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しおりを挟む私には彼氏がいる。
1つ年上の先輩で、少し、ではなく結構チャラくて軽い人間。
おそらく彼から告白されなければ一生話そうとも思わなかったし、関わろうともしなかった部類の人。多分それは彼も同じだと思う。
告白された場所はどこかの木の下だった。
次の授業の教室へ移動していた時に急に呼び止められた、かと思うと、その人が整った顔で優しく笑いながら私に告白してきたのだ。
「あのさ、アンタに告白して3ヶ月付き合えたら俺の勝ちって賭けを今しててさ、負けたくないから付き合ってくんない?」
正直、頭がおかしいとしか思わなかった。
賭けに負けたくないからって、面識もない後輩に突然付き合ってくれなんてどうかしてる。
見た目も喋り方もかなりチャラそうだし、きっとこんな事を何回もしてきたんだろうな。なんて思いながら無視して歩き出そうとした。
だけど、その私の行く先を阻むように彼が長い腕を伸ばしてきて、笑顔を崩さずに続けた。
「付き合ってくれたら、毎食のランチ奢るし、勉強も教えてあげる。俺こう見えて結構成績上位だし、悪い条件じゃないと思うけど、どう?」
なんて、断られるわけないと信じて疑わない笑顔で言ってきた。
そんな事までして賭けに勝ちたいのかと呆れたけど、よく考えなくても彼が提示した条件は悪くない。
この学校は全寮制で朝晩は寮が出してくれるけど、昼は各々で好きに摂ると言うスタイルなので、ランチを毎食奢ってもらえるのはとてもありがたい。
ランチ代が浮けば我慢していた本や服も買える。
それなら、3ヶ月くらいお付き合いをしたって別にいいかもしれない。
目の前にいる先輩はただ賭けに勝ちたいというだけで付き合うのだから、一般的な彼氏彼女のようなやり取りはないだろうし迷うことはないのでは?と、そこまで考えて私は見ず知らずの先輩の告白にYESと応えた。
そうして始まったお付き合いだったが、それは私が想像していたものよりもずっと楽なものだった。
先輩が提示していた通り、ランチは必ず奢ってもらえるし、あまり信用していなかった勉強面をしっかり教えてもらっている。おかげで定期テストの平均点が20点ほど上がって先生も私も驚いた。
彼氏彼女と言うよりは、良い先輩後輩のような位置付けの様な気もするけど、変に彼氏ぶられるよりはその方が全然いい。
付き合い始めはチャラそうで少し怖いとは思っていたけど、全然そんなことは無く、むしろ結構面倒見が良かったりした。
ランチをどちらにするか悩んでいたら両方頼んで分けてくれたり、魔法の実技で失敗して怪我した時は治癒魔法をかけてくれたり、勉強で分からないところはとことん付き合ってくれて、テストでいい点を取れば頭を撫でて嬉しそうに笑いながら褒めてくれる。
そんな先輩と一緒にいるのは本当に居心地が良かった。
だけど、先輩とのお付き合いで不満というか、懸念点があるとするなら、先輩との時間が心地よ過ぎて、自分が本当に先輩から愛されている錯覚を起こしそうになること。
私たちの関係は、ただの賭けで始まった色恋を絡まないものでしかない。それなのに、先輩と一緒にいればいるほど、抱いてはいけない気持ちが顔を出しそうになる。
先輩は私の事なんて何とも思っていない。
だからこんな気持ちを抱いてはいけない。
気付いてはいけない。
だってその証拠に、今日は街で遊ぶ約束をしていたのに、待ち合わせ時間を少し過ぎてからスマホが振動する。
画面を見れば、先輩からの連絡を知らせる通知が届いている。
連絡の内容を確認すれば、「寝坊した~すぐ用意して行く」とだけ書かれていた。
ほらやっぱり。先輩は私の事なんて何とも思っていない。
先輩と約束は、大体ドタキャンされる。多分、5回に3回…いや、4回はドタキャンされている。
ドタキャンの理由は眠いから、とか、行く気が無くなったから、とかそんな感じ。
最初の頃は、ドタキャンした後は罪滅ぼしのつもりなのか、ランチにデザートを付けてくれたりしたけど、今ではそんなものも無く雑にドタキャンされる。
今回遅れても来てくれようとしているのは、初めて私から先輩を誘ったからなのかな。
どちらにしても、先輩のドタキャンや遅刻のおかげで私は先輩から向けられる優しさを勘違いしなくて済む。だから、そこに関して文句を言うつもりは全然ない。
これが本当に好き同士で付き合っていたなら、怒っていたのかな…。
なんて、考えてもどうしようもないことを考えながら先輩を待つ。
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