転生した私はバイプレイヤーで満足です

柚木 倫太郎

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地味ですが・・・なにか?

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『うしろ~~』



黒ずくめでいかにも悪役の刺客が光偉の背後から太刀を振り下ろす。かなりの手練れなのか大立ち回りしている割に5人が4人、4人が3人と打ち負かすのにも時間を有する。

それも、その中心に守らなければいけない人がいればなおのことだろう。



一番腕の立つ光偉は1人で2人いや3人と刃を交えつつ、守るべき人を庇った形を取っている。後ろにも目が付いているような軽快な動きだったが、刺客もプロフェッショナル。 彼の不意を突くことぐらいお手の物だ。



『言うのおせーよ』



チッと大きく舌打ちした光偉は右手の太刀で手前の敵を切り付けて倒しながら、反対の腕で背後から切り付ける刺客刃を弾く。白刃取り、いや白刃流しというのか・・・

すぐに彼はクルリと向きを変えて、白刃流しされて態勢を崩された背後の刺客に切り込み止めを刺した。



長い回廊に巻き上がる戦闘の後の土煙、そしてたくさんの血が流れ鉄臭い匂いが充満していた。

思わず立ち上がって拍手を送ってしまう秀鈴を、右腕に血の付いた太刀から・・・そして受け流し負傷し左腕から血を流し仁王立ちする彼が無言でそれを一瞥したが、すぐに踵を返し主人の元へ傅いた。



                   ☆  ☆  ☆



「どうしてあんたがここにいるのよ」



睡蓮池の柳の木の下で体育座りをしたまま顔だけ 杜 光偉 を睨め付ける。



「それはこっちの台詞だ。ここどこだと思ってる?」

「・・・・」



中宮は朝陽城の正殿に近い場所にあり、どこをどう通ったのかわからないが間違いなくここは水晶宮とは逆方向だ。

迷子になったなんて口が裂けても言いたくはない。不貞腐れて俯いていると、



「お前は・・・可愛くないなあ」



秀鈴の頭をポンポンと叩いた後、肩を並べて隣に座り込む。



「分かっています。私は地味だし・・・可愛くないです。それがなにか? ほうっておいて下さい」



この世界に転生した後、何も特殊な能力がないのにガッカリし、この世界の映りが悪い鏡や水鏡に映し出される自分の容姿があまりに地味で普通だったのにガッカリした。



秀鈴はこの世界の女性にしては背が高く170cmほど(これは元の世界と大差ない)痩せてもないし太ってもいない普通体型。容姿はこげ茶の髪は猫毛のように柔らかく腰がなく、顔のパーツもあるべき位置にはついているがこげ茶の瞳は大きくも小さくもなく特徴はなく、鼻も口も魅力を感じるようなものもない。



「ひねくれるな~ そういうとこが可愛くないって言っているんだ」



光偉は焦って慰めるでもなく、言い草が無礼だと怒るでもなく、冷やかすようにニヤニヤ笑んでいる。

面白がっているというのが正しい。



「天下の太子少傅様が、一介の側妃侍女と一緒にいるところを見られたらいけませんわ。どうかわたくしなど捨て置いてくださいませ」



言葉は丁寧だが完全拒否の姿勢で彼の腕を押して自分から離れるように促す。



「うッ」



そんなに強く押したつもりなかったが、左腕を押さえ光偉は顔をしかめる。



「!! 大丈夫ですか? きず、腕の傷が痛みます?」



秀鈴は右隣に腰かけた光偉に向き合うと、彼の腕を掴み袖を捲くり上げて左腕の傷を観察する。左前腕に20cmくらいに残るミミズ腫れに浮き上がるまだ新しい傷跡が痛々しく目に映るが、発赤や傷口が離開している様子はない。



「出血なし。発赤・腫脹なし・・・」



真剣な顔で呟く秀鈴の姿を見た光偉は右に体を向け口に手を当てて噛み殺すようにクツクツと笑い出した。



「騙したね」



騙されたことにやっと気が付く秀鈴は顔を真っ赤にして怒りその傷を掌で叩く。



「いてッ 何するんだ。まだ痛いは痛いんだぞ」

「もう知りません」



膨れてプイと横を向く秀鈴を嫌味のない笑みを浮かべて光偉が見つめていた。



この腕の傷はあの刺客と闘った時のものだ。同行していた皇太子を守るためなら腕の1本くらい落としても問題ないと思っていた。

しかし、あの時見知らぬ侍女が物凄い形相で走ってきて、傷付いた腕を掴み訳のわからないことを叫びながら自分の着物を割き長い布を作ると、止血するように圧迫しながら光偉の腕に巻いて手当をし去って行った。

『傷は流水でしっかり洗い流してください。毎日ですよ。いいですね」

皇太子を含めその場にいたすべてのものを圧倒していた。



もう半年くらい前のことになるが、光偉はその時のことを思い出すだけで笑いが込み上げてくる。



「すまない。もうからかわないから機嫌直せ」



自分が立ち上がり、次に怒って横を向く秀鈴を助け上げるように立たせると、



「水晶宮まで送っていく」



手を引き歩き出すのだった。









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