転生した私はバイプレイヤーで満足です

柚木 倫太郎

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私をやって(殺して)も何の得にもなりませんから

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秀鈴はガタガタと大きな音を立てて座っていた椅子から転げ落ちる。和みかけていたその場の雰囲気が一気に禍々しさを呈して、体感的にも部屋の室温が急に4~5℃下がった気がして震えあがった。



床に転がる秀鈴の体は、物語の主人公でも超人のような能力者でもないから、こんな短時間でダメージが回復するわけがない。この筋肉痛のような肉体疲労はエナジードリンクやら栄養ドリンクを飲み、全身にシップを貼るか整体でマッサージしてもらわなきゃ回復しないだろう。



( もしかして 絶体絶命?! )



這いつくばる秀鈴からは白のズルズルと長い黒い着物の裾が見えるだけで、彼女(彼?)が今どんな表情をしているか見ることもできない。



すっかり侮っていたと秀鈴は自分に舌打ちしたいくらいだった。白が思いの外フレンドリーで危機感が薄れていた。照陽王や宋先生が警戒した人なのだから危ない人なのに・・・後悔しても遅い。



「 大丈夫? 」



立ち上がった気配もなかったのに白は一瞬で秀鈴の傍らにしゃがみ込んで、体育座りをし膝の上に肘を乗せて頬杖をついてこちらを見ている。心配しているような声音じゃ全くない。楽しんでいるのだ。背筋が冷たくなり、したくなくても身震いしてしまう。



「 助けようか? 」



さっき『殺す』と言った口が正反対のことを言う。思わず鼻で笑ってしまう。それを見た白は小首を傾げる。



「 可笑しい? 」

「 可笑しいわ 」



この状況、絶対自分が不利だと分かっているけど、そう思えば思うほど徐々に開き直ってくる。秀鈴はさっきまで怯えた子羊のように震えていたのに、急にスイッチが入って頭が思考を停止し冷静になる。



( この感覚以前体験したことある )



元の世界じゃ、命の危険が迫るような経験をすることはないが、医療現場では死と隣り合わせの緊迫した状況はよくあるからだ。患者が急変時して生死の危機が迫った時、スイッチが入りアドレナリンが出て普段できないようなことができたりする。そんな感じに似ている。
(でも、自分の死に直面している状況は違う気がする・・・)



「 私がこの世に存在して何が悪い。そんなこと、他人のあんたたちに言われる筋合いはない。私の存在が嫌なら無視するなり放置するなりしておけ 私に構うな 」

「 あらら~ 開き直り? 」



秀鈴がすこしばかり反発したところで、白に変化を与えるものにはなりはしない。そんなことは分かっているけど、怯えてやられる殺されるのだけはどうしても我慢できなかった。



( あかん。キレそうだ )



だって、自分は主人公でもなんでもない。まあ、脇役だから知らないうちに殺されてもおかしくないけど・・・。



「 言っておくけど、私をやったって殺しても何もなんないよ 」

「 知ってる 」

「 異世界から来たからって、能力何もないし 」

「 そうだね~ 」



真面目に言うのに白の長い前髪で口元しか見えない。それがお道化おどけているみたいに動く。



「 じゃあ! 」



秀鈴はそう大声を張り上げると実力行使。左手で白の胸元を掴んで引き寄せ、右手でそのうっとおしい前髪を掴んで全開にする。



「 私を助けろ! お前の力で! 」



秀鈴は白の驚くように見開かれた大きい釣り気味の眼を真正面から見据えて命令していた。おでこが全開になったその顔は中東系で目鼻立ちがくっきりとしていて、前髪を下ろしているときと雰囲気が正反対だった。



白は唖然としてしばらく目を瞬かせていたが、胸倉を掴まれたままで大笑いし始める。



「 あんた 面白いわ 」



ひとしきり笑い転げた後、ヒーヒー言いながら白は秀鈴に言う。今2人は近距離で向かい合い見つめ合っている状態だ。白が顔を前に少し出せば口が鼻に届くくらいに近く、彼女(彼)はニヤリと笑んだ後に秀鈴の鼻頭を噛んだ。



「 痛 」



いきなりの攻撃に秀鈴は怯んで両手を離して自分の鼻を覆う。甘噛み程度の攻撃だから実害はなかったが精神的ダメージはすごい。アドレナリン全開で怖いものなし状態を張りぼてで作り上げていたのに、それがすべて崩れ落ちた。



( やばい。やられる殺される )



一巻の終わりと覚悟したのに、白はそれ以上の攻撃はしてこない。前髪も元のように顔全体に掛かって表情も読めなかった。



「 ああ~ もう時間切れみたい。もう少し楽しみたかったんだけど、残念 」



身を固めて攻撃に備えていた秀鈴から白は離れて立ち上がる。訳も分からず秀鈴は白を見上げていた。



「 どうするの? 」



もしかして、次の瞬間に『グサッ』とか『バチッ』とか刺されたり感電させられたりしてやられるのかと警戒して聞く秀鈴に、



「 どうもしないよ 」



白は今までのことは何でもなかったみたいに言う。



「 迎えが来ちゃったみたいだからさ。わたし、もう消えるわ 」

「 はい? 」



白に言われて他に気を向けてみれば、誰かが自分の名前を呼ぶ声がする。この声は・・・



「 あ、でもでも 」



私を殺さなくてもいいの?と変な質問をしそうになって言葉を飲み込む。



「 ウフフ、わたしの考えは変わらないよ。あんたは異物だから排除しなきゃ。でも・・・面白そうだからもう少し生かしておいとくわ またどこかで会いましょうね 」



可笑しそうに笑う白の姿は霞のように透け始めていた。



「 ちょっと 」



助かったのだから止める筋合いはないのだけど、『待って』と言いそうになる。彼女(彼)の異能を目の当たりにしながら、ただ見ているだけだった。



「 秀鈴 どこにいる! 」



必死な声音で叫ぶのは聞きなれた杜 光偉のものとわかるほど近くまで来ているのが分かる。

白が霞と消える前に、小さく秀鈴にしか聞こえない不思議な音がする。



『 最後に教えてあげる。 敵は知らないうちにすぐそばにやってくる・・・今回のはほんの訓練の一環よ 気をつけなさい 胡 秀鈴 』

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