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プロローグ

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「うっうっグスッ、うぇーん」
 太陽が窓を斜めに差し掛かる頃、真っ赤な光が机の上のコップを反射し何気なく綺麗に光っていた。周りを見ると、その部屋は広く、小説の挿絵やアニメでしか見たことのないものばかりが並べられている。

 大きなふかふかのベッドに、何万円はするのではないかと疑う繊細な模様のカーペット、天井には金色のシャンデリアなどなど、そこはどこかのお姫様、あるいはヨーロッパの身分が高い者の部屋と思わせる。

 しかし、その雰囲気を壊すように、そしてそれよりも注目してしまうのが、泣いている女の子だった。

 シンプル、そして少し汚れたお下がりのような服装を見に纏い、まだ泣くのかと思うほどに涙を止めない。
 金色に波打つ艶やかな長い髪、海を想像させる大きくて青い瞳。そして、その整った可愛らしい容姿の十も満たなそうな少女は、部屋の隅で小さくうずくまっていた。

 手足には青あざや赤い晴れがたくさんあり、頬や口は腫れを超えて血が滲み出ている。なんとも痛々しい見た目だが、それ以外にも気になるのは手足が異常にも細いことだ。
 部屋の感じからは裕福であるはずなのに、充分な食事を摂れていないのは違和感である。
 手の甲からは筋が浮き出り、すぐにでも折れてしまいそうと心配するほどに痩せている。

 だが、怪我して泣いているのか、お腹が空いて泣いているのか、と言うよりも少女は孤独を感じているようなどこか寂しい雰囲気を放っていた。

 何度か嗚咽を漏らし、つい心配してしまうその様子だが、部屋の外からでも聞こえる声音なはずも皆知らぬふりで通り過ぎている。

 使用人も兄弟も親も、うるさいと舌打ちをしてドアを蹴ったり、迷惑だと声を上げたりしながらも、そのまま全員が通りすぎて行った。

 いじめ。それを連想させる周りの対応、少女が泣きじゃくることの理由と思わせる。

 チクタクと時計の時間は止まらず、ドアが開いて誰も声をかけない。ただ、ほとんどの変化はなく時間だけが前に進み、窓から溢れる夕日の光は消え失せ、闇に包まれていった。
 時間が経つにつれて、だんだんと少女の泣き声は勢いを無くしていき、ついには止まった。
 目から感じる熱と荒い息遣いが収まるまで、まだじーっとうずくまっていて、夜の寒さに体が震えはじめると、それを凌ぐようにベッドにゆっくりと向かっていった。

 そして、ふかふかで暖かい毛布に包まると、泣き疲れたせいなのか、すぐに興奮した精神状態から眠へと入っていった。
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