『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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第1話 「魔王」との出会い

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 聞いたこともないような大きな音が響いて家が揺れた。
 硬い椅子に腰掛け、刺繍をしていた私は空を仰ぐ。
 屋根に、穴が、開いていた。

 今が夏で良かった。冬に屋根に穴が開いたら寒さがしのげないだろう。
 そんなことが胸をよぎる。

 穴からは月がこちらを覗いていた。
 月とはこんなにもきれいだったか。
 空を見上げるのは久しぶりな気がした。
 気付けばいつも足元を見ながら日々を過ごしていた。

 そんな私の前に、屋根をぶち抜いて落ちてきた何かは、我が家の床にしゃがみ込んでいた。

「…………何?」

 震える声でやっとそう言った。

「……見つけた」

 人の形をしたそれは、私を真っ直ぐ見つめると、そう言った。

◇◇◇

 私の家は村の寂しい片隅にあった。
 幼い頃の私はいつも近所の子供に石を投げられていた。

「魔女の子供、ミラベル」
「売女の子供、ミラベル」

 石と一緒に投げつけられてきた言葉の意味を理解したのは、少し大人になってからだった。

 家には病床に伏せる母。家は医師も寄りつかないあばら家。
 顔も知らない父の話は断片しか聞いたことがない。
 それが、私の家、私の家族。

 かろうじて街の人は食料を売ってくれたけど、うっかり私が教会の前を通れば神父様は顔をしかめた。
 共有井戸の水は使わせてもらえなくて、森の中まで私は毎回水を汲みに行っていた。
 井戸には近付くことさえ許されなかった。
 毒を入れる。病気にされる。そんな噂が私達にはつきまとっていた。

 理由も知らない理不尽に私はただ耐えた。

 そんな日々は母が死んでも終わらず、気付けば私は18歳になっていた。

 18歳。母が私を産んだのと同じ年齢。

 だけどきっと私は、この村で結婚などすることもなく、ひとりぼっちで朽ちていくのだろう。

 そう思って、多くを考えずに、それを受け入れて生きてきたのに、どうしてこうなったんだろう。



 私のあばら家の屋根をぶち抜いて降り立ったのは一人の青年だった。

 黒い髪に黒い瞳、整った白い顔には厳しげな印象を与えるつり目にへの口。
 美青年、と呼んでいいだろう。見たこともない美しい人。
 彼は黒く分厚いロングコートを着て、腰には剣を提げていた。

 眉をしかめて私の家を見渡す彼はあまりに不機嫌そうだった。

「……こんな寂れた場所に……」

 彼はそう言うと私の腕を掴み上げた。

「きゃっ……」

 乱暴に腕から持ち上げられて、私は小さく悲鳴を上げる。

「怪我は?」

 乱暴な男の口から漏れたとは信じがたい気遣いの言葉に、私は自分の体を遅まきながら確認する。

「た、多分ありません」

 体に痛いところはない。
 木片が飛んで来たりもしていないようだ。

「そうか。荷物をまとめろ、移動する」

「ど、どこに……?」

「我が城……魔王城だ」

「ま、魔王城……?」

 魔王は魔物を統べている。

 五千年前に魔王と人間の王が盟約を結び、人間の領地と魔物の領地は、人間界と魔界とにきれいに分けられた。
 魔王城は魔界の中心にあるという。

 それでもその盟約を破る魔物は後を絶たず、多くの人間が犠牲になってきた。
 しかし非力な人間には魔物に抗う術などなく、耐え忍んできた。

 魔王に盟約の履行を要求しようにも、魔王は魔王城に閉じこもり、面会も連絡も叶わない。
 そんな日々がここ二千年ほど続いているという。

「ほら、行くぞ」

 男が腕を今度は柔らかく引っ張った。

「ま、待って、あなたはいったい誰……?」

 私の必死の問いかけに、男は答えた。

「……俺はこの度、魔王を襲名したユリウス・カルステン・シュヴァルツだ」

「ま、魔王……? あなたが魔王なの……?」

 ユリウスの見た目は人間にしか見えなかった。
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