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9話_新しい春の風
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月光島のクリスマスは……夏だ。
雪も降らないし……。
でも、収穫祭が終わった後だから島は静かだ。
来年の豊漁を願って「豊漁祭」がクリスマスの代わりみたいなもので、それぐらいにはまた騒がしくなる。
月光島は、観光業も盛んだから、島の繁華街は忙しいみたい。
月光島は、泊るところが一ヵ所で月光島ホテルがある。
老舗でオーナーは、由美子さんのお母さんだそうだ。
年中バタバタしているらしく従業員も大変らしい。
昔は、よく家族で泊まりに行っていたと匠さんから聞いた。
病院は、年末に休みが多いから由美子さんが時々ボランティアで手伝いに行っているらしい。
月光島に流れ着いて気が付けば……1年が経とうとしている。
その間にいろいろあったなぁと思い返す。
色々ありすぎた。
……人生最高で最悪な年だと思う。
出会った人の中には、良い人もいれば悪い人もいた。
匠さん、由美子さん……良い人たちだ……。
だからこそ……大事にしていきたいと思えるようになったんだよね……。
そんなことを思いながら、保健室で課題の勉強をしていた。
ガラッ‼と勢い良く扉が開いた。
空「ビックリした……!」
「あれ?先生おれへんの?」
現れたのは金髪にピアスをつけた少年。
関西弁のイントネーションが耳に刺さる。
制服の袖が赤く染まっていた。
保険医は、職員室に用があると言って席を外している最中だった。
空「あ、はい……。ちょっと用事で出ていて……」
保険医がいないことに気づくと、目の前の男は舌打ちをする。
そして視線を室内に巡らせていたが、すぐに僕と目が合った。
「あんたでええわ?消毒液と絆創膏とかもらえる?怪我してもうてん!」
乱暴な物言いに怯むが平静を装って答える。
空「わかりました……!ちょっと待ってください!」
棚から必要なものを取り出して渡す。
受け取ると早々に離れた場所で治療を始める男の姿を目で追ってしまう。
動きが荒っぽくて痛々しい印象を受ける。
喧嘩した感じで全身汚れだらけだし服もボロボロだ……。
さっきから痛そうな声を出してるのでついつい心配してしまう。
どっかであった気がするんだけど。
空「……どこかでお会いしましたか?」
「いや……初対面やけど……なんで?」
空「なんか……見たことある気がして……すいません……勘違いでした……」
「おかしなやっちゃなぁ……?あんた名前なんていうん?」
空「……僕ですか?……空と言います」
「空か……?お!鼻血……あー!ああああああああ!」
空は、あまりの声の大きさに驚く。
空「ビックリした……。大丈夫ですか?」
「俺や大道寺!」
金髪にピアスをつけた少年は、自らの顔に指を刺す。
空「あっ!」
空は、立ち上がる。
思い出し……空は、慌てて距離を取ろうとした。
大道寺「待って!逃げんな!なんもせん!」
突然の大声に驚きつつ振り返ると彼は真剣な表情を浮かべていた。
何か伝えたいことがあるみたいだったのでとりあえず大人しく座る。
空「えっと……大道寺先輩?なんか風貌変わりました?」
旬「色々あって……髪の毛染めた方がカッコいいかなと思って。それに……ほら!このピアスもな!」
道を指差しながら自慢げに語ってくる大道寺先輩を見て苦笑してしまう。
前に見たほうが怖くて裏の人ぽいが、今見るとチンピラ風だ。
……見た目だけだ。
空「……チンピラみたいになってますよ……」
大道寺「……チンピラ?……そか……やっぱりな……似合わんのかもな……」
大道寺は、しょぼんとする。
空「前の方が、カッコよかったですよ?」
大道寺「……え?ホンマか?……それは嬉しいなぁ~ありがとうな!褒めてくれて」
大道寺は嬉しそうな笑顔になる。
その笑顔を見るとこちらまで釣られて微笑んでしまうほど純粋無垢といった感じだ。
旬は、話している最中にも腕に包帯を巻こうとしていたが、上手く巻けない。
空「それ……巻けてます?」
大道寺「全然うまくいかん……」
大道寺は途方に暮れている。
空「貸してください……。巻きますよ」
旬「できんのか?」
と疑念を感じる視線で見据えてくる。
空「ふっふ……伊達に毎日看護師の由美子さんの世話になってませんからね。大丈夫ですよ。」
旬は、見た目は狂犬みたな姿をしているが心根はとても素直だ。
大道寺「なら任せたわ……」
警戒した犬がすんなり包帯を持ってきた感じだった。
空は、左手首の包帯を解いて丁寧に巻き直していく。
大道寺はその様子を見守っている。
旬「……こないだ、変なことして、悪かった。」
空は、ピクリと反応した。
空「あ、はい……。僕だからよかったけど……ほかの人にしたら、大問題ですからね?」
と注意する。
旬は、バツの悪そうな顔をしていた。
何をしたかというと、空が鼻血を出していたのだが、それを旬が舐めたのだ。
正直キモかったので思い出すだけで鳥肌が立ってしまう。
旬「わかったわ……気ぃつけます」
と反省の色を見せる。
なんか、しょげている犬みたいだなと思わず思った。
空「よし、出来上がり」
大道寺「サンキュ……巻いてくれたから、ジュース奢るわ。」
旬は満足げな顔で礼を述べ、出口の方へ歩き出した。
空「待って下さい!そんな事しなくても大丈夫ですけど……。」
思わず呼び止めてしまった。
大道寺「ええって……奢らせてくれ、何が好きなん?ジュース。」
大道寺がそう尋ねてくる。
空「じゃあ……カフェオレでお願いします」
遠慮することなく好きな飲み物の名を口にする。
旬「わかった……ちと待っといて」
と、廊下に出て行く。
空は、その後姿を見送る。
なんだろうか……不思議な感覚だ。
まるで旧知の仲の如く接してしまう。
だが……何故だろうか?
懐かしい気さえする。
彼といると落ち着く自分がいることに気づく。
旬が出て行って保健医が戻ってきた。
先生「空くん、お客さん?」
空「えっと……大道寺くんが来てました。」
先生「大道寺くんね……。そう……」
先生の顔が曇る。
空「……何かありました?」
先生「実は、彼ね。君と一緒の時期ぐらいに最近問題を起こしてね……停学になっていたのよ。最近学校なんか来てなかったけど、珍しいわね。」
空「……停学……」
あの人が……。
先生「……ごめんね。こんな話して……」
空「いえ、大丈夫です」
そんな事を言っていると旬が戻ってきた。
旬「戻ったで……先生もお帰り……あ、これ空くんのやから」
と缶コーヒーを投げて寄越してきた。
空は咄嗟に受け取る。
空「ありがとうございます」
保健医は、旬の顔を見て、言う。
先生「大道寺くん、また喧嘩したの?」
旬は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
旬「別に……喧嘩売ってきたら買うただけや。俺に喧嘩売ってくる奴が悪いっちゅー話しや」
先生「……暴力はダメなのよ……いくら仕掛けられたとしても……」
旬「わーってる!わーってる!今日は、そんなに派手にやり合ってへんし、手加減したったんやぞ」
先生「手加減って……」
と呆れ顔になる。
旬「暴れて疲れた、ちょっと寝かせてや。ベット借りるわ」
と宣言しベットへ横になる。
保健医「もう……ちょろっとだけね……」
と許可を与える。
旬「助かるわ~」
と言い目を閉じる。
その瞬間眠りについたようで寝息を立て始める。
空「猪みたいな人ですね、彼。」
と感想を漏らす。
先生「……いい表現ね、空君(汗)」
と同意する。
先生「空くん……ごめんね。彼とは関わらないほうがいいと思うわ……」
空「え?」
先生「あの子、素行が悪くてね……何度か注意してるんだけど改善の兆しが見えないのよ。それに最近は停学処分になってね……。きっと彼のことだからまた問題起こすと思うし……お家もお家だしね。」
先生の顔には疲れが滲み出ていた。
きっと苦労してきたんだろうなというのが伝わってきていた。
保健医は、疲れた表情を浮かべながら窓を見つめている。
彼にも色々あるんだろうなと空は思った。
チャイムが鳴り響く。
学校は放課後に入ったようだ。
生徒たちの声がして、廊下は騒がしくなってきた。
空は、机の上を片付けようと椅子から立ち上がる。
先生「……まったく」
溜め息混じりに言う。
旬が起きる。
旬「ふぁー……。あっもう放課後か……」
と大きく伸びをする。
空「……もう放課後ですよ。僕帰るんで。ごちそうさまでした。」
旬「ほな、送っていくわ」
空「大丈夫ですよ……すぐそこですし」
旬「……そうか」
旬はしょんぼりとした顔になる。
空「……わかりました。……一緒に帰りましょう」
旬「おう!」
と元気になる。
二人並んで校門を出る。
旬は、体がデカく身長も高いから隣にいると威圧感がある。
まるで熊みたいだ。
歩幅も違うので、必然的に空が後ろになる。
旬は時折こちらの様子を確認してくれる。
恐らく無理矢理引っ張られてないか気にしてくれてるのだろう。
そんな些細な優しさに触れ心が和む。
旬「あの……その……この間の……お詫びやないけど……この後時間あるか?」
空「……別に大丈夫ですけど……」
と言いつつも警戒する。
また何か企んでいるのではないかと考える。
旬「……やった!じゃあ行くで」
とテンションが上がる。
その様子を見る限り単純な性格なのかもしれない。
旬がスタスタ歩く。
空は、困惑しながらも後に続いた。
辿り着いた場所は、学校近くにある神社だった。
空は、神社の中に入っていく。
神社は、不良たちの溜まり場と化しており煙草の臭いが充満していた。
境内の隅の方にバイクが止まっていた。
空「校則違反、、、。」
と呟く。
旬「……まぁしゃあないな」
と誤魔化す。
旬は、ヘルメットを被り、空にヘルメットを投げる。キャッチする空。
空「僕も乗るんですか?」
と尋ねる。
旬「もちろんや!特別に後ろ乗せたるわ。ほら行くで。」
と言ってエンジンをかける。
空は、慌てて追いかけ後部座席に乗る。
空「安全運転してくださいね!」
バイクは走り出した。
神社を抜けると住宅地に出る。
そこから坂道を下る形でしばらく進むと海沿いに出る。
潮風が気持ち良い。
前方には灯台が見える。
風が体に当たる。
涼しく心地良い。
バイクに乗って海風に当たる空は、エアコンとは違う風に心地よさがある。
潮の匂いが匂い心地が良い……。
ずっと海が続いていることを思い出してさらに心地よさを感じた……。
視界に海と沈む夕陽が写り込んだ。
夏の入道雲と夕日がなんとも言えない光景を作り上げていた。
そんな景色を見つめながらぼんやり考え事する。
最近あった出来事とか思い出した。
空は、思いを馳せていた……。
いつか、みんなで海辺で遊ぶのもいいなと思い描いた未来予想図は簡単に砕け散った。
最初に作った輪っかは粉々になり、跡形もなく消えた。
旬「盗んだバイクで走りだす♪」
旬が鼻歌交じりでバイクを走らせる。
空「盗んでないですよね?」
旬「アホか!盗んでへんわ!子供んときからのお小遣い貯めて買ったんや!」
空「ふっふ……冗談です」
と思わず笑ってしまう。
旬「笑うなや!」
そんなやり取りをしている内に目的地に到着したようだ。
そこは、海が見える公園だった。
アイスクリームを2つ、旬が買ってきた。
ベンチに腰掛けると、ちょうど夕日が沈む時間だった。
旬「やっぱ、ここのアイスうま!」
と嬉しそうにしている旬。
空は、その姿を見て微笑ましくなる。
空「そうですね……すっごく……」
と相槌を打つ空。
旬「俺さ……好きな子と……アイスを……って違うわ!何言うてんねん!アホか……俺……」
と一人で勝手に盛り上がって、勝手に凹んでいる旬。
空は、そんな様子を見て笑いを堪えている。
旬「笑うなや!」
と怒る旬。
空「ハハハハハ。ごめんなさい……つい」
と言いながらも笑い続ける。
旬は、呆れ顔で空を見ているがどこか嬉しそうでもあった。
しばらくして、笑いが治まった頃。空が口を開く……。
空「……下心丸出しですね」
旬「しょ、下心ちゃうわ!」
と慌てて否定する。
空「久しぶりに……こんな声出して笑いました。楽しいって気持ちを最近忘れてた気がするんです」
旬「お前もなんかあったみたいやな?」
空「色々……というか、僕のこと好きなら知ってるでしょ?」
旬「え/////」
と赤面する旬。
空「だって、鼻血出してる僕の舐めるし。……なんで舐めたんですか?」
旬「いや/////あれは……その……なんというか……」
と口籠る旬。
空「キモいですよ?」
旬「……ごめん」
旬は謝罪する。
空「まぁ……面白いのでいいんですけど」
と悪戯っぽく言う。
旬「え?今、面白いって言った?」
と聞き返す。
空「違います。大道寺先輩のお小遣いについてです。」
と訂正する空。
旬「そっちか……」
と残念そうな顔をする旬。
空「ハハハハハ。その落ち込んだり喜んだりする顔が面白いんですよ」
と笑う。
旬「お前なぁ……」
と困った表情を浮かべる旬。
空「ふふ、すいません」
と謝る。
旬「お互いなんか問題児やな?」
空「そうですね……。でも、多分僕らは似た者同士かもしれませんね」
と意味深なセリフを吐く空。
旬は、その言葉の真意を探ろうとするが分からないまま会話が終わってしまう。
旬「なんか暗いねん!」
と笑い飛ばす旬。
空「すいません」
と申し訳なさそうにする空。
旬「謝る必要ないで!ああーもー!本間に偶然保険室で会うなんて思ってないやん。ちょっと神様ーもうちょっといい再会の仕方させてーやー!もっとシチュエーション考えろやー!」
と空に向けて愚痴る。
空「そんなに?」
旬「当たり前やろ!何?初恋やねんからな?ちょっと運命的展開期待してたのに……酷いやん……」
空「キモ……」
旬「お前な!」
とプンスカ怒る旬。
空「すいません。つい本音が……」
と謝る空。
旬「はぁ……まぁええわ。俺のとっておきの場所教えたろ。」
と得意げに言う。
アイスを食べ終えると再びバイクに跨る。
バイクが向かう先は、月光島港であった。
怪しい店やクラブ等がある大人向けの場所だった。
繁華街というにはあまりに胡散臭い店が多く存在していて、昼間なのに薄暗く感じる。
旬「ここや」
旬が案内したのは一軒の倉庫だ。
旬に促され倉庫の中に入る。
倉庫の中は埃っぽく汚れていた。
古びたソファやテーブルなど家具類が置いてある。壁際には段ボール箱が積み上げられている。
空「なんでこんな所に連れてきたんですか?」
と疑問に思う。
旬「秘密基地ってかんじでいいやろ?」
とドヤ顔をする旬。
空「秘密基地って……。」
と呆れる空。
旬「ここは、昔。俺の叔父貴が持ってる倉庫なんやけど、自由に使わしてもろてんねん。」
と懐かしむような表情になる。
旬は、窓を開け換気を行う。
旬「今日はずいぶん暑いからな。換気しとかんと熱中症で倒れてしまうかもしれへんで」
と言いながら窓枠に肘をつき外を眺める。
空は、その様子を黙って見ていた。
空は、改めて倉庫を見渡す。
本棚やポスターが貼ってあり、子供の遊び場みたいだった。
空「結構広いですね、本もいっぱいある。」
旬「まぁな。ここなら人も来んし。静かでええねん俺も時々、読書しに来てんねん。なんかむしゃくしゃした時は…。」
と照れ隠しのつもりか頭を掻く。
旬「ほら。俺って見た目こんなんやし。勘違いされて喧嘩吹っ掛けられることが多いんよ」
空「でしょうね」
と即答する。
旬「おい……。そんなにストレートに言わんでもええやろ」
と拗ねる。
空「というか先輩って、読書するんだ……意外……」
旬「……そやねん、恥ずい話やけどな。……漫画の影響であんまり難しい本は読めへんけど、まぁラノベやったら……ギリいけんねんラブコメ系は特に好きで読んでるねん。主人公がヒロインを守るために奮闘するシーンとか読んでてワクワクせぇへん?」
と聞いてくる。
空「はい、分かります。先輩乙女すもんね。」
とニコッと笑顔を作る空。
旬「……お前な……」
と悔しそうな顔をする。
空「でも……そういう漫画とかアニメ好きですよね?先輩」
と確認する。
旬「……そうやけど……。何が言いたいん?」
空「いや……先輩は純粋でいい人だから、きっと素敵な恋愛できると思いますよ」
と微笑む空。
旬「え///」
と固まる旬。
空「ほら、先輩って根は優しいから」
と続ける空。
旬「あ、ありがとな//////」
と頬を赤らめ下を向く旬。
空「……僕、初恋は失敗しましたけど。先輩は、上手くいくと思います」
旬「……え?お前……彼女おったん??」
と驚愕の表情を見せる旬。
空「……彼女でもないですし……付き合ってもない……お世話になってる人ですよ。」
と苦笑する空。
旬「え?いや、まぁ……な。ほんでどないしたん?」
と食い気味に質問する旬。
空「はい……というか……。告白できませんでした……相手奥さんいるし……みんなからも信頼されてるし……」
旬「それって、不倫ちゃうんかい!何しとんねん!」
とツッコミを入れる旬。
空「先輩。話最後まで聞いてください。振られてますから……奥さんが大事だって。」
旬「……由美子か?」
と聞く旬。
空「先輩も知ってました?」
と尋ねる。
旬「由美子は、この島生まれやから有名やろ。美人やしスタイルもいいからな」
と説明する。
空「確かに綺麗ですもんね。憧れます」
と羨ましそうに言う。
旬「う?ちょっとまて……奥さんがいる……。」
と顎に手を当て考え込む旬。
空「そうですよ。僕の憧れの人……」
と語る空。
旬「奥さんがいるってことは、旦那さんもおるってことやな……」
と呟く旬。
空「はい。それが何か?」
と首を傾げる空。
旬「もしかして……匠か?」
と推測する旬。
空「正解です」
と笑顔で答える空。
旬「やっぱりか!」
と納得する旬。
空「バレちゃいましたか……」
と舌を出す空。
旬「あいつ外面だけよくて、中身糞やからやめとけよ。」
と忠告する。
空「どういう意味ですか?」
と聞き返す空。
旬「いろいろな。」
と濁す旬。
空「教えてくれないんですか?」
と駄々をこねるように言う空。
旬「いや、教えたくないわけじゃないけど……」
と渋る旬。
空「じゃあ教えてくださいよ」
と詰め寄る空。
旬「いや……。それは……その……なんというか……」
と口籠る旬。
話を逸らすため、何かを探し出す旬。
空「何探してるんですか?」
旬は奥の方に行き探し出した。
旬「あった!これやこれ!」
と言ってカップ麺を手に持つ。
旬「これ食う?」
と問い掛ける。
空「……いります」
と答える。
旬「湯沸かすで……ちょっと待っててや」
と言って給湯器のある場所に向かう。
空は、一人ソファーに座り周りを見渡す。
部屋の中は薄暗く、埃っぽい。
倉庫の床には埃が溜まっている。
天井からは蜘蛛の巣が垂れている。
壁紙には落書きがあり、所々剥がれている箇所もある。
窓の外は雨が降っているのか空模様が悪い。
空は、そんな殺風景な空間にいても落ち着くことができた。
空「いい所ですね……ここ……」
と独り言を言う。
旬が戻ってきた。
旬「お待たせ~」
と言ってカップ麺を机に置く。
空「ありがとうございます。すっごい上手に逃げましたね?」
旬「ああ!俺天才やな!」
と自画自賛する。
空「褒めてないです」
と冷たい目線を送る。
旬「ひど!ちょっとぐらい褒めてくれてもええやんけ!」
と文句を言う旬。
空「はいはい。すごい~すごい」
と適当にあしらう空。
旬「棒読みやん!」
とツッコミを入れる。
二人は食事を始める。
空「下心の話で戻るんですけど……」
唐突に切り出す空。
ラーメンを吹き出す旬。
旬「ゲッホ!ゴホ!ゴホ!……何言うてんねん急に……」
と咳き込みながら反応する旬。
空「先輩は、僕のどこに魅かれたんですか?」
と質問する空。
旬「いや////それは////」
旬は、口先のモゴモゴしている。
空「キモいんで、早く言ってください」
旬「実は……金髪……青眼がタイプ……」
と顔を赤らめて言う旬。
空「キモ……」
と冷たい視線を送る。
旬「ごめんて……。」
空「それだけ?」
旬「あと……あの日……助けた日……空……すごく綺麗に見えた……」
とぼそりと言う。
空「助けた?」
と聞き返す空。
旬「お前が島に流れついた日、助けたん俺や。」
と説明する旬。
空「……え!?」
と驚く空。
旬「……やっぱり覚えてへんか。」
と寂しそうな表情になる旬。
空「ごめんなさい……僕…その日の記憶なくて……」
と申し訳なさそうに謝る空。
旬「謝らんでもええよ。別に責めてるわけちゃうし。ただ……ちょっとショックなだけや」
とフォローする旬。
空「はい……でも、なんとなくですけど、朧げに覚えています……。」
無意識に唇を抑える空。
旬の顔が真っ赤になり耳まで赤くなる。
旬「////////」
旬は、茹蛸みたいに紅くなる。
空「なんかあったんですよね?」
旬「……////////」
と黙り込んでしまう旬。
空「正直に言ってくれないですか?僕にとって大切なことです」
と真剣な眼差しで迫る空。
旬「何にもない!よし!もう遅い家まで送るわ!」
と慌てて取り繕う旬。
空「ちょ!まだ話終わってませんよ!?」
と抵抗する空。
旬「ええねん!気にせんでええ!」
と拒否する旬。
空「絶対何かありますよね?」
と追求する空。
旬「なんもないって!」
と否定する旬。
二人の押し問答が続く。
埒があかないと思った旬は、バイクに乗る。
旬「ほれ、ヘルメット。」
と渡してくる。
空「まだ話は終わってませんよ?」
と注意する空。
旬「この話は終わりや!」
と一方的に打ち切る。
空「強引すぎるでしょ!」
とツッコむ。
旬「しゃあないやん。ほら乗り」
と再度促される。
しぶしぶ承諾して後ろに乗る空。
空「あ!ちょっと先輩!」
と叫ぶ空。
旬「諦めろ」
とだけ言うとエンジンを掛け走り出す。
夕焼けの中を疾走する二人。
空は、風を感じながら考える。
もしかすると僕が失った記憶の中に先輩との思い出があるのではないかと……。
空は、確信めいたものを感じた。
もし仮に先輩と出会っていたならば忘れているわけがないと思ったのだ。
それだけ衝撃的で忘れることができないほどの大きな出来事であったはずだ。
しかし、残念ながら一切覚えていない。
唯一鮮明に思い出せるのは、海で溺れて苦しかったことだ。
他には何も覚えていない……。名前すら思い出せない。
もしかしたら死ぬ寸前だったのかもしれない。
今こうして生きていられることを感謝しなければならない。
自分の身に起きた不幸を嘆くのではなく幸せだと感じなければならないのだ。
旬の背中に抱きつく力を強くする。
旬「しっかり掴まっとけよ。落ちんようにな」
と声を掛ける旬。
空「はい……」
と返事をする空。
海岸沿いを走るバイク。
波の音が聴こえる。
潮の香りが漂う。
車のヘッドライトが道路を照らしている。
夜空には星が輝いており月が出ている。
夜の帳が降りてきている。
月光島は、一日の大半が日没後の暗闇である。
太陽光に比べれば断然少ない光量だが十分な明るさだ。
夜の海を眺める機会は少ない。
昼間とは違った趣があり神秘的だ。
しばらくすると見慣れた景色が視界に入ってくる。
我が家が見えてきたのだ。
家の灯りが見え安心感を得る。
今日は楽しかったと思える一日になった。
それは間違いなく旬のお陰だろう。
また会ってくれるかなと考えつつ別れを告げる。
空「先輩、ありがとうございました」
旬「おう!またな!」
と言ってバイクで去って行った。
それから時々、旬のいる場所に行くようになった。
倉庫の中で一緒に読書したりゲームしたりと楽しい時間を過ごした。
たまに喧嘩したり、笑いあったり、一緒に食事したりと思い出が増える日々だ。
旬は、信用してくれたのだと思う。
実家でいつも一緒にいる後輩を紹介してくれた。
「白井亮二」と「太田義臣」
彼らも、話してみると面白い人達だった。
特に白井は、皮肉屋で捻くれた性格だけど憎めない奴だった。
太田は、喧嘩っぱやく短気で凶暴な一面もあるけど案外素直で可愛いところもある。
4人と一緒にいる時間が増えていった。
白井も太田にも旬が自分に好意を抱いていることは知っている。
でも……旬先輩といると楽しい。
自分がその好意に甘えていることはずるいと思っている。
でも……今の関係を壊したくない。
今は、このままでいいと思っている。
もう直ぐ、新学期になる。
僕は、中学生3年生になり、旬は高校3年生になる。
月光島に季節はない。
だから、桜は咲かない。
でも、満面の笑みで笑う、新しい春の風が、僕を変えようとしている気がする。
僕も、一歩、踏み出そうと思う……。
雪も降らないし……。
でも、収穫祭が終わった後だから島は静かだ。
来年の豊漁を願って「豊漁祭」がクリスマスの代わりみたいなもので、それぐらいにはまた騒がしくなる。
月光島は、観光業も盛んだから、島の繁華街は忙しいみたい。
月光島は、泊るところが一ヵ所で月光島ホテルがある。
老舗でオーナーは、由美子さんのお母さんだそうだ。
年中バタバタしているらしく従業員も大変らしい。
昔は、よく家族で泊まりに行っていたと匠さんから聞いた。
病院は、年末に休みが多いから由美子さんが時々ボランティアで手伝いに行っているらしい。
月光島に流れ着いて気が付けば……1年が経とうとしている。
その間にいろいろあったなぁと思い返す。
色々ありすぎた。
……人生最高で最悪な年だと思う。
出会った人の中には、良い人もいれば悪い人もいた。
匠さん、由美子さん……良い人たちだ……。
だからこそ……大事にしていきたいと思えるようになったんだよね……。
そんなことを思いながら、保健室で課題の勉強をしていた。
ガラッ‼と勢い良く扉が開いた。
空「ビックリした……!」
「あれ?先生おれへんの?」
現れたのは金髪にピアスをつけた少年。
関西弁のイントネーションが耳に刺さる。
制服の袖が赤く染まっていた。
保険医は、職員室に用があると言って席を外している最中だった。
空「あ、はい……。ちょっと用事で出ていて……」
保険医がいないことに気づくと、目の前の男は舌打ちをする。
そして視線を室内に巡らせていたが、すぐに僕と目が合った。
「あんたでええわ?消毒液と絆創膏とかもらえる?怪我してもうてん!」
乱暴な物言いに怯むが平静を装って答える。
空「わかりました……!ちょっと待ってください!」
棚から必要なものを取り出して渡す。
受け取ると早々に離れた場所で治療を始める男の姿を目で追ってしまう。
動きが荒っぽくて痛々しい印象を受ける。
喧嘩した感じで全身汚れだらけだし服もボロボロだ……。
さっきから痛そうな声を出してるのでついつい心配してしまう。
どっかであった気がするんだけど。
空「……どこかでお会いしましたか?」
「いや……初対面やけど……なんで?」
空「なんか……見たことある気がして……すいません……勘違いでした……」
「おかしなやっちゃなぁ……?あんた名前なんていうん?」
空「……僕ですか?……空と言います」
「空か……?お!鼻血……あー!ああああああああ!」
空は、あまりの声の大きさに驚く。
空「ビックリした……。大丈夫ですか?」
「俺や大道寺!」
金髪にピアスをつけた少年は、自らの顔に指を刺す。
空「あっ!」
空は、立ち上がる。
思い出し……空は、慌てて距離を取ろうとした。
大道寺「待って!逃げんな!なんもせん!」
突然の大声に驚きつつ振り返ると彼は真剣な表情を浮かべていた。
何か伝えたいことがあるみたいだったのでとりあえず大人しく座る。
空「えっと……大道寺先輩?なんか風貌変わりました?」
旬「色々あって……髪の毛染めた方がカッコいいかなと思って。それに……ほら!このピアスもな!」
道を指差しながら自慢げに語ってくる大道寺先輩を見て苦笑してしまう。
前に見たほうが怖くて裏の人ぽいが、今見るとチンピラ風だ。
……見た目だけだ。
空「……チンピラみたいになってますよ……」
大道寺「……チンピラ?……そか……やっぱりな……似合わんのかもな……」
大道寺は、しょぼんとする。
空「前の方が、カッコよかったですよ?」
大道寺「……え?ホンマか?……それは嬉しいなぁ~ありがとうな!褒めてくれて」
大道寺は嬉しそうな笑顔になる。
その笑顔を見るとこちらまで釣られて微笑んでしまうほど純粋無垢といった感じだ。
旬は、話している最中にも腕に包帯を巻こうとしていたが、上手く巻けない。
空「それ……巻けてます?」
大道寺「全然うまくいかん……」
大道寺は途方に暮れている。
空「貸してください……。巻きますよ」
旬「できんのか?」
と疑念を感じる視線で見据えてくる。
空「ふっふ……伊達に毎日看護師の由美子さんの世話になってませんからね。大丈夫ですよ。」
旬は、見た目は狂犬みたな姿をしているが心根はとても素直だ。
大道寺「なら任せたわ……」
警戒した犬がすんなり包帯を持ってきた感じだった。
空は、左手首の包帯を解いて丁寧に巻き直していく。
大道寺はその様子を見守っている。
旬「……こないだ、変なことして、悪かった。」
空は、ピクリと反応した。
空「あ、はい……。僕だからよかったけど……ほかの人にしたら、大問題ですからね?」
と注意する。
旬は、バツの悪そうな顔をしていた。
何をしたかというと、空が鼻血を出していたのだが、それを旬が舐めたのだ。
正直キモかったので思い出すだけで鳥肌が立ってしまう。
旬「わかったわ……気ぃつけます」
と反省の色を見せる。
なんか、しょげている犬みたいだなと思わず思った。
空「よし、出来上がり」
大道寺「サンキュ……巻いてくれたから、ジュース奢るわ。」
旬は満足げな顔で礼を述べ、出口の方へ歩き出した。
空「待って下さい!そんな事しなくても大丈夫ですけど……。」
思わず呼び止めてしまった。
大道寺「ええって……奢らせてくれ、何が好きなん?ジュース。」
大道寺がそう尋ねてくる。
空「じゃあ……カフェオレでお願いします」
遠慮することなく好きな飲み物の名を口にする。
旬「わかった……ちと待っといて」
と、廊下に出て行く。
空は、その後姿を見送る。
なんだろうか……不思議な感覚だ。
まるで旧知の仲の如く接してしまう。
だが……何故だろうか?
懐かしい気さえする。
彼といると落ち着く自分がいることに気づく。
旬が出て行って保健医が戻ってきた。
先生「空くん、お客さん?」
空「えっと……大道寺くんが来てました。」
先生「大道寺くんね……。そう……」
先生の顔が曇る。
空「……何かありました?」
先生「実は、彼ね。君と一緒の時期ぐらいに最近問題を起こしてね……停学になっていたのよ。最近学校なんか来てなかったけど、珍しいわね。」
空「……停学……」
あの人が……。
先生「……ごめんね。こんな話して……」
空「いえ、大丈夫です」
そんな事を言っていると旬が戻ってきた。
旬「戻ったで……先生もお帰り……あ、これ空くんのやから」
と缶コーヒーを投げて寄越してきた。
空は咄嗟に受け取る。
空「ありがとうございます」
保健医は、旬の顔を見て、言う。
先生「大道寺くん、また喧嘩したの?」
旬は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
旬「別に……喧嘩売ってきたら買うただけや。俺に喧嘩売ってくる奴が悪いっちゅー話しや」
先生「……暴力はダメなのよ……いくら仕掛けられたとしても……」
旬「わーってる!わーってる!今日は、そんなに派手にやり合ってへんし、手加減したったんやぞ」
先生「手加減って……」
と呆れ顔になる。
旬「暴れて疲れた、ちょっと寝かせてや。ベット借りるわ」
と宣言しベットへ横になる。
保健医「もう……ちょろっとだけね……」
と許可を与える。
旬「助かるわ~」
と言い目を閉じる。
その瞬間眠りについたようで寝息を立て始める。
空「猪みたいな人ですね、彼。」
と感想を漏らす。
先生「……いい表現ね、空君(汗)」
と同意する。
先生「空くん……ごめんね。彼とは関わらないほうがいいと思うわ……」
空「え?」
先生「あの子、素行が悪くてね……何度か注意してるんだけど改善の兆しが見えないのよ。それに最近は停学処分になってね……。きっと彼のことだからまた問題起こすと思うし……お家もお家だしね。」
先生の顔には疲れが滲み出ていた。
きっと苦労してきたんだろうなというのが伝わってきていた。
保健医は、疲れた表情を浮かべながら窓を見つめている。
彼にも色々あるんだろうなと空は思った。
チャイムが鳴り響く。
学校は放課後に入ったようだ。
生徒たちの声がして、廊下は騒がしくなってきた。
空は、机の上を片付けようと椅子から立ち上がる。
先生「……まったく」
溜め息混じりに言う。
旬が起きる。
旬「ふぁー……。あっもう放課後か……」
と大きく伸びをする。
空「……もう放課後ですよ。僕帰るんで。ごちそうさまでした。」
旬「ほな、送っていくわ」
空「大丈夫ですよ……すぐそこですし」
旬「……そうか」
旬はしょんぼりとした顔になる。
空「……わかりました。……一緒に帰りましょう」
旬「おう!」
と元気になる。
二人並んで校門を出る。
旬は、体がデカく身長も高いから隣にいると威圧感がある。
まるで熊みたいだ。
歩幅も違うので、必然的に空が後ろになる。
旬は時折こちらの様子を確認してくれる。
恐らく無理矢理引っ張られてないか気にしてくれてるのだろう。
そんな些細な優しさに触れ心が和む。
旬「あの……その……この間の……お詫びやないけど……この後時間あるか?」
空「……別に大丈夫ですけど……」
と言いつつも警戒する。
また何か企んでいるのではないかと考える。
旬「……やった!じゃあ行くで」
とテンションが上がる。
その様子を見る限り単純な性格なのかもしれない。
旬がスタスタ歩く。
空は、困惑しながらも後に続いた。
辿り着いた場所は、学校近くにある神社だった。
空は、神社の中に入っていく。
神社は、不良たちの溜まり場と化しており煙草の臭いが充満していた。
境内の隅の方にバイクが止まっていた。
空「校則違反、、、。」
と呟く。
旬「……まぁしゃあないな」
と誤魔化す。
旬は、ヘルメットを被り、空にヘルメットを投げる。キャッチする空。
空「僕も乗るんですか?」
と尋ねる。
旬「もちろんや!特別に後ろ乗せたるわ。ほら行くで。」
と言ってエンジンをかける。
空は、慌てて追いかけ後部座席に乗る。
空「安全運転してくださいね!」
バイクは走り出した。
神社を抜けると住宅地に出る。
そこから坂道を下る形でしばらく進むと海沿いに出る。
潮風が気持ち良い。
前方には灯台が見える。
風が体に当たる。
涼しく心地良い。
バイクに乗って海風に当たる空は、エアコンとは違う風に心地よさがある。
潮の匂いが匂い心地が良い……。
ずっと海が続いていることを思い出してさらに心地よさを感じた……。
視界に海と沈む夕陽が写り込んだ。
夏の入道雲と夕日がなんとも言えない光景を作り上げていた。
そんな景色を見つめながらぼんやり考え事する。
最近あった出来事とか思い出した。
空は、思いを馳せていた……。
いつか、みんなで海辺で遊ぶのもいいなと思い描いた未来予想図は簡単に砕け散った。
最初に作った輪っかは粉々になり、跡形もなく消えた。
旬「盗んだバイクで走りだす♪」
旬が鼻歌交じりでバイクを走らせる。
空「盗んでないですよね?」
旬「アホか!盗んでへんわ!子供んときからのお小遣い貯めて買ったんや!」
空「ふっふ……冗談です」
と思わず笑ってしまう。
旬「笑うなや!」
そんなやり取りをしている内に目的地に到着したようだ。
そこは、海が見える公園だった。
アイスクリームを2つ、旬が買ってきた。
ベンチに腰掛けると、ちょうど夕日が沈む時間だった。
旬「やっぱ、ここのアイスうま!」
と嬉しそうにしている旬。
空は、その姿を見て微笑ましくなる。
空「そうですね……すっごく……」
と相槌を打つ空。
旬「俺さ……好きな子と……アイスを……って違うわ!何言うてんねん!アホか……俺……」
と一人で勝手に盛り上がって、勝手に凹んでいる旬。
空は、そんな様子を見て笑いを堪えている。
旬「笑うなや!」
と怒る旬。
空「ハハハハハ。ごめんなさい……つい」
と言いながらも笑い続ける。
旬は、呆れ顔で空を見ているがどこか嬉しそうでもあった。
しばらくして、笑いが治まった頃。空が口を開く……。
空「……下心丸出しですね」
旬「しょ、下心ちゃうわ!」
と慌てて否定する。
空「久しぶりに……こんな声出して笑いました。楽しいって気持ちを最近忘れてた気がするんです」
旬「お前もなんかあったみたいやな?」
空「色々……というか、僕のこと好きなら知ってるでしょ?」
旬「え/////」
と赤面する旬。
空「だって、鼻血出してる僕の舐めるし。……なんで舐めたんですか?」
旬「いや/////あれは……その……なんというか……」
と口籠る旬。
空「キモいですよ?」
旬「……ごめん」
旬は謝罪する。
空「まぁ……面白いのでいいんですけど」
と悪戯っぽく言う。
旬「え?今、面白いって言った?」
と聞き返す。
空「違います。大道寺先輩のお小遣いについてです。」
と訂正する空。
旬「そっちか……」
と残念そうな顔をする旬。
空「ハハハハハ。その落ち込んだり喜んだりする顔が面白いんですよ」
と笑う。
旬「お前なぁ……」
と困った表情を浮かべる旬。
空「ふふ、すいません」
と謝る。
旬「お互いなんか問題児やな?」
空「そうですね……。でも、多分僕らは似た者同士かもしれませんね」
と意味深なセリフを吐く空。
旬は、その言葉の真意を探ろうとするが分からないまま会話が終わってしまう。
旬「なんか暗いねん!」
と笑い飛ばす旬。
空「すいません」
と申し訳なさそうにする空。
旬「謝る必要ないで!ああーもー!本間に偶然保険室で会うなんて思ってないやん。ちょっと神様ーもうちょっといい再会の仕方させてーやー!もっとシチュエーション考えろやー!」
と空に向けて愚痴る。
空「そんなに?」
旬「当たり前やろ!何?初恋やねんからな?ちょっと運命的展開期待してたのに……酷いやん……」
空「キモ……」
旬「お前な!」
とプンスカ怒る旬。
空「すいません。つい本音が……」
と謝る空。
旬「はぁ……まぁええわ。俺のとっておきの場所教えたろ。」
と得意げに言う。
アイスを食べ終えると再びバイクに跨る。
バイクが向かう先は、月光島港であった。
怪しい店やクラブ等がある大人向けの場所だった。
繁華街というにはあまりに胡散臭い店が多く存在していて、昼間なのに薄暗く感じる。
旬「ここや」
旬が案内したのは一軒の倉庫だ。
旬に促され倉庫の中に入る。
倉庫の中は埃っぽく汚れていた。
古びたソファやテーブルなど家具類が置いてある。壁際には段ボール箱が積み上げられている。
空「なんでこんな所に連れてきたんですか?」
と疑問に思う。
旬「秘密基地ってかんじでいいやろ?」
とドヤ顔をする旬。
空「秘密基地って……。」
と呆れる空。
旬「ここは、昔。俺の叔父貴が持ってる倉庫なんやけど、自由に使わしてもろてんねん。」
と懐かしむような表情になる。
旬は、窓を開け換気を行う。
旬「今日はずいぶん暑いからな。換気しとかんと熱中症で倒れてしまうかもしれへんで」
と言いながら窓枠に肘をつき外を眺める。
空は、その様子を黙って見ていた。
空は、改めて倉庫を見渡す。
本棚やポスターが貼ってあり、子供の遊び場みたいだった。
空「結構広いですね、本もいっぱいある。」
旬「まぁな。ここなら人も来んし。静かでええねん俺も時々、読書しに来てんねん。なんかむしゃくしゃした時は…。」
と照れ隠しのつもりか頭を掻く。
旬「ほら。俺って見た目こんなんやし。勘違いされて喧嘩吹っ掛けられることが多いんよ」
空「でしょうね」
と即答する。
旬「おい……。そんなにストレートに言わんでもええやろ」
と拗ねる。
空「というか先輩って、読書するんだ……意外……」
旬「……そやねん、恥ずい話やけどな。……漫画の影響であんまり難しい本は読めへんけど、まぁラノベやったら……ギリいけんねんラブコメ系は特に好きで読んでるねん。主人公がヒロインを守るために奮闘するシーンとか読んでてワクワクせぇへん?」
と聞いてくる。
空「はい、分かります。先輩乙女すもんね。」
とニコッと笑顔を作る空。
旬「……お前な……」
と悔しそうな顔をする。
空「でも……そういう漫画とかアニメ好きですよね?先輩」
と確認する。
旬「……そうやけど……。何が言いたいん?」
空「いや……先輩は純粋でいい人だから、きっと素敵な恋愛できると思いますよ」
と微笑む空。
旬「え///」
と固まる旬。
空「ほら、先輩って根は優しいから」
と続ける空。
旬「あ、ありがとな//////」
と頬を赤らめ下を向く旬。
空「……僕、初恋は失敗しましたけど。先輩は、上手くいくと思います」
旬「……え?お前……彼女おったん??」
と驚愕の表情を見せる旬。
空「……彼女でもないですし……付き合ってもない……お世話になってる人ですよ。」
と苦笑する空。
旬「え?いや、まぁ……な。ほんでどないしたん?」
と食い気味に質問する旬。
空「はい……というか……。告白できませんでした……相手奥さんいるし……みんなからも信頼されてるし……」
旬「それって、不倫ちゃうんかい!何しとんねん!」
とツッコミを入れる旬。
空「先輩。話最後まで聞いてください。振られてますから……奥さんが大事だって。」
旬「……由美子か?」
と聞く旬。
空「先輩も知ってました?」
と尋ねる。
旬「由美子は、この島生まれやから有名やろ。美人やしスタイルもいいからな」
と説明する。
空「確かに綺麗ですもんね。憧れます」
と羨ましそうに言う。
旬「う?ちょっとまて……奥さんがいる……。」
と顎に手を当て考え込む旬。
空「そうですよ。僕の憧れの人……」
と語る空。
旬「奥さんがいるってことは、旦那さんもおるってことやな……」
と呟く旬。
空「はい。それが何か?」
と首を傾げる空。
旬「もしかして……匠か?」
と推測する旬。
空「正解です」
と笑顔で答える空。
旬「やっぱりか!」
と納得する旬。
空「バレちゃいましたか……」
と舌を出す空。
旬「あいつ外面だけよくて、中身糞やからやめとけよ。」
と忠告する。
空「どういう意味ですか?」
と聞き返す空。
旬「いろいろな。」
と濁す旬。
空「教えてくれないんですか?」
と駄々をこねるように言う空。
旬「いや、教えたくないわけじゃないけど……」
と渋る旬。
空「じゃあ教えてくださいよ」
と詰め寄る空。
旬「いや……。それは……その……なんというか……」
と口籠る旬。
話を逸らすため、何かを探し出す旬。
空「何探してるんですか?」
旬は奥の方に行き探し出した。
旬「あった!これやこれ!」
と言ってカップ麺を手に持つ。
旬「これ食う?」
と問い掛ける。
空「……いります」
と答える。
旬「湯沸かすで……ちょっと待っててや」
と言って給湯器のある場所に向かう。
空は、一人ソファーに座り周りを見渡す。
部屋の中は薄暗く、埃っぽい。
倉庫の床には埃が溜まっている。
天井からは蜘蛛の巣が垂れている。
壁紙には落書きがあり、所々剥がれている箇所もある。
窓の外は雨が降っているのか空模様が悪い。
空は、そんな殺風景な空間にいても落ち着くことができた。
空「いい所ですね……ここ……」
と独り言を言う。
旬が戻ってきた。
旬「お待たせ~」
と言ってカップ麺を机に置く。
空「ありがとうございます。すっごい上手に逃げましたね?」
旬「ああ!俺天才やな!」
と自画自賛する。
空「褒めてないです」
と冷たい目線を送る。
旬「ひど!ちょっとぐらい褒めてくれてもええやんけ!」
と文句を言う旬。
空「はいはい。すごい~すごい」
と適当にあしらう空。
旬「棒読みやん!」
とツッコミを入れる。
二人は食事を始める。
空「下心の話で戻るんですけど……」
唐突に切り出す空。
ラーメンを吹き出す旬。
旬「ゲッホ!ゴホ!ゴホ!……何言うてんねん急に……」
と咳き込みながら反応する旬。
空「先輩は、僕のどこに魅かれたんですか?」
と質問する空。
旬「いや////それは////」
旬は、口先のモゴモゴしている。
空「キモいんで、早く言ってください」
旬「実は……金髪……青眼がタイプ……」
と顔を赤らめて言う旬。
空「キモ……」
と冷たい視線を送る。
旬「ごめんて……。」
空「それだけ?」
旬「あと……あの日……助けた日……空……すごく綺麗に見えた……」
とぼそりと言う。
空「助けた?」
と聞き返す空。
旬「お前が島に流れついた日、助けたん俺や。」
と説明する旬。
空「……え!?」
と驚く空。
旬「……やっぱり覚えてへんか。」
と寂しそうな表情になる旬。
空「ごめんなさい……僕…その日の記憶なくて……」
と申し訳なさそうに謝る空。
旬「謝らんでもええよ。別に責めてるわけちゃうし。ただ……ちょっとショックなだけや」
とフォローする旬。
空「はい……でも、なんとなくですけど、朧げに覚えています……。」
無意識に唇を抑える空。
旬の顔が真っ赤になり耳まで赤くなる。
旬「////////」
旬は、茹蛸みたいに紅くなる。
空「なんかあったんですよね?」
旬「……////////」
と黙り込んでしまう旬。
空「正直に言ってくれないですか?僕にとって大切なことです」
と真剣な眼差しで迫る空。
旬「何にもない!よし!もう遅い家まで送るわ!」
と慌てて取り繕う旬。
空「ちょ!まだ話終わってませんよ!?」
と抵抗する空。
旬「ええねん!気にせんでええ!」
と拒否する旬。
空「絶対何かありますよね?」
と追求する空。
旬「なんもないって!」
と否定する旬。
二人の押し問答が続く。
埒があかないと思った旬は、バイクに乗る。
旬「ほれ、ヘルメット。」
と渡してくる。
空「まだ話は終わってませんよ?」
と注意する空。
旬「この話は終わりや!」
と一方的に打ち切る。
空「強引すぎるでしょ!」
とツッコむ。
旬「しゃあないやん。ほら乗り」
と再度促される。
しぶしぶ承諾して後ろに乗る空。
空「あ!ちょっと先輩!」
と叫ぶ空。
旬「諦めろ」
とだけ言うとエンジンを掛け走り出す。
夕焼けの中を疾走する二人。
空は、風を感じながら考える。
もしかすると僕が失った記憶の中に先輩との思い出があるのではないかと……。
空は、確信めいたものを感じた。
もし仮に先輩と出会っていたならば忘れているわけがないと思ったのだ。
それだけ衝撃的で忘れることができないほどの大きな出来事であったはずだ。
しかし、残念ながら一切覚えていない。
唯一鮮明に思い出せるのは、海で溺れて苦しかったことだ。
他には何も覚えていない……。名前すら思い出せない。
もしかしたら死ぬ寸前だったのかもしれない。
今こうして生きていられることを感謝しなければならない。
自分の身に起きた不幸を嘆くのではなく幸せだと感じなければならないのだ。
旬の背中に抱きつく力を強くする。
旬「しっかり掴まっとけよ。落ちんようにな」
と声を掛ける旬。
空「はい……」
と返事をする空。
海岸沿いを走るバイク。
波の音が聴こえる。
潮の香りが漂う。
車のヘッドライトが道路を照らしている。
夜空には星が輝いており月が出ている。
夜の帳が降りてきている。
月光島は、一日の大半が日没後の暗闇である。
太陽光に比べれば断然少ない光量だが十分な明るさだ。
夜の海を眺める機会は少ない。
昼間とは違った趣があり神秘的だ。
しばらくすると見慣れた景色が視界に入ってくる。
我が家が見えてきたのだ。
家の灯りが見え安心感を得る。
今日は楽しかったと思える一日になった。
それは間違いなく旬のお陰だろう。
また会ってくれるかなと考えつつ別れを告げる。
空「先輩、ありがとうございました」
旬「おう!またな!」
と言ってバイクで去って行った。
それから時々、旬のいる場所に行くようになった。
倉庫の中で一緒に読書したりゲームしたりと楽しい時間を過ごした。
たまに喧嘩したり、笑いあったり、一緒に食事したりと思い出が増える日々だ。
旬は、信用してくれたのだと思う。
実家でいつも一緒にいる後輩を紹介してくれた。
「白井亮二」と「太田義臣」
彼らも、話してみると面白い人達だった。
特に白井は、皮肉屋で捻くれた性格だけど憎めない奴だった。
太田は、喧嘩っぱやく短気で凶暴な一面もあるけど案外素直で可愛いところもある。
4人と一緒にいる時間が増えていった。
白井も太田にも旬が自分に好意を抱いていることは知っている。
でも……旬先輩といると楽しい。
自分がその好意に甘えていることはずるいと思っている。
でも……今の関係を壊したくない。
今は、このままでいいと思っている。
もう直ぐ、新学期になる。
僕は、中学生3年生になり、旬は高校3年生になる。
月光島に季節はない。
だから、桜は咲かない。
でも、満面の笑みで笑う、新しい春の風が、僕を変えようとしている気がする。
僕も、一歩、踏み出そうと思う……。
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