転生した私はバイプレイヤーで満足です

柚木 倫太郎

文字の大きさ
14 / 25

この関係…落ち着きます

しおりを挟む
あの日から次の日も、また次の日も、結局10日間も治薬院に秀鈴は出勤していなかった。もともとお手伝いみたいな仕事で重要な任務をしているわけではないから行っても行かなくても支障がないと思ったからだ。



もともと、御上である照陽王の命令でお手伝いをしていたわけで、初めから宋先生は秀鈴を疎んでいたわけだから今更だけど出社拒否してもいいだろう。



始めは風邪を引いたからと言い、その後はいろいろと仮病の理由を連ねて水晶宮からは一歩も外には出ていない。外をウロウロ歩かなければ 杜 光偉に会うこともないし、その生活を地味にしていけば平和だった以前の状態が戻ってくるはずだ。



「 今日もいい天気だ 」



最近は雨季に入る前の乾季なのかよく晴れる。これは田植えをするちょっと前のプレゼント快晴とこの世界では言っている。心地よい気温で花草木が茂り、虫鳥動物もちろん人間も活動的になる。



「 洗濯日和だよ 」



秀鈴も敷地内で元気に動き回っている。大きく背伸びをして、主人の世話の合間に自分の部屋の掃除や洗濯をして過ごしていた。



「 秀鈴さん お客さんですけど 」



主人の鄭妃はお昼寝の時間。侍女の秀鈴も鄭妃の部屋隣りで控えながら縫物をしていると、下働きの門番が鄭妃付きの宦官を通して言ってくる。



「 だれ? 」



客と聞いて何故かすぐに光偉の顔が浮かんでしまう。この前も用事があったみたいだったし、気になっていた。



「 治薬院の 許亮キョリャン様がお越しですが 」

「 亮さん? 行く。すぐ行く 」



宋先生は苦手だけど亮のことは同僚として好きだ。ニコニコと穏やかにほほ笑んで、覚えの悪い秀鈴に辛抱強く教えてくれる亮の顔を思い出してみるが・・・、地味すぎてぼんやりとしか思い出せない状態のまま彼の待つ水晶宮の門前へ急いだ。



「 亮さん 」

「 あ、秀鈴さん お体はどうですか? 」



秀鈴と同じくらいの身長でほっそりとしたいかにも文系地味男子の亮は、いつも笑っているような細い目に小さい鼻薄い唇で秀鈴と同様な地味さだ。

お見舞いに来たという亮を案内して使用人が使用できる裏庭に案内した。湯呑にミントの葉を浮かべた冷たい井戸水を彼に差し出す。



「 ありがとう 最近は暑くなってきたからね、冷たくて美味しいよ 」



庭石に2人で腰かけ綺麗に咲き誇っている裏庭のツツジを眺める。彼は宋先生に言われて薬を届けに来たと言った。もともと出自は文官の家の亮は、宋先生の足元には及ばないが生まれ持った不思議な力がある。その才能を見込まれて治薬院の助手をしているのだと前に話して聞かせてくれた。



「 宋先生が・・・?本当に? 」

「 とても心配しておられましたよ 」



疑いのまなざしの秀鈴に対して、宋先生を尊敬している亮は真面目に言う。そして、小柴胡湯しょうさいことう・・・風邪薬・・・を手渡す。あの宋先生が秀鈴の仮病を見抜いていないはずはないと思ったが、疑うことを知らない亮には言うのをやめておいた。



せっかく来たのだからと秀鈴は亮とたわいのないおしゃべりを楽しんだ。亮は治薬院の最近の様子や世間話なんかを話す。男子というよりも女子に近い関係に、性別関係ない友情みたいなものを感じてしまう。



( ああ、この感じ・・・落ち着くわ~ )



亮は地味と言っても元々の身分は高く、次男じゃなければ今頃は国の重要な部署で働く文官になっているような人物だ。だから、国の情勢やこの世界の歴史についても詳しくて、治薬院の時からいろいろ教えてもらっていた。



「 どうもね、情勢が悪くなりつつあるみたい。だから宋先生もピリピリしていたんだ 」



秀鈴に冷たくする宋先生のことを亮は庇っていろいろ理由を考える。確かに皇太子である雲陽が城内で暗殺されかかるのだから、平穏な状況ではないのかもしれない。



「 暗殺の首謀犯はわかったの? 」

「 いや、それはまだみたい。でも、御上はお気づきになっていると思うよ 」



御上というのは照陽王のこと。彼には不思議な能力が代々受け継がれているから、世界の動きが予見できるとか言ってた。そんなことありえるのか?と秀鈴はあんまり信用していない。



「 噂話だと、海鷹王かいようおうの復活とか 巫覡ふげきの復讐とか言っているけどね 」

「 巫覡って 」

「 巫覡・・・は・・・・」



「 う、うう・・・・」



さっきまで普通に話をしていたのに、亮が急に胸を押さえて苦しみ出した。



「 どうしたの?? 」



前かがみになり俯く彼の背中をさすりながら焦る秀鈴。



「 ううううう・・・ 」



心配して覗き込む秀鈴に、彼は弾かれたように急に顔だけ上げる。その顔は今までの彼のものではなく、細い目を見開いている。その眼は白目のところまで真っ黒だった。



「 お・・・おまえは・・・だれだ・・・」



低く地響きのするような声は、亮のものではない。



( と・取り憑かれてる?? )



秀鈴はそう思うと同時に反射的に体が動いて、亮の額を思い切り張り倒していた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...