凜は呆然とつぶやくと顔を覆った。
姓と位を合わせて張世婦と呼ばれるようになった。
凜凜という名が、春の雪のように、遠くに消えてしまうような気がした。
皇帝は凜凜のために新しい住まいを用意させようとしたが、凜凜は固辞した。
彼女は玄冬殿に居座った。
はたして雪英がそんな自分をどう思っているのか。
疎んでいるかもしれない。そう思うと、いっそ雪英手ずから追い出してほしかった。
しかし、雪英からの仰せは何もなかった。
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そしてその報せは青天の霹靂のように突如としてもたらされた。
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そう玄冬殿の門の前でつぶやくと古堂は倒れた。
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宦官達が慌てて彼女を玄冬殿の中に運び入れた。
玄冬殿は、最後の支柱の力を失った。
「……わたくしが、至らないばかりに」
雪英はそうつぶやいて、目を閉じた。
あまり好きでもなかった父の顔が浮かんでは、一瞬のうちにかき消えた。
「……央家の旦那様が失脚って……どういうことなの?」
玄冬殿の私室で呆然と凜凜はその報せを持ってきた宦官に問いかけた。
宦官は皇帝から下賜されたばかりの宦官で、つい先日まで皇帝の元に仕えていた。
「……元々、陛下は央角星殿の汚職について調べさせておりました」
宦官は押し殺した声で凜凜からの問いかけに答えた。
「……そんな」
元々? いつから? 最初から? 雪英が後宮に入るのとどちらが先だというのだろう。
あれほど、凜凜の処遇について皇帝におもねって甘い蜜を吸おうとしていたはずの男が、こうも簡単に失脚してしまうのか?
――旦那様は陛下に利用されたのだわ。
凜凜は強くそう思った。
「……央賢妃様の処遇はどうなるのです」
「……前例に従えば、賢妃の位はまず剥奪かと」
「……そんな」
凜凜は額に手を当てた。
考え得る限り最悪の展開だった。
これを皇帝は最初から知っていて、それで雪英にこのような酷い仕打ちをしていたというのだろうか。
「……そうしたら、どうするの。後宮を出たところで、父君の庇護がないのなら……雪英様はどうなるの……どこへ行けるというの……」
「それが、その、陛下は……央賢妃様を後宮から出すつもりはないようで……」
「……え?」
これが寵愛を受けていた妃嬪であるのなら話はわかる。
どうにか庇って後宮に留め置こうともするだろう。
しかし皇帝は雪英に興味などないはずだ。それがどういう風の吹き回しだろう。
「ちょ、張世婦の、願いであるから……と」
宦官が額に玉のような汗をかきながら、凜凜にそう告げた。
「あ……」
――私が、雪英様と離れたくないと言ったから? 陛下は私を手放す気はないから……雪英様も後宮から出さないというの? これ以上、何の望みもない後宮に留め置いて、飼い殺しにしようというの?
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凜凜は呆然とつぶやくと顔を覆った。
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