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第3章 雪は溶けて、消える
第28話 残雪
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その翌日、凜凜は昼間から央麒殿に呼び出された。
日の上がっているうちに皇帝から呼び出されるのはたいそう珍しかった。
「な、何のご用でしょうか」
恐る恐る尋ねると、皇帝はにこりと微笑んだ。
「お前に位階を授ける日取りが決まった」
「……ありがとうございます」
ほしくない。その気持ちを押し殺し、凜凜は頭を下げた。
この男はたとえ凜凜が拒絶しようと与えてくるだろう。
それがわかっていた。
「それで、凜凜、お前、姓は何という」
そのようなことすら知らずにこの男は自分を抱いていたのだ。
凜凜はどこか捨て鉢な気持ちで微笑んだ。
「張にございます」
「そうか。では授けるのは十日後、位階は正五品、張世婦に任ずる」
「え……?」
話が違う。
任じられるのは正八品だったはずだ。
世婦ともなれば、夫人と嬪の次の位だ。夫人である雪英にあまりに近すぎる。
「そ、そんな恐れ多いです。わ、私のような後ろ盾のない小娘にそのような……!」
「後ろ盾なら央角星がそれはそれは嬉しげになってくれたぞ」
「…………」
雪英の父の世渡り上手さに凜凜は言葉を詰まらせる。
自分の娘があのようにボロボロになっているというのに、あの父親は凜凜をほいほいと世婦に上げて喜んでいるというのか。それを雪英が知ればどれだけ傷付くだろうか。
「おとなしくもらっておけ……今後のためだ」
皇帝の表情にはどこか含みがあった。
「……央賢妃がいなくとも、お前が後宮を渡っていくには世婦くらいにはなっておかねばな」
「……まさか、陛下は央賢妃様を後宮から追い出すおつもりですか……?」
本当は雪英のためを思えばそれはその方がよいのかもしれない。
この後宮に暮らし続けるなど、今の雪英にとっては拷問に近しい。
おとなしく後宮を出て、療養に専念した方が本当は彼女のためなのだろう。
それでも、凜凜は雪英と離れがたかった。雪英が後宮を出るときは自分もいっしょに出るときだとずっと信じていた。
「……それもいいかもしれない」
皇帝の答えはいささか曖昧だった。
「……い、いやです。雪英様がいなくなるなら、私、ご一緒します。いっしょに後宮を出て行きます」
「……その顔を、央賢妃に見せるのか?」
皇帝はやけに知った風な口をきいた。
凜凜の胸は鋭く痛んだ。
自分の顔など、雪英はもう見たくはないだろう。
それはわかっている。わかっていたけれど、凜凜のよりどころはいつだって雪英だった。
雪英のいない後宮で生きていく自分など、想像がつかない。
「まあ、お前の気持ちはわかった……たとえどれほど残酷なことになろうと、お前は央賢妃と離れがたい、と。よくわかった」
皇帝はどこかため息をつきながら、そう言った。
「よくわかったから……安心しろ」
凜凜はちっとも安心できぬまま、それでも静かにうなずいていた。
その願いが、どれほど残酷なことかもしらずに。
日の上がっているうちに皇帝から呼び出されるのはたいそう珍しかった。
「な、何のご用でしょうか」
恐る恐る尋ねると、皇帝はにこりと微笑んだ。
「お前に位階を授ける日取りが決まった」
「……ありがとうございます」
ほしくない。その気持ちを押し殺し、凜凜は頭を下げた。
この男はたとえ凜凜が拒絶しようと与えてくるだろう。
それがわかっていた。
「それで、凜凜、お前、姓は何という」
そのようなことすら知らずにこの男は自分を抱いていたのだ。
凜凜はどこか捨て鉢な気持ちで微笑んだ。
「張にございます」
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「え……?」
話が違う。
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「そ、そんな恐れ多いです。わ、私のような後ろ盾のない小娘にそのような……!」
「後ろ盾なら央角星がそれはそれは嬉しげになってくれたぞ」
「…………」
雪英の父の世渡り上手さに凜凜は言葉を詰まらせる。
自分の娘があのようにボロボロになっているというのに、あの父親は凜凜をほいほいと世婦に上げて喜んでいるというのか。それを雪英が知ればどれだけ傷付くだろうか。
「おとなしくもらっておけ……今後のためだ」
皇帝の表情にはどこか含みがあった。
「……央賢妃がいなくとも、お前が後宮を渡っていくには世婦くらいにはなっておかねばな」
「……まさか、陛下は央賢妃様を後宮から追い出すおつもりですか……?」
本当は雪英のためを思えばそれはその方がよいのかもしれない。
この後宮に暮らし続けるなど、今の雪英にとっては拷問に近しい。
おとなしく後宮を出て、療養に専念した方が本当は彼女のためなのだろう。
それでも、凜凜は雪英と離れがたかった。雪英が後宮を出るときは自分もいっしょに出るときだとずっと信じていた。
「……それもいいかもしれない」
皇帝の答えはいささか曖昧だった。
「……い、いやです。雪英様がいなくなるなら、私、ご一緒します。いっしょに後宮を出て行きます」
「……その顔を、央賢妃に見せるのか?」
皇帝はやけに知った風な口をきいた。
凜凜の胸は鋭く痛んだ。
自分の顔など、雪英はもう見たくはないだろう。
それはわかっている。わかっていたけれど、凜凜のよりどころはいつだって雪英だった。
雪英のいない後宮で生きていく自分など、想像がつかない。
「まあ、お前の気持ちはわかった……たとえどれほど残酷なことになろうと、お前は央賢妃と離れがたい、と。よくわかった」
皇帝はどこかため息をつきながら、そう言った。
「よくわかったから……安心しろ」
凜凜はちっとも安心できぬまま、それでも静かにうなずいていた。
その願いが、どれほど残酷なことかもしらずに。
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