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そして、いつもの日常に
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「 秀鈴 」
菊の花が咲く園庭を散策している鄭 凌雪が振り返り、侍女の秀鈴を呼ぶ。季節は夏を越え朝晩が涼しくなりホッと一息つける秋に差し掛かっていた。
「 はい、なんですか?鄭妃様 」
「 この菊だけほかのものと違って不思議な色をしていると思わない? 」
鄭妃が細い指先で花に触れて見ている。傍によりみれば、黄色や白色で覆われている大輪の菊の花の中に1輪だけ紫色の大輪が咲いている。
「 本当ですね 」
いつもの水晶宮でいつものように主人の鄭妃のお世話をしながら、いつもの日常が秀鈴に帰ってきていた。
鄭妃と並んで紫色の菊を見ていると、その色があの紫水晶の瞳を連想させて無意識に視線を逸らす。
あの意味不明な事件から、秀鈴の周りではパッタリ何も起こらなくなった。
光偉に助け出された時、秀鈴は気を失って誰にも使われていなかった無人の民家に倒れていたという。あの場所を探し当てたのは宋先生の力で、秀鈴の身にGPSのようなおまじないをかけていたらしい。だけど効果が得られるのに時間が掛かったみたいだ。それは、白の力が照陽王>白>宋先生という構図で、GPSに時間がかかった。あの時の記憶は忘れずに覚えているけど、どうしてあんなことになったのかは未だに不明だ。
「 今日は宋先生のお手伝いの日よね。 明日は大皇太后との接見もあるし、せっかく元気になって戻ってきたのにこうしてゆっくりする暇がなかなかないわ 」
鄭妃が少しひねくれながら不満を言う。
「 そうですね じゃあ、全部断っちゃいましょうか? 」
「 そうしようか? 」
冗談とも本気ともとれない口調で言うと、鄭妃も同調し返してきて顔を見合わせて笑い合った。
「 それは 看過できないな 」
何の御触れもなく背後から聞きなれたバリトンボイスがして振り返ると、そこには高貴なお方 照陽王がイケメン太監を引き連れて園庭に足を踏み入れるところだった。
「 陛下 ご機嫌麗しく・・・」
鄭妃が淑女の礼を取り跪く。秀鈴は立場をわきまえて主人である鄭妃の背後に離れて下がり伏せて控える。
「 楽にせよ 」
「 ありがとうございます 」
照陽王は秀鈴に目を止めることなく鄭妃をエスコートして水晶宮の園庭を散策し始めた。秀鈴は侍女としての役割を果たすため、先回りしてお茶の準備をしなければとエビのように後ずさりしたところを太監様に取り押さえられる。
「 な・なんでございましょう? 」
たぶん、王が来訪したのは鄭妃に会いに来るというよりも秀鈴の様子を探りに来ているのだろう。
「 目立たず暮らしていますか? 」
冷たい声音で事務的に聞いてくる。この人だけは打ち解けられない。本当はロポットなんじゃないかと思ってしまう。
「 もちろんでございます 」
「 よろしい。あなたのため、鄭妃様のため。よくお考えになってくださいね 」
それだけ言うと彼は去っていった。
「 わかっていますって 」
彼の背中が見えなくなったのを見計らって愚痴をこぼす。治薬院に行けば宋先生に目を付けられ、回廊を歩けばどこからか光偉がやってきて絡んでくる。
どのみち気を抜けないのだと秀鈴はため息をついた。
「 それにしても、あの予言はなんだったのかな? 」
1人園庭に残された秀鈴は秋晴れの青い空を見上げてつぶやく。白の予言は果たして遠くない未来に起こることなのだろうか? そう考え始めて慌てて頭を振ってその思考を追い払う。考えないようにする。考えたくない。
そう思いつつ願う。
( どうか私の関係ないところで勝手にやってくれますように・・・ )
普通に平凡な脇役、異世界で生きていく自分の活路に秀鈴は満足していた。
菊の花が咲く園庭を散策している鄭 凌雪が振り返り、侍女の秀鈴を呼ぶ。季節は夏を越え朝晩が涼しくなりホッと一息つける秋に差し掛かっていた。
「 はい、なんですか?鄭妃様 」
「 この菊だけほかのものと違って不思議な色をしていると思わない? 」
鄭妃が細い指先で花に触れて見ている。傍によりみれば、黄色や白色で覆われている大輪の菊の花の中に1輪だけ紫色の大輪が咲いている。
「 本当ですね 」
いつもの水晶宮でいつものように主人の鄭妃のお世話をしながら、いつもの日常が秀鈴に帰ってきていた。
鄭妃と並んで紫色の菊を見ていると、その色があの紫水晶の瞳を連想させて無意識に視線を逸らす。
あの意味不明な事件から、秀鈴の周りではパッタリ何も起こらなくなった。
光偉に助け出された時、秀鈴は気を失って誰にも使われていなかった無人の民家に倒れていたという。あの場所を探し当てたのは宋先生の力で、秀鈴の身にGPSのようなおまじないをかけていたらしい。だけど効果が得られるのに時間が掛かったみたいだ。それは、白の力が照陽王>白>宋先生という構図で、GPSに時間がかかった。あの時の記憶は忘れずに覚えているけど、どうしてあんなことになったのかは未だに不明だ。
「 今日は宋先生のお手伝いの日よね。 明日は大皇太后との接見もあるし、せっかく元気になって戻ってきたのにこうしてゆっくりする暇がなかなかないわ 」
鄭妃が少しひねくれながら不満を言う。
「 そうですね じゃあ、全部断っちゃいましょうか? 」
「 そうしようか? 」
冗談とも本気ともとれない口調で言うと、鄭妃も同調し返してきて顔を見合わせて笑い合った。
「 それは 看過できないな 」
何の御触れもなく背後から聞きなれたバリトンボイスがして振り返ると、そこには高貴なお方 照陽王がイケメン太監を引き連れて園庭に足を踏み入れるところだった。
「 陛下 ご機嫌麗しく・・・」
鄭妃が淑女の礼を取り跪く。秀鈴は立場をわきまえて主人である鄭妃の背後に離れて下がり伏せて控える。
「 楽にせよ 」
「 ありがとうございます 」
照陽王は秀鈴に目を止めることなく鄭妃をエスコートして水晶宮の園庭を散策し始めた。秀鈴は侍女としての役割を果たすため、先回りしてお茶の準備をしなければとエビのように後ずさりしたところを太監様に取り押さえられる。
「 な・なんでございましょう? 」
たぶん、王が来訪したのは鄭妃に会いに来るというよりも秀鈴の様子を探りに来ているのだろう。
「 目立たず暮らしていますか? 」
冷たい声音で事務的に聞いてくる。この人だけは打ち解けられない。本当はロポットなんじゃないかと思ってしまう。
「 もちろんでございます 」
「 よろしい。あなたのため、鄭妃様のため。よくお考えになってくださいね 」
それだけ言うと彼は去っていった。
「 わかっていますって 」
彼の背中が見えなくなったのを見計らって愚痴をこぼす。治薬院に行けば宋先生に目を付けられ、回廊を歩けばどこからか光偉がやってきて絡んでくる。
どのみち気を抜けないのだと秀鈴はため息をついた。
「 それにしても、あの予言はなんだったのかな? 」
1人園庭に残された秀鈴は秋晴れの青い空を見上げてつぶやく。白の予言は果たして遠くない未来に起こることなのだろうか? そう考え始めて慌てて頭を振ってその思考を追い払う。考えないようにする。考えたくない。
そう思いつつ願う。
( どうか私の関係ないところで勝手にやってくれますように・・・ )
普通に平凡な脇役、異世界で生きていく自分の活路に秀鈴は満足していた。
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