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第35話 消えた宝石
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どうしたらいいのだろう。
頭の中がしばらく真っ白になった。
「えっと……ええっと……え……?」
宝石箱を思わず閉じる。そして開く。
やっぱり何もない。
「…………」
宝石は、実のところ無くてももう大丈夫だ。
あれは働くことすら世間に許されていない私たちが生きていくためのものだった。
だからここで、ユリウスが私を守ってくれるのなら、宝石はなくても大丈夫。
私の心の動揺の中には、これがないと生きていけないという気持ちが混じっているから、少しは落ち着ける。
だけど、そういう問題ではない。
私の物がなくなっている。
もしこれが盗まれたのだとしたら、ユリウスの言っていた攻撃だろう。
しかし、これは魔王城ではありがちなトラブルなのかもしれない。
置いていたものが偶然にどこかに消えてしまう。
そういうこともあり得るのかもしれない。魔界だし、そう言う怪奇現象が起こってもおかしくない。
とりあえずユリウスに聞いてみて……いや、ユリウスは執務中だ。あの人の邪魔になりたくない。
ニンフやシルフ……いや、もしも盗まれたのだとしたら彼女たちが最有力の容疑者になる。聞きづらい。
そうなると、頼れるのは。
「賢者……先生」
聞きに行こう。私はそっと寝室を出た。刺繍箱、それから羽根ペンとインクも手に取った。
私室の外にはニンフが控えていた。
「あら、お妃様、お出かけですか。ご一緒します」
「え、あ……賢者先生のところに行くだけだから……その、ひとりでも……」
「いけませんわ。お妃様をひとりにしてはわたくしたち陛下に叱られます。……賢者とふたりにする分には大丈夫ですから、そうなさいますか?」
「あ、そうね。そうお願い……」
「かしこまりました」
私とニンフは賢者先生の部屋に向かった。
ニンフは部屋の前で待ってくれた。
「おや、お妃様。どうされました。勉学の時間にはまだ早いと思っていましたが……」
賢者が怪訝そうな顔で本から顔を上げた。
「先生、ほ、宝石が消えることってありますか?」
「ん?」
「あ、あの……ええと、その、このお城では何かが消えてしまうことって、普通にあることかしら」
「ありません」
賢者はやけにハッキリそう言った。
「……何が消えたのです?」
「宝石……家から持ってきたの。父が母に贈ったもので、生活の糧で、ええと、今の私にはそんなに必要なものではもうないのだけれど……でも、なくなってしまって……」
私はしどろもどろになるのを抑えられなかった。
「宝石の特徴はありますか」
「こ、これ」
私は刺繍箱の底から刺繍布を一枚取り出した。
古びたそれは私が刺したものではない。
母の作品だ。
そこには宝石の見た目を表した図案が刺繍されている。
売ってしまったものには大きなバッテンがついている。
「ふむ……」
賢者は私から布を受け取ると白いあごひげを擦った。
頭の中がしばらく真っ白になった。
「えっと……ええっと……え……?」
宝石箱を思わず閉じる。そして開く。
やっぱり何もない。
「…………」
宝石は、実のところ無くてももう大丈夫だ。
あれは働くことすら世間に許されていない私たちが生きていくためのものだった。
だからここで、ユリウスが私を守ってくれるのなら、宝石はなくても大丈夫。
私の心の動揺の中には、これがないと生きていけないという気持ちが混じっているから、少しは落ち着ける。
だけど、そういう問題ではない。
私の物がなくなっている。
もしこれが盗まれたのだとしたら、ユリウスの言っていた攻撃だろう。
しかし、これは魔王城ではありがちなトラブルなのかもしれない。
置いていたものが偶然にどこかに消えてしまう。
そういうこともあり得るのかもしれない。魔界だし、そう言う怪奇現象が起こってもおかしくない。
とりあえずユリウスに聞いてみて……いや、ユリウスは執務中だ。あの人の邪魔になりたくない。
ニンフやシルフ……いや、もしも盗まれたのだとしたら彼女たちが最有力の容疑者になる。聞きづらい。
そうなると、頼れるのは。
「賢者……先生」
聞きに行こう。私はそっと寝室を出た。刺繍箱、それから羽根ペンとインクも手に取った。
私室の外にはニンフが控えていた。
「あら、お妃様、お出かけですか。ご一緒します」
「え、あ……賢者先生のところに行くだけだから……その、ひとりでも……」
「いけませんわ。お妃様をひとりにしてはわたくしたち陛下に叱られます。……賢者とふたりにする分には大丈夫ですから、そうなさいますか?」
「あ、そうね。そうお願い……」
「かしこまりました」
私とニンフは賢者先生の部屋に向かった。
ニンフは部屋の前で待ってくれた。
「おや、お妃様。どうされました。勉学の時間にはまだ早いと思っていましたが……」
賢者が怪訝そうな顔で本から顔を上げた。
「先生、ほ、宝石が消えることってありますか?」
「ん?」
「あ、あの……ええと、その、このお城では何かが消えてしまうことって、普通にあることかしら」
「ありません」
賢者はやけにハッキリそう言った。
「……何が消えたのです?」
「宝石……家から持ってきたの。父が母に贈ったもので、生活の糧で、ええと、今の私にはそんなに必要なものではもうないのだけれど……でも、なくなってしまって……」
私はしどろもどろになるのを抑えられなかった。
「宝石の特徴はありますか」
「こ、これ」
私は刺繍箱の底から刺繍布を一枚取り出した。
古びたそれは私が刺したものではない。
母の作品だ。
そこには宝石の見た目を表した図案が刺繍されている。
売ってしまったものには大きなバッテンがついている。
「ふむ……」
賢者は私から布を受け取ると白いあごひげを擦った。
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