シニカル ショート ストーリーズ

直木俊

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嘘つきは病気のはじまり

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安田には特殊能力がある。

人の心の中を見透す能力だ。物心がついた頃からあり、それが当たり前だと思っていた。子供の頃は、人を助ける事に能力を使い皆から人気があった。

小学生の高学年になった時、状況が変わった。友達の心の中と、言っている事が違ってきたのである。その上、そのことを指摘すると、平気な顔で否定するのだ。安田は、心の中と、言っている事が違わない友達とだけ、付き合うようになった。

社会人になると、ある法則に気がついた。自分に嘘をつく人は、世渡りが上手い事だ。嘘も方便というが、嘘をついたほうが、出世も早い。しばらくすると、安田にだけ裏表のある人間の顔が醜く歪んでいるのが判った。周りの人達には、普通の顔に見えるようで、全く異変に気付かないようだ。もうしばらくすると、目が真っ赤になって鬼の様な顔つきになったかと思うと、体調を崩し、入院や休職をしてしまう。

安田が目を凝らすと、すべての人の、胸の真ん中あたりには、魂が見える。その人が嘘をつくたびに、魂が苦しそうに、もがいているのが分かる。それを、四六時中やっているのだから、体を壊さないほうがおかしい。彼には、それを、四六時中、体を壊すまでやっているのは尊敬に値すると思えるくらいだ。

どうして、そこまでして嘘をつくのか。多くの人にとって、全く嘘に自覚が無いのだ。だから、なぜ体が不調なのか不思議でならない。多くの人が苦みを取り除こうと、病院巡りをするが、原因が分かるはずもない。彼らの魂が救われる事も、体の不調が和らぐ事もないであろう。
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