ゴミ箱の男の話

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美優の話

第7話 あれから/再会/真由

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ソファーに座りお腹を撫でる美優。
由美子を歩道橋から突き落としてから、梅雨が明け、梅雨が明け、夏になろうとしていた。
由美子は、病院から退院し、家に戻って来ている。
あれから、記憶が混乱しているみたいだ。
美優「いい子ね、早く生まれないかなぁ。」
美優のお腹は膨らみ始めていて、もうすぐ出産である事が分かる。
匠が帰って来て、ソファーに座る美優に言う。
匠「大分、大きくなったね。」
美優は優しい笑みを浮かべて、お腹を擦る。
美優(私は、由美子が好きな男を奪ってやった。そして、勝った。)
階段から羨ましそうに眺める由美子に美優は、まるで虫けらでも見るかのように、薄ら笑いを浮かべた。
由美子は、その表情に気づき部屋に戻って行く。
美優は、それから匠の奥さんの様に振る舞った。
スーパーに出かける美優。
外は日差しが強い。
身体は妊娠してもう臨月に迫っている。
汗ばんで来る、ハンカチを取り出して汗を拭いている。
そんな姿に周りの主婦や息子達が釘付けになって。
美優に話しかける島の住人。
島の住人「久しぶりやね、美優ちゃん。」
美優「あ、高光のおばちゃん。」
島の住人「お腹どうしたの?」
美優「妊娠したの。」
島の住人「赤ちゃんか、おめでとうね。」
美優「ありがとう、高光のおばあちゃん。」
主婦が高光のおばあちゃんに声を掛ける。
主婦「高光なおばあちゃん何してるの!」
島の住人は、美優を見て嫌そうに高光のおばあちゃんを連れてその場から離れて行く。
美優(わかりやすい人。)
スーパーに到着した美優は、買い物カゴを持って歩く。
美優を見てヒソヒソ話し始める主婦達。
島の住人「聞いた、子供の父親は匠さんでしょう?」
美優は、気にせずに買い物を続けている。
主婦は、そんな美優に近付いて小声で囁く。
主婦「略奪?」
美優は、それには応えず無視して行く。
主婦「あの子か?ようやるわ!」
主婦は、そんな美優を見て軽蔑し。
その場から離れて行く。
買い物を終えた美優。
大きなお腹を抱えながら、家に帰って行く美優。
家に帰り机に荷物を置き、ヨーグルトを取り出す。
先程、スーパーでの出来事が脳裏に浮かぶ。
怒りが湧き持っていたヨーグルトを床に投げつける。
美優「ああぁぁあぁ!!」
泣き叫びながら買ってきた物を床に投げ、泣き崩れる。
美優(もうイヤ!なんで、私がこんな目に合うの!私が!匠の子供を産むのよ?何がいけないの!どうして、私が軽蔑れないといけないの!)
床に項垂れ泣いている美優。
そんな時、お腹に激痛が走る。
美優「痛っ!」
どうやら陣痛が始まったみたいだ。
その場に座り込む美優。
痛みは強くなって行くばかり、汗が吹き出て来る。
匠が家に帰って来る。
匠「ただいまぁ~」
匠が入って来た時、美優は廊下に倒れていた。
匠「!?」
美優に駆け寄り呼びかける。匠「どうしたんだ!」
お腹を押させて痛みに耐える美優。
美優は破水する。
美優「うぅ。あぁ、いやぁぁぁ!」
苦痛で顔を歪める美優。
匠は、美優を抱き抱え病院に向かう。
病院に着くと美優は、分娩室に移され。
出産の準備をする医者と看護師達。

病室の分娩室の外で見守る匠。
美優「うぅ、痛ぃぃぃ!ああぁぁぁあぁ!」
全身に力を入れて力む美優。
5時間後。
そして、赤ちゃんが誕生した。
看護師「おめでとうございます、可愛い女の子ですよ。」赤ちゃんを抱く、看護師と疲れきった顔で笑う美優。その目には涙が浮かんでいた。
美優「私の…赤ちゃん」
名前は、麗奈。
生まれたばかりの我が子を抱き、見つめている美優。
何があってもこの子だけは幸せにしないと心に決めた。
美優(私が、しっかり守るからね)
こうして、美優は出産を終えた。
匠「良く頑張ったね」
優しく美優の頭を撫でる。
それから、産後の肥立が良く、退院した。
家に帰ると由美子が出迎えてくれた。
美優を抱きしめ涙を流す由美子。
由美子「おかえりなさい」
美優「ただいま」
由美子「触っても…」
美優は、麗奈に触る由美子の手を拒む。
美優「いやっ!」と由美子の手を叩く。
そんな様子を見る匠は、少し不満に思ったが。
由美子「え?どうして?」
美優「嫌よ!この子に触らないで!」
そんな美優を宥める匠。
匠「まぁ、そう言わないで。」
美優「嫌!由美子に触って欲しくない!私の赤ちゃんよ。」
美優のそんな行動に、ショックを受けた由美子はその場で崩れ落ちる。
匠「由美子、美優は出産したばかりで疲れている。お前の気持ちは分かるが、今はそっとしていてくれ」
由美子は涙を流し「ごめん……なさい」と言って部屋を去って行った。
美優「由美子には、抱かせたり、触らせたくない!私だけの子なんだから。」
匠は、美優を落ち着かせる。
それから、美優は麗奈を由美子にだけ避けて生活していた。
そんな、ある日。
麗奈を抱っこする由美子に怒鳴る美優。
美優「なんで!私の麗奈を抱っこするの!触らないでよ!」
由美子「だって……泣いてるし、どうしたらいいか分からなくて……」
美優は、由美子から強引に麗奈を引き離し叫ぶ。
美優「返して!私のよ!」
そんな、2人を見て止めようとする匠。
美優は、我慢の限界を迎え癇癪を起こす。
美優「もう嫌ぁぁぁあぁあ!!!」絶叫を上げる。
大声を上げ泣き崩れる美優。
匠「落ち着け美優。」
そう言って、美優を抱きしめる匠。
泣き止むのを待ち、そのまま寝室に連れて行きベッドに寝かせる。
由美子は、リビングの椅子で座っていた。
匠が2階から降りてくる。
匠「由美子、頼むから麗奈に触らないでくれ。美優が、嫌がっているだろう」
そう言われ泣き出す由美子に匠は続ける。
匠「わかってやれよ、由美子。美優だって辛いんだよ」
そう言って匠も自分の部屋に行く。
1人残されたリビングに居る由美子。
それ以来、美優は由美子に当たりがキツくなった。
由美子は、トロくて、家事が苦手。
今まで良く匠の奥さんができたと思う程だ。
美優「ほんと!何してるの!邪魔よ!」
由美子「ごめんなさい。」
美優(皿ぐらい片付けなさいよ!)
由美子の家事の酷さにイライラは募る一方だった。
匠「美優、由美子を責めるのはやめろ。由美子も精一杯やってるんだ。」
由美子を責める美優を説得する匠だが、聞く耳を持ってくれない。

美優「匠のためじゃないよ、私が迷惑してるのよ!」
匠「由美子は、良くやっているよ。」美優(なんで!どうして、匠はあの女ばかり庇うの?もう嫌……)
ますます苛立ちを隠せない美優。
そんな時、匠のスマホが鳴る。
画面を見ると相手は、真奈と名前が出ていた。
匠は、通話ボタンを押すと真奈の声が聴こえた来た。
真奈「もしもし、会いたいよ。」
電話越しにもわかる。
真奈は、とろんとした甘い声だった。
美優は、電話に苛立ちを感じた。
匠には、自分の他に愛人が沢山いるのを知っている。
真奈と言う人は、美優と同時に匠の子供を産んだ。
美優は、匠の携帯を奪い取ると真奈に言った。
美優「いい加減にしてよ!もう電話掛けて来ないで!私と匠の生活を邪魔しないで!」
美優は、真奈との電話を一方的に切り。
そして、携帯を折る。
匠との生活は、充実しているのに邪魔をする由美子や真奈が嫌で堪らなかった。
匠「美優。何、そんな酷いことしてるんだよ!」
美優「知らない」そっぽを向く。
匠「怒るなよ美優。ほら、麗奈を見てるぞ。」
匠は優しい口調で言うが美優のイライラは収まらない。
美優「いつになったら、離婚してくれるの!」
匠「それは、もう少し待ってくれないか?由美子が不安定になる」
美優「そんなの、あの女が耐えれば良いでしょう!」
匠「美優。落ち着け」
美優「私が島の人からなんて呼ばれているか知ってる?略奪女、愛人!」
美優は、怒りに任せて叫んで言った。
島では、美優はこう言われているのだ。
匠「仕方ないだろ!事実なんだし、お前が俺を選んだんだから」
美優「私は!貴方に脅されたから!関係を持っただけなのよ!」
匠は、呆れて大きなため息をつく。
美優「何よ!その態度!私はね、匠なんて好きじゃなかったんだから!」
美優はついに言ってはいけない事を言ってしまった。
匠は美優に平手打ちをした。
美優は、膝から崩れる。
美優「うぅっ」と泣き出す。
匠「お前は、俺の女で俺はお前の物だ!それを忘れるな!」
そう言って、部屋を出て行った。
美優は泣きながら、叩かれた頬を押えて蹲っていた。
それから3年後、美優は23歳になった。
元々、匠には愛人など女遊びが激しかったが、ヤクザの女に手を出してしまった。
ヤクザの女は、組長の奥さんだった。
そいつらに匠は制裁を喰らった。
指を詰めさせられて、ボコられた挙句。
女を出せと要求された。
病室
美優「どうするのよ?」
美優は、入院中の匠の世話をしながら言った。
匠「今、丁度いい女がいないんだ。」
美優「はぁ」ため息をつく。
美優(あんたが、ヤクザの女と揉めなければ良かったんじゃない!)心の中で愚痴をこぼす。
美優「由美子がいるじゃない?」
匠「由美子は、そんな浮気できるような女じゃない。」
美優は、ため息をついて。
美優「由美子は貴方が絶対なんだから、言えばやってくれるんじゃないの?」
匠「そんな、上手く行くかよ。由美子じゃ絶対無理だ。」
美優「一回関係を持たせてしまえば、罪の意識で、貴方にも話せず言いなりになるわよ」
匠「じゃあ、それで行くか……」

由美子には、嘘を付き借金でヤクザに脅されてると言い、その借金返済のために仕事を提供してくれると言い、協力して欲しいと納得してもらった。
指は鮫に喰われたと言って誤魔化した。
それから、大道寺誠也というヤクザに由美子は紹介された。
それから数ヶ月後。
由美子が誠也の所から予定より早く帰って来ることがあった。
体調が悪くなった。
でも美優は気が付いていた。
女にしかわからない。
服が乱れていたから。
誠也の所で何かがあったのだろうと直ぐに分かったが、何も言わなかった。
ソファーに座る匠に後ろから抱きつく美優。
美優「匠さん、由美子、上手く誠也さんに気に入られたみたいだね。」
匠は、驚きながら言った。
匠「気づいていたのか?」
美優「当たり前でしょ?」そう言って匠の正面に向き直り、抱きつく美優。
唇が触れそうになるような近い距離で囁く。
美優「ねぇ……誠也さんって上手?」と妖麗に微笑みながら言った。
匠「なんだよ急に……」
美優「だって、気になるでしょ?あの人、経験豊富そうだしさ……」そう言って顔を少し横に向かせて口づけをする。
匠「……まあな、でも俺の方が上手いよ。」と言って、そのまま美優をソファーに押し倒した。
美優「きゃぁ!」
美優(本当に、この人は仕方のない人ね……でもそんな所も嫌いにはなれないのよね……)
美優は、匠の首に手を回し抱きついてキスをする。
それから由美子が夜勤勤務が増えた事に美優は気がつく。
美優「今日は、誠也さんの所にお泊まりね…?」
美優は、ニヤリと笑った。
匠が後ろから美優を抱きしめて、由美子の事を話していた。
匠「誠也さんと宜しくやってるみたいだよ。」
美優「良かった。だから言ったでしょ?」
匠「あぁ、美優の言う通りだったよ。」と自分の額をコツンと当てて言う。
美優「匠には、私がいるから……」と言い、キスを求めた。
匠「あぁ、俺には美優がいてくれないとダメだな。」と言いながらキスを返す匠に「そうでしょう?」
と言って微笑む美優だった。
それから1年後、美優は匠との2人目の子供を妊娠した。
由美子が最近、誠也との合瀬で、精神的に疲れているのを感じ取った美優。
美優「匠?そろそろ由美子限界かもよ。」
匠「ああ。俺もそろそろだなと思っていたんだよ……」
美優「一日中、罪悪感と快楽に板挟みされてるわ。」
匠「そうだな……じゃあそろそろ堕ちて貰おうか…。」
美優「そうだね。匠のために頑張ってもらおっと。」
それから数日してから由美子は、快楽に堕ちたと匠が報告を受けた美優。
美優(やった…やっと由美子も堕ちた!)
そして、数ヶ月後。
匠と由美子は会話をせず。
ある日、2人で真剣に話し合っていた。
美優は、麗奈を連れて公園にいた。
麗奈は4歳になった。
麗奈「由美子おばちゃん、なんか元気なかったね。」
麗奈もこの奇妙な生活に気づいており、由美子の異変にも気付いていた。
美優「うん、そうだね……」と答えた。
麗奈「早く元気になって欲しいな。しゃないとお部屋が暗いよ。ママ。」
美優「今日、パパとお話ししてたから、きっと大丈夫だよ。」
麗奈「そうだね!美優ママの言う通りだね!」無邪気に喜ぶ麗奈の頭を優しく撫でた。

美優(私もこの子の笑顔の為に、頑張らなくちゃね!)そう思いながら帰路に就くのだった。
家に帰ると匠が由美子のお腹を撫でていた。由美子は、急に涙を流して泣き出してしまった。
そんな様子を見る美優と麗奈。
匠「おかえり。美優、冷麺」
美優は顔が弾きっている。
美優「どういう事?」
美優は事前に匠から由美子と離婚すると聞いていた。
しかし、2人は仲睦まじい感じでいる。
匠「麗奈、兄弟が生まれるよ。」
と麗奈の頭を優しく撫でる匠。
麗奈「やったー!!」
美優「由美子…妊娠したの?」
青ざめた表情で由美子に聞く美優。
由美子「うん…。」
由美子は、後ろめたさを感じて美優の目を見ることができなかった。
美優「匠さんの子供じゃないのに産むの?」
と静かに怒る。
そんな美優に驚く由美子。
その傍らでは、麗奈が由美子のお腹を撫でている。
匠「麗奈、パパ達話があるからお部屋に行きなさい。」
麗奈「うん。ママ後で来てね……」
美優「後でね。」
麗奈が部屋に帰った後、美優は匠と由美子に問い詰める。
美優「なんなのよ!その女は!匠の子供を妊娠してるんでしょ?それなのに!なんで離婚しないの!」
と大声で怒る美優。
由美子は、俯いて黙って聞いている。
2人とはとても気まずい雰囲気が漂っている。
匠「落ち着けよ!」
由美子「もういいの……」悲しげな声で答える。
美優は、2人の行動が理解できずに頭が混乱してしまう。
美優「訳わかんない!」と言って由美子を睨んで部屋を出る。
匠は、呆然とする由美子に言った。
匠「すまない。美優は俺が納得させるからな?今はお前に集中しろよ?俺には由美子しかいないんだから。」と笑顔で言った。
そして、月日が経ち由美子は誠也の子を産んだが、すぐに養子に出した。
美優も同じ時期に匠の子を産んだ。
名前は、陽一。男子だ。
美優(由美子。いい気味よ。匠の子供じゃない子供を産むなんて……。結局養子に出して……。あの女らしいわ。)
こうして、由美子と美優の時間は流れてゆくのだった・・・。
25歳。
それから、由美子は退院して、身体が落ち着き看護師の仕事に復帰した。
私は、子供が2人もいて、専業主婦になっていた。
匠はまだ由美子と離婚しない。
美優は、この奇妙な暮らしに疲れを覚えていた。
そんな折、由美子が夜勤のシフトが多くなっているこてに気がついた。
美優「最近、由美子遅くない?シフトの量。」
匠「あぁ、夜勤を増やしたらしい。仕事で紛らわしたいらしいよ。」
美優「ふーん」
美優(いいご身分よね。夜勤なんてね……)美優らしいと嫌味を言う。
**************************************************
ある夜、匠と由美子が部屋で行為に勤しんでいる。
由美子「あぁー気持ちいい!」
匠「久しぶりだな。」
由美子は、正常位で股を開き、匠を受け入れていた。
由美子「はい……。あはっ、気持ちいい……。」
匠が腰を振り出す……。
由美子は、匠の首に腕をかけ引き寄せる、匠の動きが速まる、同時に二人の喘ぎ声も大きくなっていた……。
匠「由美子は本当に可愛いくて良い子だよ……」

由美子「匠さんの子供産みたい……です……。お願いだから中にいっぱい……出して下さい……。」
匠「出すぞ……!」と言い膣奥に勢いよく放たれるとそのまま、由美子を匠が覆い被さった状態で果て、由美子が痙攣した様に、ヒックヒックイキ続ける、やがて力なく倒れる。
美優は、その声を寝室で聞いていた。
美優は、爪をカリッと噛む。
美優(何よアレ……。完全に楽しんでるじゃない!あの女たらしめ!!)イライラしながらも、内心は羨ましがっていた。
程なくして、由美子が妊娠する。
美優「そう……産むのね」
と抑揚のない声で言い部屋に戻った。
匠は由美子を抱き寄せ、腹部に優しく手を当てていた。
そんな2人を見た美優は怒りに震える。
美優(あんな、あの女の為に私が我慢しなきゃいけないなんて……!)
**************************************************
太陽がじりじりと照りつけている。
熱気を帯びた風が汗ばんだ首筋を吹き抜けた。
目の前の坂を見上げると、その頂上にある小さな神社の境内で遊ぶ子供たちが見える。
母親は少し後ろを歩いていたが、時折立ち止まっては娘の手を引いてまた歩き出すのを繰り返していた。
はぐれないように繋いだ手が、親子の絆を表しているようだ。
真上から容赦なく照りつける太陽のせいでアスファルトはゆらゆらと揺らめいており、まるで陽炎のように視界を歪めている。
真下から見上げた神社の入り口は暗くぽっかりと口を開けていて、どこか不気味な雰囲気すら漂っていた。
真夏の暑い日差しの中でも、不思議とその場所はひんやりとしているような気がした。
2人は楽しそうに笑い合いながら、ゆっくりと坂道を登っていく。
そして麗奈の手を取ると再び歩き出した。
祭り囃子が聴こえてくる。
賑やかな太鼓や笛の音に合わせて踊る人達がいる。
屋台からはソースの焦げる匂いがする。
沢山の子供の声が飛び交っている。
提灯の明かりの下で人々は踊り狂っていた。
この日の為に用意した浴衣を着ている女性達もいる。
美優が子供の麗奈と手をつなぎ、歩いている、島の人達を見つけニッコリ微笑み挨拶を交わしてきた。
美優「いつも主人がお世話になってます。」
島民「あら……美優ちゃん、お久しぶりねぇ。今日は、麗奈ちゃんと一緒?」
麗奈が可愛らしく笑顔を見せ、手を挙げて振る仕草をする。
島では知らない者は誰一人としていなくなっているぐらい麗奈はこの島に馴染み人気者であるようだ。
5年前に起きた殺人事件は未解決のまま、迷宮入りの事件となっている。
真由も未だに、行方不明である。
美優は麗奈を見ながら、嬉しそうに「はい、そうです。」と答えた。
島民「そういえば、由美子ちゃん元気?」
由美子の事を心配され気にかけてもらってる事に感謝をし、深々と礼をする。
美優「……本当にありがとうございます……元気ですよ…………とても優しい旦那様に守られて……幸せでいます。」と、感謝の言葉を伝えた。
すると、「よかった~。妊娠したって聞いて、あれ以来、会っていないのよね……たまに見掛けるけど……なんか大変だったわねぇ……。」
島民2「みんな由美子ちゃんのことすごく心配してたんだから……」
1人の老人が会話に入ってきて口を挟む。

その老人に皆一斉に目線をやり、黙った……。
そして……誰も言葉を発するものが居なかった。
ただ沈黙だけが流れた……。
しばらくして皆、目を瞑り俯いて……由美子のことを思い出し悲しみを噛みしめている様子だった。
美優「匠さんの子供を妊娠して、悪阻が酷い時があって辛かったみたいだったけど……今は凄く落ちついて、赤ちゃんを産むために頑張ってまよ?」と話した途端だった、皆の顔つきが変わった。
皆、由美子が何をされたか、知っているのだ。
由美子が本当は誰の子供を身ごもっているのか、この島で皆知っている。
しかし、なぜか皆沈黙するのか。
だから美優はあえて言わずにいる。
5年前の惨劇を繰り返さないようにするために、島民は暗黙の内に口を閉ざしている。
随分前から月光島は、観光地を主にしている為、島で殺人が起こったなんてことがあれば、観光客の集客に影響が出て商売ができなくなる。
だから皆、殺人事件を闇から闇へと葬っている。
しかも、強姦によるレイプも多発しており、それもまた問題になる為、島民は事件を隠そうとする。
麗奈「今日は、祭りがあるんだよ!」と言いながら、走り回りはじめた。
子供というのは残酷で無邪気なもので……自分の母親が一緒に住んでいる幼なじみの親友を殺そうとしたという現実を知らない……。
それ故に、今こうして美優が明るく生活できている事、何不自由なく暮らせる環境にいる事も麗奈には分かっていない……。
梶と真由がこの世に存在していないからこその生活が出来てるのだという事は、理解できていないだろう。
島民「まあ、そうなのね~。楽しんでいってらっしゃいな~」
と言って麗奈に手をふり返すにつられ島の人達も手を振る。
麗奈と美優は手を繋ぎながら歩いていく。
この島は、人口が少なく、住んでいる人はみんな親戚のようなものだ。
この島にいるほとんどの人はみんな仲が良い。
みんながお互いを助け合っているのだ。
みんなで協力し合う。
それがこの島の掟みたいなものらしい。
島民1「由美子さんも大変よね……旦那があれじゃあ……」
島民2「本当にそうだわね……愛人に子供を産ませて、愛人が奥さん気取りなんだからなぁ」
と、ヒソッと話していた。
2人が聞こえないように言った一言。その言葉が島民達の本心であり、由美子を追い詰めている本当の原因だろう……。
島民3「由美子さん、精神病院に通っているらしいからね。可哀想に……」
島民4「匠が由美子の事、ヤクザに慰め者に差し出したらしいぞ」
5年前に島で起きた出来事を知る島民達が話をしていたようだ……。
5年前に起こった事件はヤクザの力を借りて、秘密裏に処理をした。
警察沙汰になれば色々と面倒なことにもなっていた。
ただあの事件があったからなのか、その後の5年間で由美子は変わってしまったようであった。
島中では、由美子の妊娠が分かってからは、話題になっていた。
島民5「今、妊娠している子供ヤクザの子供を産んだって聞いたんだけど……」
島民6「えぇ!?それ本当か?それはちょっと信じられんけど……」
島の大人たちも、由美子の噂話で盛り上がっている様子だった……。
由美子は美優や麗奈がいる神社まで登る。坂の途中で立ち止まり、後ろを振り返った。
美優「嫌な島。早く行こ。」と美優は言った。

麗奈「うん……。」と言い、再び歩き出した。
島民7「いやマジだって!うちの爺ちゃんの知り合いの知り合いの人からの情報だから、間違いないって」
島民「あーあ……あの人なら仕方ないか……」
住人たちはみんな知っているのだ。
由美子が精神科へ入院して治療を受けていた事を、 妊娠している子供が誰の子供なのか…………。
匠と美優のことを。
「なんか色々お店あるね!」
麗奈は嬉しくてテンションが上がってしまっているようだ。
目を輝かせている麗奈が可愛くてしょうがない。
私まで笑顔になってしまう。
美優は幸せを感じていた。
こんな日々がずっと続けば良いと思っていた。
島民「ほら、由美子が流産したことあったじゃない?覚えてる?」
住民「うん、もちろん。覚えてるさ」
住民は話し始めた。
住民「実は、流産したの誰かに突き落とされたって…その時に美優ちゃん、妊娠してて……由美子に匠の子供が産まれるのが気に食わなくて、それで歩道橋から突き落としたって、噂になっているみたいだよ?」
住民2「怖すぎだよ。まだあるぞ、真奈ってほら、孤児院出身で、高校通ってた子いたろ?その子がな匠の事好きだったみたいで、匠と不倫関係で、真奈妊娠したらしいんだよ。由美子にバレて、由美子と匠が大喧嘩。修羅場だったらしいぞ、歩道橋から突き落とされる前の日の話だから。」
住民「でも、真奈って子、自殺したんじゃなかった?子供産んでから?」
住民「そうよね、たしか、で、裕太くんを匠が育てることになって…
でもそれも長く続かなかったよね。裕太君施設に預けてたっけ」
住民「でも、ほら由美子のお母さんの絵見さんいるじゃない?」
住民「絵見さんが、匠と浮気してるのが原因だって浮気もあるし。」
住民の話はまだまだ続いていた……。
住民「そうそう、でもね絵見さんの二人目の子供の花音は、匠が父親だって言う人もいるし。」
住民「いやだぁ……わ。それ由美子ちゃん知ってるかしら……それ。」
住民「いや、知らないと思うよ。でももし知ったとしたら……考えたくもないよね。由美子さんの今の現状があるわけだし…………」
住民たちの噂話は続いていた。
住民「でもほら、喫茶店アネモネの美優ちゃんの妹の真由ちゃんいたじゃない?行方不明になったままだけど。」
住民「ああ、いたわね。」
住民「緑島で見かけたらしいのよ、真由ちゃん妊娠してたみたいで、病院に行ったところを見たんだって。真由が妊娠している相手なんて想像つかないから誰も気づいてないと思う。」
真由の行方も未だに分かっていない状況が続いていたのだが……。
住民「俺、いなくなるちょっと前、匠といるとこ見たぞ、仲良さげだったもんな」
住民「もしかして、真由ちゃんにも手出してたのかしら匠。まあ真由ちゃんも匠のことが好きなようにみえたけど……まさかそんなねぇ~。」
住民2「まああくまで噂だけどね。まあ可能性はあるかもな」
住民の話はまだ続いた。
住民2「でもさ、匠って結構浮気しているんでしょう?由美子さんがかわいそうだよね、なんか気の毒になってくる。」
住民1「ほんと気の毒よね、ヤクザの慰めものになって、子ども生ませられてるんだもん。」
住人たちが話をしていた。
美優と麗奈は、金魚掬いをしていた。
麗奈「ママ!見て!」

美優「すごいー上手いな~♪麗奈は。パパに見せようね?麗奈。」
麗奈はニコニコしながらうんとうなずいていた。
はじけた表情をして美優をみている麗奈に美優はとても可愛いいと思った。
そして、家路を歩く美優と麗奈。祭り囃子の音色が遠くで聞こえる。
花火の弾ける音に合わせて太鼓が鳴る。
祭囃子に乗って人々の楽しそうな笑い声が響いていた。夜空を見上げれば満天の星が広がり、大きな花火が打ちあがる度に歓声が上がる。
今年もまた、祭りの夜が訪れたのだ―――。
お祭りは、とても賑わい活気に満ち溢れていた。
夜も更け、神社からは人が減り静寂が訪れている。
月明かりと提灯の明かりだけが、灯っていた。
祭りの賑わいもいつの間にか遠くへと去っていき 寂しげな雰囲気が漂っていた。
美優「あの時に、私も逃げれたらな……」
美優は呟く。
その声は誰にも届くことは無い……。
美優は麗奈と家路に帰る途中、話かけられる。
男「美優か?」
美優は振り向く。
美優「大輔?」
(なんでここに……)
そんな疑問を考えながら、立ち尽くしていた。
麗奈はキョトンとした表情だった。
大輔「久しぶりだな美優。」
美優「あれ?島に戻って来たの?4年ぶりじゃん」
大輔「ああ、そうだ。こっちに仕事で帰って来ているんだ……」
美優「そうなの…」
美優と大輔は、4年前匠と不倫関係になるまで付き合っていた。
大輔「元気そうだな?」
美優「そうね。」
大輔は麗奈を気にした。
美優「あ、私の子供上の方よ。もう1人はお留守番。」
大輔「そうか……、結婚したのか。」
美優「…してないわ。」
美優は笑顔を作って笑った。麗奈がこちらを心配そうに見ている。
大輔「真由ちゃんに聞いた事は、ほんとだったんだな。」
美優は、真由と言う名前を聞いてビクッと反応してしまう。
美優「大輔、なんで真由の事知ってるの?」
美優は慌てる。
(まさか!匠が喋ったんじゃ……)
そんな考えがよぎり青ざめていく。
大輔「いや、真由と結婚したんだよ、俺。」
美優「え!?真由と結婚してるの!?」
(そんな、ありえない……なんで?)
大輔「緑島で、再会したんだ。そこで色々あってな。それで、結婚することになったんだ。」
美優「そうなんだ。」
大輔「一回、ちゃんと話したい。」
と手にメモを渡された。メモには場所と時間、店の名前が書いてあった。大輔らしいと思ってしまった。彼はこうゆう人なのだから。
麗奈「ママ、行こうよ!」と手を引っ張られる。麗奈を見るとニコニコと嬉しそうな表情をしていた。
美優「そうね、大輔。じゃあ」
美優は、大輔と別れ家に向かう。
麗奈がはしゃいでいたからなのか着くまで少し時間が掛かった。
夜、麗奈と陽一が寝静まってから、メモを再度見る。
真由が待ってると書いてあった。
美優は、酷く怯えていた。
美優(匠に気づかれない様にしないと。)
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