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8・バイオレンス異世界

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血の雨が降った・・・。
物理的に・・・。

呆然とする僕の心を置いて、両親はいたって普通に話している。

「わ~!ザンシシの肉がいっぱい狩れたわね!今日はお肉焼きましょうか?」
お母さん・・・。
ほっぺに血がついてるよ・・・。

可憐なお母さんがバイオレンスキャラになってしまったように、所々に被った血が付いている。

「やった!美味いんだよな~こいつ!
角も結構綺麗な状態のザンシシだったな!今回のピクニックで狩った素材は明日売りに行くか!」
お父さんが豪快に笑いながら、ザンシシと呼ばれた怪物の角をガツッと剣を突き立て外している。

お父さんの血まみれ度合いは、もはや赤い人みたいになっている。

「ちょっと待っててね~レグちゃ~ん♪」
なんて言ってお母さんが魔法でザンシシを大きなブロックに切り分けて、そのブロックを不思議な空間に、ぽいぽい入れていく。
お父さんは爪や牙など、固めの物をスパスパ切り分けて、バッグにポコポコ入れる。
四次元ポケットみたいなものなんだろうか、明らかに容量と入った量が違う。

繰り広げられるファンタジックな光景と、生々しい血みどころの光景が何ともミスマッチで、僕は真っ白な頭で口をあんぐり開けたまま、ただただ突っ立っていた。

ああ、ファンタジーの世界でも、空は青く美しい。

「レグちゃん?ごめんね?びっくりした?」
僕が現実逃避している間に作業はサクサク進んだらしい。
お母さんはそう言いながら、僕に付いた血を拭いてくれる。

「う~ん。落ちないわね~。湖まで我慢できる?
湖で洗いましょうね?」
僕はなんだか気持ち悪かったけども仕方ない。
でも、もうお父さんには抱っこされたくないかも・・・。

僕はお母さんに抱っこをねだる。
「レグちゃんはお母さんが抱っこしようね~。」

「湖までまだまだ、モンスター出てくるからね~。」
にっこりと可愛らしい顔でお母さんはさらりと言った。

僕は青い顔で、固まってしまう。
この世界はバイオレンス過ぎる~~~~!

僕が何度か現実逃避をしている間にお父さんはバッタバッタとモンスターをなぎ倒し、お母さんはザックザックと素材を回収していく。

美しく壮大なファンタジーの神秘の森は、僕らが通った後は血だまりが出来て、僕の森の印象もモンスターのうじゃうじゃ居る魔境に塗り替えられた。

異世界怖い。異世界怖い。

「レグルス~!湖付いたぞ~!」
そこには僕の異世界の森に対して閉じた扉も、ぱあっと開くほどに綺麗な湖があった。

キラキラと光る湖のほとりには色とりどりの花が咲き乱れ、虹色の輝くはっぱを持つ木々がさらさらと美しい木陰を作る。
湖の水は透明度の高い水色で、宝石のように色とりどりの石が水の中から飛び出し日の光で輝いている。

「しゅごい・・・。」
さっきまで死んだ魚の目だった僕の目は、今はきっとキラキラに輝いているに違いない。

ほっぺたがピンクに上気して僕は興奮して、早く抱っこから降ろして欲しくてじたばたした。
「わ~~~~!かしゃん!はやく!みず!
ぼく!いきたい!」

「ふふふ。レグちゃんかわい~~!
おろしてあげるね~」
興奮する僕の後頭部にチュッとキスして僕を原っぱにおろしてくれる。

僕の降り立ったふわふわの原っぱには、小さな花が鈴のような音を鳴らして揺れている。

綺麗!
僕が歩くと花が揺れて綺麗な音が鳴る。

楽しくなった僕が足をバタバタさせてると
「レグ~!お父さんと湖のほとりまで競争するぞ~!」
と言ってかけっこのポーズをする。

「とうしゃ、はやい。
、かてにゃいよ~。」
お父さんならひと飛びでビュンじゃないか。

「大丈夫!レグちゃんお母さんがお父さんに重力魔法かけて遅くしてあげるからね~」
と言って、魔法陣を空中に描き、お父さんに投げつけた。

「グぇ!!お、おっっっっも!!
ぐぅ!こんな本気のやつかけるか~普通~!!!」
父さんが空間が歪むほどの重力に、奥歯を食いしばる。
骨のきしむ音が聞こえてきそうだ・・・。

・・・・えげつない・・・。

「ほら~レグちゃん~!頑張れ~~!」
お母さんは満面の笑みだ。

僕とお父さんはこの無邪気なかわいい顔にとんでもなく弱いんだ。
「おとしゃ!しょうぶ!すたーと!」

そう言って僕はとととととっ!と走る。
僕の周りを妖精さんが応援して飛び回る。
綺麗なキラキラした音に沢山の笑い声。
僕は楽しくなって、湖まで笑いながら駆けていた。


「ほぅ!かわいい坊や。子供は久方ぶりだ・・・。」
湖の中から響き渡る涼やかな声がした。


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