家鴨の空【改訂版】

kappa

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8話_低い気温

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『最低!』
『女の敵!』
『このクズが!』
教室から生徒達の冷たい視線……。
生徒の怒り狂った罵詈雑言……。
思い出したくもないのに何度も繰り返される。
空は病室のベットの中で悪夢に魘されていた。
『僕じゃない!』
『僕は、やってない!』
どんなに叫んでも声が出せずただひたすらに泣くことしか出来なかった……。
由美子「大丈夫!?」
由美子さんが空の肩を揺らしながら呼びかけていた。
どうやら悪夢をみていたらしい。
由美子「落ち着いて!ゆっくり息を吸って吐いて……」
空は言われた通り深呼吸をして心を落ち着かせようとする。
由美子「そう……それでいいわ。大丈夫よ……。」
由美子は優しく抱きしめてあげると少し震えが止まったように見えた。
空「…誰も…信じてくれない…島に来て初めて出来た友達にも…っ」
空は力なく呟いた。
由美子「そんなことないよ。私があなたを信じるわ」
由美子は空を励ますように言った。
空「僕…ゔぅ……う…っ」
空は堪らず泣き出す。
由美子「よしよし……辛かったね……」
由美子は泣きじゃくる空の頭を撫でながら落ち着かせる。
空「今までこの島に来てからずっと記憶も無くて…知り合いもいなくて…寂しくて…友達にも…。」
空は涙を流して嗚咽しながら由美子ずっと側にいてくれた。
由美子「そう……苦しかったわね。でもあなたは決して一人じゃないわ」
由美子は空の手をぎゅっと握った。
由美子「あなたのことは私が守るから。もう何も心配しなくていいのよ」
空は由美子の温もりに包まれながら、少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。
この人にだったら本当の自分を見せてもいいと思えた。
空「ありがとうございます……。」
由美子「うん。私も一緒に考えるから何でも相談してちょうだい。必ず解決方法を見つけてみせるから。だから今はしっかり休みましょう?」
由美子は空を安心させるために微笑んだ。
空は自然と瞼が重くなる。
段々と眠気を感じてきたようだ。
そのまま意識を手放すと深い眠りへと落ちていった。
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきたため眠っていることがわかる。
由美子は安堵のため息をつく。
由美子(良かった……ちゃんと眠れてるみたい。)
今はただゆっくり休ませてあげたい。そんな思いでいっぱいになったのであった。

あれから…数日が経って。
病室には、検査入院していた蒼穹や騒ぎを知った匠さんも見舞いに来てくれた。
匠さんが今回の事でかなり、怒っており、学校側に猛抗議したようだ。
そんな間に、僕の怪我は若いのあってか、回復が早かった。
「特に異常なし」と判断され、退院の運びとなった。
しかし、学校への復帰は難しい。
今回の件は島内で大きなニュースとなったみたいだ。
狭い島だから情報が流れるのも早い。
島に来たばかりの空にとって更なるストレスとなると判断した学校側は当面の間の休学措置を取ったのである。
空としてはありがたい反面複雑な心境であった。
今はとにかく療養することが最優先だと由美子さんも匠さんも言ってくれた。
それに今はまだ心の整理ができていない。
蒼穹も検査入院が終わって、一緒の退院となった。
2人は今、元通り匠さんの家に戻り生活を送っている。
現在の心境は不安しかない。
蒼穹「兄さん?」
空「なんだ?その呼び方?」
蒼穹「一様、兄さんだしさ…。これからどうする?学校いけなくなったし……」
空「……うん。まだ何も考えてないかも…騒ぎも収まってないしな。ごめん、お前にも迷惑かけるかも。」
蒼穹「兄さんのせいじゃないだろ?」
空「……ありがとな」
蒼穹「……うん」
空「これからどうするべきなのかわからないよ」
蒼穹「まぁ、確かに悩むところだけどさ……」
蒼穹は考え込むような仕草を見せた後に口を開いた。
蒼穹「俺…兄さんがそんな人だって思わないし、信じてるから。」
空「ありがと……」
空は素直に感謝した。
蒼穹は照れた様子を見せた。

それから数週間して、学校での騒ぎも収まり始めた頃に担任の教師Bから電話があり対策が開始されたと言う。
篠山美来への聞き取り調査。
また、今回暴行もあった為、警察も動いているそうだ。
騒ぎがあった時の斑鳩や他の生徒たちも調査に素直に協力してくれたみたいだ。
動画を流した当の本人、「篠山美来」は、何事もなかったかのように、通常の学校生活を送っているようだ。
僕は、殴られた傷の腫れが少し引いてきたところだ。
学校側は、篠山美来に動画を消すように促し、一度は削除されたようだが、一度出回ってしまった動画は、拡散され続けているらしい。
篠山美来へ調査の結果は、嘘の可能性が高いと判明した。
僕の事を「告白したら振られた」という話以外は真実ではないようだ。
ただ、篠山美来はなぜか、「私の初めては、空君にあげた」と言う話を頑なに譲らなかったらしい。
篠山美来は「月光島では同級生に知り合いはいなかったから、親切にしてくれた空君を好きになった」と言っているらしい。
それを聞いた担任の教師Bや警察官も困惑している様子だった。
警察側では、「傷害事件として立件するのは難しいが民事訴訟なら可能性はある」と言われたらしい。
学校側としては、暴行した生徒たちへの罰則を考えていた様だが、空や家族からの要望により、「被害届けは出さない」という結論になったため処分は保留となっている。
また、「加害者の生徒たちの将来もあるだろうから」という理由で事実上の放置となっている。
そして、肝心の篠山美来だが今のところ特別な処分はされていないみたいだ。
だが「彼女も中学生であること」「集団心理による影響を受けて行動を起こしたこと」などを考慮すれば仕方ない部分もあると思う。
ただ一つ気になることがあるとすれば、「彼女が嘘をついている可能性」という点だけだ。
この場合だと僕自身の名誉回復の為にも、真実を言って欲しいけど。

そんな事があった8月。
数ヶ月。
新学期が始まった、10月まで目まぐるしい日が過ぎた。
月光島は、季節がないから若干夏休みが長引いた感じだ。
元々島には季節がないけど…平年より寒くなった。
月光島の観光客が増えるシーズンだ。
匠さんは、忙しくなりそうと言って準備に追われているようだ。
蒼穹はというと最近になってようやく普通の生活に戻れてきたところである。
因みに僕はといえば今だに療養中の身であり引き籠もり生活をしている状態なのだ。
正直言って暇でしょうがない。
なので、スマホゲームアプリなんかをダウンロードしたりネットサーフィンをしたりしていることが多い。
特に興味を持ったものは無いんだけどね(笑)。
まぁ暇潰し程度にはなってるかなって感じかな?
この3ヶ月、由美子さんと匠さんの支えが大きかった。
退院してから匠さんに。
匠「学校に行かなくても俺の仕事の手伝いをすればいい……。」
と言われた時は本当に嬉しかった……。
正直ありがたかったと思う。
これ以上余計なトラブルに巻き込まれたくなかった。
空「ありがとうございます……。解決するまで仕事手伝わせてください……。」
匠「あぁ……」
その後は、普通に過ごしていたけれど不安要素はある。
また、学校に行って再び嫌がらせを受けたりしないだろうかとか考えるようになった。
若干憂鬱になってしまう。
それでも少しずつではあるものの日常生活に戻れてきていると思う。
ただ一つ気になることがある。
篠山美来についてだ。
なぜあのようなことをしたのか全くわからない……。
空には理解できなかった。
それに今回の件でかなりトラウマになっている。
完成に人間恐怖症だ。
もう二度と同じ目に合いたくないと思った。
でも、学校に通わないと勉強に遅れてしまうこともあるし、学校自体が好きではないわけではないから……。
学校側は、保健室登校で対応からはじめては、どうだろうかと提案してくれた。 
……僕にとっては、有難い提案だった。
その提案を飲むかどうか迷った末……答えを出した。
……登校しようと。
そんなことを思っているうちに登校日を迎えた。
朝起きて準備を済ませて出かける前に一言声をかけておくことにした。
由美子「大丈夫?一緒に付いて行こうか?」
空「大丈夫です……。」
由美子「しんどくなったら、保健の先生に言うのよ?」
空「はい……。」
空は、玄関に行く。
凄い重い扉に感じる。
空「行ってきます……。」
扉を開き、外にでる。
風が運動靴や体に来る。
光が眩しい。
由美子「気を付けてね」
出発した。
空は、久しぶりの学校に重い足取りで向かう。
街並みはいつもと変わらないのに、すべてが違って見える。
誰かに見られているのではないかという不安が常に付き纏う。
信号待ちの間、携帯電話を触るふりをして周りの視線を気にする癖がついてしまった。
空「大丈夫……大丈夫……」
小さな声で何度も自分に言い聞かせる。
保健室登校という選択肢を選んだとはいえ、完全に一人になるわけではなく、やはりクラスの近くを通るのは避けられない。
教室棟へ続く渡り廊下に近づくにつれ、鼓動が速くなる。
過去の悪夢が脳裏をよぎる。
深呼吸をして、足を進める。
保健室に辿り付いた。 
扉を開けると、保健室特有の薬品の匂いが鼻を突く。
保険医の女性が机に向かっていて、こちらに気づいて顔を上げた。
保険医「おはよう。空くん」
保険医は穏やかな笑顔で迎えてくれた。
空「おはようございます」
挨拶を返すと、保険医は椅子を勧めてくれた。
腰掛けると同時に、窓の外から体育館の喧騒が微かに聞こえてきた。
ボールの弾む音、歓声……。
保険医「ゆっくり、やっていきましょう?」
空「はい……」
保険医「まずは、授業が終わる時間までここで過ごしましょう。午後からは、職員室に行きましょう。そこで、担任の先生とお話するといいですよ」
空「わかりました……」
保険医「何か困ったことがあったらいつでも相談してくださいね」
空「ありがとうございます……」
その後、保険医は簡単な健康チェックを行った。
体温、脈拍、血圧などの基本的な測定だ。
特に異常は見られなかったが、やはり心臓の鼓動は普段よりも早く感じられた。
教材が用意された。
プリントアウトされた課題がいくつかと参考書。
慣れるといいな…。

保健室登校は、けっこう早く慣れる事ができた。
目線が気になることもないし…。 
ただ、他の生徒に見られたらまたあの日々に戻ってしまうんじゃないかという恐怖があった。
……幸いにもそういうことはなかったけれど。
そして徐々に自信を取り戻し始めることができるようになっていったと思う。
12月に入り、クリスマス時期に入った頃……。
雪は、平年より気温が低いとは言え。
降らないんだな雪は…。
保健室登校にも慣れた頃。
意外な人物と再会する。
その人は、僕に新しい春の風を吹かせてくれる…。
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