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第68話 日常へ戻っていく
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「ねえ、ユリウス、……お父さんのこと、好きだった?」
「うん、大好きだった」
「……よかった」
私達は、緩やかな時間を過ごした。
ユリウスが先代魔王との思い出を語ってくれた。
たくさんの話。思い出。それらは、きっと本にも記されていることだろう。
それでも、私はユリウスから聞きたかった。
ユリウスから見た父を知りたかった。
ユリウスの生きてきた世界を共有したかった。
「……ミラベル、ひとつ約束しよう」
「なあに?」
「俺は、もう君を離さない。アーダーベルトに攫われたような無様は犯さない。必ず、守る。だから、……どうか一緒に生きてほしい。ずっと、ずっと、ずっと」
「……はい」
私達はどちらからともなく小指を絡め合った。
その日、私達は約束をした。
大切な、一生ものの約束を。
瘴気がユリウスに与えたダメージは竜息病の時より低かったらしく、ユリウスは翌日には執務に戻っていた。
私の部屋の修復も終わり、私は自分の寝室に戻った。
「今度は絶対にベヒモスなんかに壊されないよう堅牢にサブナックが作り直してくれました! 魔界大戦争が起こっても大丈夫です!」
「なにそれ……?」
ニンフの熱弁に困惑しながら、私は自分の寝室の壁を見る。
綺麗に補修されていた。
「サブナックって、どちら様?」
「獅子頭の戦争屋で堅牢な城塞を築くのが得意です」
「……寝室よね、ここ、ただの」
「ただのではありません! 我々のお妃様の寝室です。おのれアーダーベルト! 魔王族だからと調子に乗って!」
「そういえば魔王族って何なの?」
ユリウスにわざわざ聞くほどではなかったことをふと私はニンフに尋ねていた。
「魔王族は……まあ、魔王陛下の一族ですね。角が特徴です。ニンフ族シルフ族みたいなものですが、何しろ魔王の一族ですから基本は威張り散らしています。かつて、魔王になる前は名前もあったのでしょうが……失われています」
「そう……そういえば、私が先代魔王の娘だって、あなたたちは知ってたの」
ニンフたちは顔を見合わせた。
「……申し訳ありませんでした」
「存じておりました」
「……陛下に箝口令を敷かれていました」
「いいのよ、謝らなくても」
私は努めて軽く言った。
「……ユリウスが、隠したがっていたのだものね。あなたたちがそれに協力するのは当たり前のことだわ」
「……お妃様!」
「なんと慈悲深い!」
「我々一同、お妃様に今後ともついていきます!」
「うふふ」
ニンフたちの騒がしさが、私をくつろがせた。
これが、今の私の日常なのだ。
そう思うとすべてが愛おしかった。
「うん、大好きだった」
「……よかった」
私達は、緩やかな時間を過ごした。
ユリウスが先代魔王との思い出を語ってくれた。
たくさんの話。思い出。それらは、きっと本にも記されていることだろう。
それでも、私はユリウスから聞きたかった。
ユリウスから見た父を知りたかった。
ユリウスの生きてきた世界を共有したかった。
「……ミラベル、ひとつ約束しよう」
「なあに?」
「俺は、もう君を離さない。アーダーベルトに攫われたような無様は犯さない。必ず、守る。だから、……どうか一緒に生きてほしい。ずっと、ずっと、ずっと」
「……はい」
私達はどちらからともなく小指を絡め合った。
その日、私達は約束をした。
大切な、一生ものの約束を。
瘴気がユリウスに与えたダメージは竜息病の時より低かったらしく、ユリウスは翌日には執務に戻っていた。
私の部屋の修復も終わり、私は自分の寝室に戻った。
「今度は絶対にベヒモスなんかに壊されないよう堅牢にサブナックが作り直してくれました! 魔界大戦争が起こっても大丈夫です!」
「なにそれ……?」
ニンフの熱弁に困惑しながら、私は自分の寝室の壁を見る。
綺麗に補修されていた。
「サブナックって、どちら様?」
「獅子頭の戦争屋で堅牢な城塞を築くのが得意です」
「……寝室よね、ここ、ただの」
「ただのではありません! 我々のお妃様の寝室です。おのれアーダーベルト! 魔王族だからと調子に乗って!」
「そういえば魔王族って何なの?」
ユリウスにわざわざ聞くほどではなかったことをふと私はニンフに尋ねていた。
「魔王族は……まあ、魔王陛下の一族ですね。角が特徴です。ニンフ族シルフ族みたいなものですが、何しろ魔王の一族ですから基本は威張り散らしています。かつて、魔王になる前は名前もあったのでしょうが……失われています」
「そう……そういえば、私が先代魔王の娘だって、あなたたちは知ってたの」
ニンフたちは顔を見合わせた。
「……申し訳ありませんでした」
「存じておりました」
「……陛下に箝口令を敷かれていました」
「いいのよ、謝らなくても」
私は努めて軽く言った。
「……ユリウスが、隠したがっていたのだものね。あなたたちがそれに協力するのは当たり前のことだわ」
「……お妃様!」
「なんと慈悲深い!」
「我々一同、お妃様に今後ともついていきます!」
「うふふ」
ニンフたちの騒がしさが、私をくつろがせた。
これが、今の私の日常なのだ。
そう思うとすべてが愛おしかった。
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