平和への使者

Daisaku

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平和への使者

6話 マリの秘密

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翌朝、学校にいつも通りマリが登校してきた。ユウキはマリに声をかけたが、
完全に無視された。昨日いきなり公園に呼び出し、しかもあのような修羅場に
放り込んだことに怒っているようだ。

「ふ~、しょうがない。またしばらく時間を空けてから話すか」

スミコはどうやら、今日はまだ来ていない。あんなに殴られて帰ったから、
病院でも寄ってからくるのだろうと思った矢先、スミコが登校してきた。
包帯を腕や足に巻いてはいたが元気そうだった。クラスの子に

「スミコどうしちゃったの?そのケガ、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっとすりむいただけよ」

と笑っていた。
そして、真っすぐにマリのところに行って

「マリ、あとで面貸しな。昨日のことで話あるから」

「話なんかないよ、行きたくない」

「いいから、昼休みに体育館の裏な」

マリはいつも、何度、断ってもいうことなんか聞かないスミコだから、
しぶしぶ

「わかった」

と返事をした。
昼休みの時間になり、マリは指定の場所に向かった。
体育館の裏は狭く誰も近づかないところだった。
マリが行くとスミコがそこに立っていた。
また、よからぬことをされるのかと思うと気がめいる。
スミコが

「あんた、なんであんなに強いのに学校ではその変な髪形、弱々しい態度、どうにかなんないの?」

思いもよらないことを言ってきた。

「私の勝手でしょ」

マリはスミコの顔を睨んだ。スミコは顔を赤くして

「とにかくもっと、ちゃんとしなさいよ。その顔が見えなくなる前髪や歩き方」

マリは首をかしげた。なんか、いつもと違うというか何この感じ、

まるで恋人に悪いところを直してほしいみたいな。マリは急に違う意味で怖くなってきた。
そしてスミコはマリをじっと見つめながら

「私はさあ、昨日のマリを見て好きになっちゃったんだよ」

「え・・好き?」

スミコは格闘技マニアでとにかく強い人に憧れている。そんなことを知らないマリは

「昨日は別にあなたを助けたわけじゃないよ。
私の大事な物を取ろうして怒ったら、向こうから襲ってきたから、自分を守っただけなんだけど」

「そんなことはいいんだよ、とにかく、これからは友達になってあげるから」

「は・・別に友達になんかなりたくない。だいたい、あなたはさんざん私の事を
クラスメイトも巻き込んでいじめてきたくせに」

マリは腹が立ったし気持ち悪かった。

「じゃあ、どうすれば友達になってくれるの」

マリは

「友達には絶対なれない、だけど、私の悪口をやめてくれる。もちろんクラスメイトの子達と一緒に言うのもやめて」

スミコはうんうんと頷いた。マリはまた、新しいバージョンのいじめかしらと
不安になったが、もう昼休みもおわりそうだったので

「私、教室にもどるね」

スミコはまたうんうんと頷いた。ユウキは教室に帰ってきたマリに

「マリちゃんどこに行ってたの?」

と尋ねたが、マリの無視は続いている。
放課後になり、家に帰る時いつものようにユウキはマリの後ろを付けるように歩いていた。

「マリちゃ~ん。機嫌、直してよ~。もういいでしょ。ゆるしてよ~」

マリは相変わらず無視している。しかたなくユウキはマリの後ろを歩いていたら、
隣にも歩いている子がいた。なんだ、この子もマリちゃんを付け回してるのか
気持ち悪いなと横を向いたらスミコだった。ユウキは驚いて

「スミコちゃ~ん。何してるの?」

「うるさい。あんた何でいつもマリにくっついてるのさ」

「だって帰る方向一緒だから」

「マリに近づきすぎなんだよ」

「いいじゃん、別に。それよりスミコちゃんは家はこっちじゃないでしょ」

「うるさいって言ってるんだよ」

ユウキはなんでスミコがマリの後をつけるのか不思議だった。
二人でそんなことを話していたら、突然マリが走り出した。
二人は遅れちゃいけないと走って追いかけた。
しかし、マリはそのまま家に着くと振り返りもせずに家の中に入っていった。
スミコが

「あんたがくだらない話をしてくるから、マリが走って家に入っちゃったじゃない。はあ~」

「スミコちゃん、また悪いことでも考えてるの?昨日助けてもらったくせに」

「違うわよ。そんなんじゃない」

また顔を赤くして答えた。

「そうだ。マリちゃんのお母さんにお願いしてみようかな」

ユウキが話した途端、インターホンを押した。

「ピンポーン」

「どちらさま?」

マリの母がインターホン越しに答えた。

「ユウキです。こんにちは。ちょっとマリちゃんに嫌われちゃったみたいで。相談にのっていただけませんか」

「ずうずうしいな。よくそんなこと言えるな」

スミコが小声ささやいた。
マリの母は久々のクラスメイトの訪問に喜び、快く

「いいわよ」

すぐに玄関扉を開けてくれた。マリの家は外から見ると木々に囲まれて入り口は
とても狭いが家に入るととてつもなく広い玄関と長い廊下そして、天井も高く、
高級な家の造りだった。奥の応接間に案内され、大きな暖炉と大きな窓、
その外に見えるテラス、そして西欧風に造られたその空間は貴族が住むようなところだった。長いテーブルがあり、背もたれの高い椅子にユウキが腰を下ろした。
隣で

「ヨイショ」

とスミコも腰をおろした。

「スミコちゃん、さっきはずうずうしいとか言ってたよね。なんでここにいるのかな」

「いちいち細かい男だね。いいじゃん、別に一人増えたって」

しばらくするとマリの母が飲み物を持ってきた。

「ユウキくんとそちらは?」

「スミコです。同じクラスです」

嬉しそうにスミコが答えた。

「マリと何かあったの?」

マリの母が心配そうにユウキの顔をみて話した。

「はい。昨日ちょっとしたことで、マリちゃんは僕と口を聞いてくれなくなりました」

マリの母がまたかといった顔で

「あの子はね結構頑固なところがあって、こうだと思うとしばらくは考えを変えないのよ」

「なるほど。じゃあ、しばらく様子をみてみます」

「そうね、ごめんなさいね。友達がきているのにあの子ったら顔も見せずに」

「お母さん、ちょっとマリちゃんのことで聞きたいことがあるんですが」

マリの母はなんでも聞いてちょうだいといった顔でユウキをみた。

「先日、ちょっとしたことで、マリちゃんが怒り出して、武術のようなもので、
相手を払いよけたのを見たんですが、なにかされているんですか?」

とユウキは尋ねた。隣でスミコも教えてほしいといった顔でマリの母をみつめた。

「あの子はね。フフ、三歳ぐらいかしら、体術を習っていてね」

「体術ですか」

「そう、私の前のダンナの母が体術をやっていたこともあって、10歳くらいまでおばあちゃんに教わっていたの」

「10歳まで」

「おばあちゃんマリが10歳の時から体が悪くなって、少しボケも始まっちゃって。
それからは、毎日自分一人で練習しているのよ。1日もかかさずに」

「1日も休まずに。すごいですね」

「あの子にとっておばあちゃんは世界で1番の存在だったから」

マリの母は昔を懐かしむような顔をして

「私もマリの母親で本当はマリの事を一番わかってあげなくちゃいけないいだけど、
おばあちゃんはマリの気持ちを理解してあげて、生き方や考え方なんかを一生懸命教えてあげていたの」

「そうだったんですか」

「おばあ様はまだ健在なのですか」

「三年前に亡くなったのよ。マリは本当に泣いて、泣いてしょうがなかったわ」

ユウキとスミコはマリの母の話を聞いて、マリがなぜあれほど強いのか、少しわかったような気がした。

「これからもマリと仲良くしてちょうだいね」

マリの母は二人の手を握ってお願いした。

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