そして503号室だけになった

夜乃 凛

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第四章 多角的視覚の底辺の長さ

アリバイがあったって事でしょ?

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 桜は、志村友樹に対して、悪い印象は、あまり浮かばなかった。どこか着慣れていない服を着ているという所も、他人に対して、自分を大きく見せたいという意図が見て取れて、微笑ましい。
 ふと、思いついた桜が、志村に質問をした。

「志村さん、風間さんと、アイテムのやり取りをしていたのですよね?」

「そうですよ。風間さんはやっぱり、レベルが高いですから、良いアイテムをくれました。こちらも渡したり。ギブアンドテイクですね」

「風間秀介さんは、亡くなってしまったわけですが。このケースだと、風間さんのキャラクターと、アイテムは、どうなってしまうのですか?おそらく、放置されたまま、消えるのではないかと思いますが。現実世界ではないのですから、遺品が誰かに送られる、ということも無さそうに思えます」

「いや、そうでもありませんよ?確かに、オンラインゲームは現実と無関係に思えますが、僕と風間さんは、同じ部隊でしたから、風間さんがある程度の期間、オンラインゲームに入っていない場合、アイテムは僕に回ってくると思います。残念なことですけどね。大切なゲーム仲間が……」

 志村は俯いている。足を組んで楽に座っていた加羅が、モニターの方を、鋭い目で見つめていた。
 桜は続ける。

「誰か、風間秀介さんに、恨みを抱いていた人物はいませんでしたか?」

「恨み?いやぁ、たくさんいると思いますよ。なんていうか……僕たち、ちょっとこじらせてるんで。低レベルのプレイヤーを、馬鹿にしていたんですよ。それを恨むプレイヤーはいそうだなぁ」

「なるほど。志村さん、現実世界としての、風間さんとの繋がりはあったのですか?」

「ありました。最初の数年は、オフ会するような仲じゃなかったんで、会いませんでしたけど、ここ1年のうちに、現実世界で会おうか、ってなって。それで会ったんです。風間さんって、知的な印象がするでしょう?いやぁ、イメージ通りの人でした。頭の回転が速かったです。まさか亡くなられてしまうとは」

 語る志村。桜は、ちらりと、刀利の方を見た。何か質問ある?のサインである。
 それを受けて、刀利。

「志村さんって、確か無職でしたよね?私も無職ですけど、どうやってオンラインゲームのお金を払っていたんですか?」

「始めたての頃は、仕事してました。だから、アイテムに費やすお金もあったんですよ。最近、仕事していないってだけで。最近は……風間さんのおかげで、ログイン出来ていたというか」

「ふむふむ。飛びますが、風間さんのキャラクターを目撃した時って、志村さん一人きりだったのですか?」

「そうです。僕しかいませんでした。それが、何か?」

「いえいえ。とても、重大な所かと思いまして。志村さん一人で、風間さんと会ったって言うのなら……」

 にこにこと笑っている刀利。表向き。

「あなたに風間秀介さんを殺すことは出来なかった。そうですよね?」
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