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第61話 襲撃
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「違う……違うはず……たとえそうでも……きっと……きっと関係ない人だわ……」
うわごとのように呟く。
嫌な予感がする。
手が震える。
私は思いきって本をもう一度開いた。
目が、目が滑る。
残りの文章はほとんどただの日記だった。
書いている人も書いている間にこれが誰かに宛てたものだということを忘れていたのではないだろうか。
今日は身内でパーティーを開いた。
今日は机仕事ばかりだった。
今日は賢者と話をして有意義だった。
今日は竜息病のドラゴンの腹を殴ってきた。
今日は四族と魔法の稽古をした。
そんなどこか聞き覚えのあるエピソードに私の震えは全身に至っていた。
耐えきれなくなり、私は最後のページまで一気に本を飛ばした。
『……マリアベル。君は死んでしまったのだな』
その文字は力なく震えた手で書かれたように読みづらくなっていた。
『この治る見込みのない体の不調はそういうことであろう。魔王族の番の話をしておけば、君は魔界について来てくれただろうか。いいや、私のことはもういいのだ。魔界のことは息子のユリウスが魔王としてすべて引き継いでくれるだろうから。心残りは、ミラベルのことだ。私の可愛い娘が、健やかであることを望む』
何度も文字を読み返した。読み間違いがないか、読み落としがないか、何度も、何度も震えながら、私は読んだ。読みたくないと思いながら、読んでいた。
「嘘だ……」
私の父親が、魔王だった?
そしてユリウスの父親でもあった?
「どうしよう……」
だとしたら、私とユリウスは、きょうだいだ。
体が震える。
きょうだいが交わること、それは禁忌だ。
許されないことだ。
それを私達は何度重ねてきただろう?
「ど、どうし、たら……」
フラフラとベッドから立ち上がる。
これをユリウスに、伝えるのか? 伝えたらどうなるのだろう?
足がすくむ。動けない。
寝室の扉に手が伸びて、そして扉を開けることなく私は鍵を閉めていた。
「……嘘だ……」
グルグルと回る思考。
扉から遠ざかって、窓の外を眺める。
今日は曇り空だった。
そんな空の中に、異物が混ざっていた。
「……なに、あれ」
その異物はどんどんと大きくなる。
それはこちらに向かって飛来してきていた。
ただの鳥ではない。巨大すぎる。
そもそも羽根が生えていない。よくわからない、何か。
「……きゃああああ!?」
巨大なそれは、そのまま私が眺めていた窓から部屋に飛び込んできた。
窓だけでなく壁までもが崩れていく。
「あはは! 見つけた! 見つけたぞ!」
空いた壁の向こうでは、レヴィアタンほどの大きさのずんぐりとした動物が空を飛んでいた。
しかししゃべっているのはカバではなかった。
カバの上に乗った角の生えた男だった。
山羊のような立派な角が生えている以外は人間とあまり変わりない。
「だ、だれ……?」
「俺は、俺こそが、正当なる魔王族の子! アーダーベルト! 簒奪者のユリウスから、お前を攫いに来た! 真の魔王の娘よ!」
「…………」
本当に、私は魔王の娘だった。
その衝撃に体が震える。
だから私は肝心な言葉を多く聞き逃していた。
「さあ、来い!」
アーダーベルトは私の腕を強く掴んだ。
「い、いや、離して……離して……!」
「ミラベル!?」
扉からユリウスの声が聞こえる。
鍵が閉まっている扉。
ガチャガチャとなんとか開けようとしている音がする。
「…………」
私は、抵抗をやめた。
ユリウスと顔を合わせたくなかった。
合わせられなかった。
「良い子じゃないか。そら、飛べ、ベヒモス!」
おとなしくなった私を男は動物――ベヒモスの上に乗せると、大空へと舞った。
それと同時に私とユリウスの部屋を繋ぐ扉がぶち破られた。
「……ミラベル! ……アーダーベルト!?」
どうやらこの男とユリウスは顔見知りらしかった。
「じゃあな、ユリウス!」
「ミラベルを返せ! この野郎!」
「ははは、それがこのお妃様、帰りたくなさそうだぞ」
「何を訳の分からないことを! ミラベル、待ってろ、今助けに……」
私は、ユリウスから、目を反らした。
目をどうしても合わせられなかった。
「……ミラベル?」
ユリウスが戸惑う。
「お妃様!? ユリウス! レヴィアタンを!!」
ユリウスに次いで私の部屋に入ってきたのだろう。ヴァンパイアの声が聞こえてくる。
だけどユリウスはレヴィアタンを呼ばなかった。
私達は空に高く舞い上がった。
初めて魔界に来たとき以来の空の移動が始まった。
うわごとのように呟く。
嫌な予感がする。
手が震える。
私は思いきって本をもう一度開いた。
目が、目が滑る。
残りの文章はほとんどただの日記だった。
書いている人も書いている間にこれが誰かに宛てたものだということを忘れていたのではないだろうか。
今日は身内でパーティーを開いた。
今日は机仕事ばかりだった。
今日は賢者と話をして有意義だった。
今日は竜息病のドラゴンの腹を殴ってきた。
今日は四族と魔法の稽古をした。
そんなどこか聞き覚えのあるエピソードに私の震えは全身に至っていた。
耐えきれなくなり、私は最後のページまで一気に本を飛ばした。
『……マリアベル。君は死んでしまったのだな』
その文字は力なく震えた手で書かれたように読みづらくなっていた。
『この治る見込みのない体の不調はそういうことであろう。魔王族の番の話をしておけば、君は魔界について来てくれただろうか。いいや、私のことはもういいのだ。魔界のことは息子のユリウスが魔王としてすべて引き継いでくれるだろうから。心残りは、ミラベルのことだ。私の可愛い娘が、健やかであることを望む』
何度も文字を読み返した。読み間違いがないか、読み落としがないか、何度も、何度も震えながら、私は読んだ。読みたくないと思いながら、読んでいた。
「嘘だ……」
私の父親が、魔王だった?
そしてユリウスの父親でもあった?
「どうしよう……」
だとしたら、私とユリウスは、きょうだいだ。
体が震える。
きょうだいが交わること、それは禁忌だ。
許されないことだ。
それを私達は何度重ねてきただろう?
「ど、どうし、たら……」
フラフラとベッドから立ち上がる。
これをユリウスに、伝えるのか? 伝えたらどうなるのだろう?
足がすくむ。動けない。
寝室の扉に手が伸びて、そして扉を開けることなく私は鍵を閉めていた。
「……嘘だ……」
グルグルと回る思考。
扉から遠ざかって、窓の外を眺める。
今日は曇り空だった。
そんな空の中に、異物が混ざっていた。
「……なに、あれ」
その異物はどんどんと大きくなる。
それはこちらに向かって飛来してきていた。
ただの鳥ではない。巨大すぎる。
そもそも羽根が生えていない。よくわからない、何か。
「……きゃああああ!?」
巨大なそれは、そのまま私が眺めていた窓から部屋に飛び込んできた。
窓だけでなく壁までもが崩れていく。
「あはは! 見つけた! 見つけたぞ!」
空いた壁の向こうでは、レヴィアタンほどの大きさのずんぐりとした動物が空を飛んでいた。
しかししゃべっているのはカバではなかった。
カバの上に乗った角の生えた男だった。
山羊のような立派な角が生えている以外は人間とあまり変わりない。
「だ、だれ……?」
「俺は、俺こそが、正当なる魔王族の子! アーダーベルト! 簒奪者のユリウスから、お前を攫いに来た! 真の魔王の娘よ!」
「…………」
本当に、私は魔王の娘だった。
その衝撃に体が震える。
だから私は肝心な言葉を多く聞き逃していた。
「さあ、来い!」
アーダーベルトは私の腕を強く掴んだ。
「い、いや、離して……離して……!」
「ミラベル!?」
扉からユリウスの声が聞こえる。
鍵が閉まっている扉。
ガチャガチャとなんとか開けようとしている音がする。
「…………」
私は、抵抗をやめた。
ユリウスと顔を合わせたくなかった。
合わせられなかった。
「良い子じゃないか。そら、飛べ、ベヒモス!」
おとなしくなった私を男は動物――ベヒモスの上に乗せると、大空へと舞った。
それと同時に私とユリウスの部屋を繋ぐ扉がぶち破られた。
「……ミラベル! ……アーダーベルト!?」
どうやらこの男とユリウスは顔見知りらしかった。
「じゃあな、ユリウス!」
「ミラベルを返せ! この野郎!」
「ははは、それがこのお妃様、帰りたくなさそうだぞ」
「何を訳の分からないことを! ミラベル、待ってろ、今助けに……」
私は、ユリウスから、目を反らした。
目をどうしても合わせられなかった。
「……ミラベル?」
ユリウスが戸惑う。
「お妃様!? ユリウス! レヴィアタンを!!」
ユリウスに次いで私の部屋に入ってきたのだろう。ヴァンパイアの声が聞こえてくる。
だけどユリウスはレヴィアタンを呼ばなかった。
私達は空に高く舞い上がった。
初めて魔界に来たとき以来の空の移動が始まった。
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