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第4章 赤く咲く花
第40話 秋の終わりに
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「ところで凜凜、その簪、少し古びてないか。毎日つけるほどに気に入っているものなら捨てずに磨きに出そうか」
「あ……」
子供が流れてから、凜凜は簪をつけるようになった。
子供が腹にいる間は、何かあったら大変だからとなるべく装飾品はつけないようにしていた。
その簪は、雪英が形見にくれた簪であった。
雪英が母から受け継ぎ、凜凜が雪英から受け継いだ。
もしかしたら雪英はそれを凜凜がさらに子に受け継ぐことも期待していたかもしれない。
それは叶わなかったが。
「いえ……これは……これは本当に大事なものなので……片時も手放したくはないのです……」
「そうか……」
皇帝は複雑な顔をしたが、それ以上、そこには触れなかった。
雪英はほっとしながら、簪に触れた。
冷ややかな感触が、凜凜の手に触れた。
本格的な冬が来る前に外に出たい。
凜凜がしつこくそう訴えたので、皇帝はようやくその意を汲んだ。
ただし出歩くことは許されなかった。
皇帝と共に輿に入れられ、厳重な警護がついた状態でふたりは後宮を回った。
玄冬殿と始水殿は不吉と言われて未だ空室のままだった。
凜凜はふたつの宮殿に人が溢れていた頃を思った。
それは雪英のいる大切な時間だった。もう戻りはしないあの時間。
凜凜の感傷に付き合うように、輿はふたつの宮殿の前で長く止まった。
そして輿は医局にたどり着いた。
ここからすべてが始まったのだと、凜凜は何もかもを懐かしく思う。
まだ一年が経っていないなんて嘘のようだった。
凜凜は医局で下りて、診察を受けた。皇帝がぴったりとそれに付き添った。
ふたりで医局に入るなんて、本当にあの日のようだと、凜凜は懐かしく思った。
「……流産で弱ったお体もだいぶ復調してきましたね、張貴妃様。痛みがなければ、房事もこなしていただいて大丈夫でございます。ただ、お体にはどうぞ気遣って差し上げてください、陛下」
医官は静かにそう診断を下した。
「わかった」
皇帝は静かにうなずくと、凜凜の肩を優しく抱いた。
最後にふたりは後宮に立てられた子供の廟を訪れた。そこは静謐を保たれ、いつも花を欠かさぬようにされていた。
凜凜は久しぶりに涙を流した。
「……冬の前に、造花を大量に作らせねばな」
皇帝は沈みきった声でそう言った。
「私も、作りたいです」
「そうだな、材料を回してもらおうか」
皇帝はうなずいた。
央麒殿に戻り、夕餉をともにした。
医官から許可が出たものの、皇帝はその夜も凜凜を抱きはしなかった。
ただ寄り添って眠った。
涼しい秋に誰かの体温を感じて眠れることは、本当は幸せなのだろうと凜凜は皇帝の腕の中、ボンヤリと思った。
この幸せを、素直に享受できない自分について彼女は思いをめぐらせた。
「あ……」
子供が流れてから、凜凜は簪をつけるようになった。
子供が腹にいる間は、何かあったら大変だからとなるべく装飾品はつけないようにしていた。
その簪は、雪英が形見にくれた簪であった。
雪英が母から受け継ぎ、凜凜が雪英から受け継いだ。
もしかしたら雪英はそれを凜凜がさらに子に受け継ぐことも期待していたかもしれない。
それは叶わなかったが。
「いえ……これは……これは本当に大事なものなので……片時も手放したくはないのです……」
「そうか……」
皇帝は複雑な顔をしたが、それ以上、そこには触れなかった。
雪英はほっとしながら、簪に触れた。
冷ややかな感触が、凜凜の手に触れた。
本格的な冬が来る前に外に出たい。
凜凜がしつこくそう訴えたので、皇帝はようやくその意を汲んだ。
ただし出歩くことは許されなかった。
皇帝と共に輿に入れられ、厳重な警護がついた状態でふたりは後宮を回った。
玄冬殿と始水殿は不吉と言われて未だ空室のままだった。
凜凜はふたつの宮殿に人が溢れていた頃を思った。
それは雪英のいる大切な時間だった。もう戻りはしないあの時間。
凜凜の感傷に付き合うように、輿はふたつの宮殿の前で長く止まった。
そして輿は医局にたどり着いた。
ここからすべてが始まったのだと、凜凜は何もかもを懐かしく思う。
まだ一年が経っていないなんて嘘のようだった。
凜凜は医局で下りて、診察を受けた。皇帝がぴったりとそれに付き添った。
ふたりで医局に入るなんて、本当にあの日のようだと、凜凜は懐かしく思った。
「……流産で弱ったお体もだいぶ復調してきましたね、張貴妃様。痛みがなければ、房事もこなしていただいて大丈夫でございます。ただ、お体にはどうぞ気遣って差し上げてください、陛下」
医官は静かにそう診断を下した。
「わかった」
皇帝は静かにうなずくと、凜凜の肩を優しく抱いた。
最後にふたりは後宮に立てられた子供の廟を訪れた。そこは静謐を保たれ、いつも花を欠かさぬようにされていた。
凜凜は久しぶりに涙を流した。
「……冬の前に、造花を大量に作らせねばな」
皇帝は沈みきった声でそう言った。
「私も、作りたいです」
「そうだな、材料を回してもらおうか」
皇帝はうなずいた。
央麒殿に戻り、夕餉をともにした。
医官から許可が出たものの、皇帝はその夜も凜凜を抱きはしなかった。
ただ寄り添って眠った。
涼しい秋に誰かの体温を感じて眠れることは、本当は幸せなのだろうと凜凜は皇帝の腕の中、ボンヤリと思った。
この幸せを、素直に享受できない自分について彼女は思いをめぐらせた。
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