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第4章 赤く咲く花
第39話 さまよう
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しばらくして、凜凜は央麒殿に移った。
彼女は久しぶりの央麒殿に、初めてここに呼び出されたときのことをふと思い出した。何もかも恐ろしかったあの日。思えばずいぶんと遠くまで来たものだった。
皇帝の房のさらに奥が凜凜に与えられた部屋だった。
今更どこに暮らそうと、あまり気にならない凜凜ではあったが、次第にこれは軟禁ではないかと思わずにいられなかった。
皇帝は凜凜を部屋から出すのを嫌った。
食事は必ずいっしょにとり、自ら毒味をした。妊婦に効く毒の香りを皇帝は医官に習い、少しでもその香りがすれば、怒りを露わにした。
凜凜が花を見たいと言えば、手折ってきた。
星を見たいと言っても、窓からの星しか見せてはもらえなかった。
凜凜が刺繍をするのすら、針が指に刺さるではないかと心配した。
化粧をすることすら、宮女に任せるのを厭い、皇帝は自らの手で凜凜の顔に化粧を施すようになった。存外、彼の手先は器用だった。
まるで子供の世話でもしているようだと、凜凜は思った。
実際、そうだったのかもしれない。
子供を亡くした痛みを、子供の世話をするようにして皇帝は癒やしていたのかもしれない。
ふと雪英のことが思い出された。
凜凜が皇帝に呼ばれるようになってから自室に籠もるようになった雪英。
始水殿に移ってからは完全に与えられた部屋に籠もっていた雪英。
――雪英様も、このように息苦しく思っていらっしゃたのだろうか。
凜凜の胸にまた罪悪感が去来した。
凜凜の下半身は子が流れた痛みをまだ引きずっていて、子を作れる状態ではなかったが、皇帝はそれを気にしたりはしなかったし、交わりを強制もしなかった。
他の妃嬪の元に通うこともなく、まるで子の弔いのために禁欲しているかのようであった。
交わることはなく、ふたりは添い寝をよくした。
秋の寒さが紛れるようであった。
それでも心の寒々しさばかりは振り払えなかった。
寒々しさを抱える凜凜の心はどんどんと平静になっていった。
腹に子を抱えている間は決断できなかった炎が、もう一度彼女の胸に揺らめいた。
何度も凜凜は自問自答を繰り返した。
その度に出る答えはいっしょだった。
だが、その決行には時を待たねばならなかった。
まだ彼女の身体は十全ではなかった。
ある日、皇帝が笛を吹いてくれた。
そのどこか物悲しい音節を聞きながら、凜凜はうつらうつらと眠りにつきそうになっていた。
「あっ……す、すみません……」
そんな自分に気付き、凜凜は慌てて頭を振った。
「構わぬ。眠れるのなら、寝るがよい。……この頃の張貴妃はあまり眠れていないだろう」
近頃の凜凜は夜中に、ふと目を覚ますことがあった。
悪夢を見るのだ。
それは子供が流れる夢であったり、雪英にぶたれる夢であったり、雪英が死ぬ夢であったりした。
目を覚まし腹を撫で、それらのすべてが本当にあったことだと思い出す度に、凜凜の眠りは浅くなった。
「ありがとうございます……」
彼女は久しぶりの央麒殿に、初めてここに呼び出されたときのことをふと思い出した。何もかも恐ろしかったあの日。思えばずいぶんと遠くまで来たものだった。
皇帝の房のさらに奥が凜凜に与えられた部屋だった。
今更どこに暮らそうと、あまり気にならない凜凜ではあったが、次第にこれは軟禁ではないかと思わずにいられなかった。
皇帝は凜凜を部屋から出すのを嫌った。
食事は必ずいっしょにとり、自ら毒味をした。妊婦に効く毒の香りを皇帝は医官に習い、少しでもその香りがすれば、怒りを露わにした。
凜凜が花を見たいと言えば、手折ってきた。
星を見たいと言っても、窓からの星しか見せてはもらえなかった。
凜凜が刺繍をするのすら、針が指に刺さるではないかと心配した。
化粧をすることすら、宮女に任せるのを厭い、皇帝は自らの手で凜凜の顔に化粧を施すようになった。存外、彼の手先は器用だった。
まるで子供の世話でもしているようだと、凜凜は思った。
実際、そうだったのかもしれない。
子供を亡くした痛みを、子供の世話をするようにして皇帝は癒やしていたのかもしれない。
ふと雪英のことが思い出された。
凜凜が皇帝に呼ばれるようになってから自室に籠もるようになった雪英。
始水殿に移ってからは完全に与えられた部屋に籠もっていた雪英。
――雪英様も、このように息苦しく思っていらっしゃたのだろうか。
凜凜の胸にまた罪悪感が去来した。
凜凜の下半身は子が流れた痛みをまだ引きずっていて、子を作れる状態ではなかったが、皇帝はそれを気にしたりはしなかったし、交わりを強制もしなかった。
他の妃嬪の元に通うこともなく、まるで子の弔いのために禁欲しているかのようであった。
交わることはなく、ふたりは添い寝をよくした。
秋の寒さが紛れるようであった。
それでも心の寒々しさばかりは振り払えなかった。
寒々しさを抱える凜凜の心はどんどんと平静になっていった。
腹に子を抱えている間は決断できなかった炎が、もう一度彼女の胸に揺らめいた。
何度も凜凜は自問自答を繰り返した。
その度に出る答えはいっしょだった。
だが、その決行には時を待たねばならなかった。
まだ彼女の身体は十全ではなかった。
ある日、皇帝が笛を吹いてくれた。
そのどこか物悲しい音節を聞きながら、凜凜はうつらうつらと眠りにつきそうになっていた。
「あっ……す、すみません……」
そんな自分に気付き、凜凜は慌てて頭を振った。
「構わぬ。眠れるのなら、寝るがよい。……この頃の張貴妃はあまり眠れていないだろう」
近頃の凜凜は夜中に、ふと目を覚ますことがあった。
悪夢を見るのだ。
それは子供が流れる夢であったり、雪英にぶたれる夢であったり、雪英が死ぬ夢であったりした。
目を覚まし腹を撫で、それらのすべてが本当にあったことだと思い出す度に、凜凜の眠りは浅くなった。
「ありがとうございます……」
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