そして503号室だけになった

夜乃 凛

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第四章 多角的視覚の底辺の長さ

視覚的底辺の情報

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 静まり返っているレストラン。桜と映像通話している、志村は首を傾げていた。刀利の発言に対しての、態度と思われます。

「僕が、風間さんを殺す?」

「可能性の話です。あくまで可能性の話なので、気にしないでください」

「い、いや。ちゃんと話してくださいよ」

「わかりました。いいですか?冷静に、状況を見ての話です。動機がですね、無いんですよ。誰にも動機が無い。今の所、無いんです。しかし、そこで、あなたの話が舞い込んできました。あなたには、風間さんを殺す動機があります。風間さんさえ死ねば、あなたはアイテムを受け取ることが出来る。もっと、もっと、強くなることが出来る。仮定の話です。あなたに、肥大した承認欲求があれば、計画したかもしれません。兎にも角にも、あなたしか、風間さんを殺しそうな人が、いないんですよ。でも、オンラインゲームで風間さんを目撃していたのだから、その時間、あなたは、自宅のパソコンの前にいたんですよね?今と同じように。それならば、ホテルには来れないのだから、あなたは白ということになります。話してと言われるから、話したのですよ?普通は話しません」

 刀利は瞳は真っすぐだった。冷静に、可能性を思考する、彼女の頭脳。志村は、呆気に取られた様子だった。
 桜に関して言えば、首を傾げていた。アイテムを得るために、人殺しなどをするのだろうか、と。

「警察の方ですよね?若そうに見えますけど……なかなか、面白い意見じゃないですか。正直、このゲームには、それだけの価値がありますよ。殺人が起きたっておかしくない。こんなに愛せるゲームは、他にはないでしょう。僕の経験から言えば、かなりのオンラインゲームをやってきましたが、ベストです。だから、アイテムを得るために殺人という考えは、面白いと思います。このゲームにはそれだけの……」

 志村は、俯くどころか、若干、饒舌になった。
 加羅はその様子を見ていた。異論がありそうに、眉をひそめていた。それは、そうだろう。何せ、人が死んでいるのだ。娯楽、いや、人によっては人生かもしれないが、殺人事件に関しての話で、興奮気味になるのも、おかしな話である。

 それから、しばらくの間、桜たちの尋問が続いた。得られた情報は、志村が新品のノートパソコンを使っているとか、ゲームの自慢だとか、風間のキャラクターを目撃したのは、志村だけとか、あまり有益そうな情報ではなかった。
そして、志村が切り出した。

「ええと……桜さん、でしたよね?すみません、そろそろ用事があるので、通話を終わらせていただきたいのですが。あまり、お役に立てず、申し訳ありません」

「あ、ええ。長い事、お疲れさまでした。捜査へのご協力、感謝します。お元気で」

「捜査、応援しています。風間さんの無念を晴らしてください。では、これにて」


 そう言って、志村の姿が、モニターから消えた。後には、桜の端末だけが残った。

「無念、か」

 加羅は静かにコーヒーを飲んでいた。今までよりは、何か、真剣に考えている様子に見えた。
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