シニカル ショート ストーリーズ

直木俊

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認知症の真実

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私の母親、千恵子は認知症の八十歳だ。

三年前に認知症を発症し、グループホーム (認知症に特化した手厚い保護を受けることが出来る国から認可された施設)に入所している。幸い気の合った友達に恵まれ、楽しく暮らしている。その秘訣は、施設仲間の記憶の持続時間が同じになっていることにある。同じことを何度言っても誰も気づかないし、むしろ初めて聞いた様に新鮮に聞こえるという。

入所者たちの記憶は新旧入り混じって無茶苦茶だが、誰も気にしない。夢の中での矛盾が問題にならないのと同じだ。ホームでの生活は驚くほど穏やかだ。徘徊しようにもロックがかかっていて出れないし、そのことで誰かが不満を言っても、みんなすぐ忘れてしまう。

驚く事に千恵子の認知症は、彼女自身の魂によってもたらされたのだ。彼女は今でも面会が絶えない人気者なのだが、入所以前から大変な世話焼きだった。自分の心の管理より人からの相談事などを優先し、心を人の心配事で満たすことで充実した暮らしをしていると勘違いしていたのだ。

千恵子の魂は、彼女が自分の内面に興味を示さない事に危機感を感じていた。魂は成長する程、少しの想念の汚れも許されなくなってくるのだが、いつまでも、他人に振り回され、心が安定しない未熟さに呆れて、彼女の魂は心の一部を殺し、行動を制限する決心をしたのだ。

魂の計画通り、彼女は脳の一部にダメージを与えられ認知症と診断された。認知症が治療できない理由は、自身の意志で記憶力を消す自傷行為で、決して病気ではないからだ。彼女は、もはや自らの意志で意味のある行動はできない。動き出そうと立ち上がった瞬間に、目的を忘れているからだ。

晴れて、魂の希望通り認知症になった彼女は、感情のみの存在となった。これからは心穏やかに、他の入所者との感情と感情の交流で魂を向上させつつ、寿命を全うするだろう。認知症患者は、本当は非常に感情豊かで幸せを感知する能力が高いのだ。

だが、認知症患者と健常者が生活を共にするのは、お互いを傷つけ合い不幸になる場合が多い。健常者からすれば、わざと忘れたふりをしているように感じ、記憶が残らないと思って怒りをぶつけると、感情の記憶力とも言える部分は高まっている認知症患者は、批判されたり怒られた悲しい感情を持ち続けるので、彼らを深く傷つけてしまう事になる。

すべてに当てはまる訳では無いが、特に女性の場合は、人へのお世話もほどほどにして、自分の内面に目を向けなければならない。人間社会では感謝される事で、人徳ポイントのようなものが加点されるだろうが、魂からすれば人生をスマホの訳の分からないゲームのようにされるのは、たまったものではない。千恵子のように、周りから親しまれている人物であっても、自分の魂に嫌われているケースも多いのだ。

千恵子のように、運良くグループホームに入る事が出来れば良いが、大抵、満室で順番待ちになっている。その間だけでも同居となれば、家族には想像を絶する負担がかかる。徘徊して電車を止めようものなら、電鉄会社から多額の賠償金を請求される。入所になれば一人月々二十万円は最低必要になるが、持ち家の売却も必要になるであろう。しかし、名義人本人が認知症になってからでは、身内が何を言おうと不動産を売ることもできない。

そうなると、本人が亡くなるまで不動産は塩漬けになり、固定資産税と管理費のみがかかるやっかいな資産となる。成年後見人を立てる場合も、身内が後見人に指定される事はほとんど無い。他人に費用を払ってお金の使い道を、他人の判断で決められる事になる。当然、不動産が無く貯金が少ない場合、ホームを利用できず、入院もできず、自宅介護という経路をたどる。

自分は大丈夫と言っている人ほど、すでに認知になっている傾向がある。自分は元気だからと、国のケアサービスは全部拒否して、家族のみに負担がかかって仕事にも支障をきたす様になり、喧嘩が絶えず、お互いの心がすさみ、家の中は、雰囲気が悪くなるだけで無く、丁寧に隠された大便だらけで異臭を放つといった事態になる。

これから、高齢化社会がますます進行して、問題は深刻化する。あなたやあなたの家族が、人の心配事を解決してあげる事で、充足感を得るタイプなら危険だ。人の世話を焼くより、自分の内面を見つめ心穏やかに残りの人生を送ることが大切だ。閻魔大王様が閻魔帳の貢献度ポイントで死後の行き先を決める訳では無いのだ。

私の場合は、人の世話を焼く気は最初からこれっぽちも無く、自分の財布のみをひたすら見つめて生きているので、逆に心配だ。さて、DSで頭の体操をヤルゾ!
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