平和への使者

Daisaku

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平和への使者

7話 平和への使者

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次の日の朝、ユウキはマリの家に迎えに行き、一緒に学校に行くことにした。
家の前で待っているとマリが出てきて目があった。

「おはよう」

声をかけたら、マリが

「おはよう」

と言ってくれた。たぶん昨日の夜、マリの母が話をしてくれたんだなと思った。

「あれ、マリちゃん雰囲気変わったね」

マリは前髪を切って顔がはっきりと見えてとてもかわいらしく見えた。

「ちょっと、髪きったから」

「昨日ね、ご迷惑だと思ったんだけど、スミコちゃんと一緒に家にお邪魔したんだ、
どうしてもマリちゃんと仲直りしたくて」

「知ってる、もう別にいいよ、気にしてないから」

ユウキはほっとして、マリと一緒に登校した。
いつもより遅くなったが遅刻にならなかった。
教室に入ったら、みんながマリのことを見ている。
いつものようないやがらせもひどい言葉でのいじめもなくなっていた。
小学校の時から仲良くしていたアユミとサチコが近寄って来てアユミが

「マリ、今までごめんね。スミコ達から、マリとは絶対に口を聞くなって
脅されていて、私達どうすることもできなかったの」

サチコも

「スミコ達が毎日のように脅してくるから、
怖くて話すことができなくなってたの。本当にごめんなさい」

二人とも泣きながらマリに謝ってきた。
マリは何が起きているか全くわからなかった。
教室の一番後ろの席の隅っこに座っているスミコの方を見たら、私の方に手を振っている。
どうやら、クラスみんなにスミコが何か言ったらしい。
マリの驚いている姿を見て、ユウキは横でクスクスと笑っていた。
それからというもの、いじめが全くなくなり、
マリの学校生活はとても充実して楽しい日々に変わっていった。
マリは、あの事件のあった公園でユウキが私の背中を押してくれたことで、
こんなにも自分の生活が向上して、楽しい日々に変わったことに感謝するようになっていた。

ユウキは約束通りマリに毎日のように英語を教えていて、マリは教わってから1カ月程度で英語力がめざましく良くなった。
最初はユウキのことが好きになれなかったマリだったが、今ではユウキのことを大切な友達として考えるようになっていた。
そんなある日マリは

「ユウキくん、いつも学校の図書室で英語教えてくれてるけど、今度は私の家でどうかな?
こんなにも教えてもらっていて、何もお返しもしないのも悪いから私が夕食を作るから食べて行ってよ」

ユウキは喜んだ顔をして

「ぜひ、お願いします」

マリとの信頼関係が生まれ、これからの歩むべく道に光がさしたような気がした。
もちろん、ユウキはこれから英語だけではなく、平和への使者としてあらゆる分野の勉強をマリに教え、一緒に使命を果たしていかなければならない。
ただ、今はマリとの関係を確かなものにすることが大事だと思った。
12月も終わりが近づき、マリの家に行く日になった。
今日は偶然にも24日のクリスマスイブの日だ。
外はとても寒く、雪がパラパラと降り始めていた。学校からマリと一緒に帰った。
帰り道、ユウキが、

「そういえば、前から聞こうと思っていたんだけど、マリちゃんのおばあちゃんはどんな人だったの」

マリは驚いた顔をして

「どうしたの?急に」

「お母さんから聞いたんだけど、おばあちゃんに何かいろいろ教わったと聞いて、
どんなことを教わったのかなと思って」

マリはしばらくしてから

「おばあちゃんからはいろいろ教わったわ。体術や教養や人としての一番大事なこととか」

「一番大事なこと?」

「そう、一番大事なこと」

マリは感慨深げに、

「人って一人だととっても弱い存在なの。
でも誰か一人でも自分を信じてくれる人がいると強くなれるの、もちろん信じてくれる人が多いほどもっと強くなれる。そしてそれが勇気に変わる。その気持ちがあればどんな困難にも打ち勝てる。そんなこと言ってたな~」

「ふ~ん、いいこと言うね」

「あ、そうだ、こんなことも言ってたな。
若い時、とても好きな人がいてその人からたくさんの勇気をもらったって。でもおばあちゃんその話した時、もう、ぼけてきちゃってたから、あまり詳しくは聞けなかったんだけど」

「なるほどね、マリちゃんはおばあちゃんがいたから、どんなに苦しくても勇気という武器が自分を守ってくれてたんだね」

「そう、だから、そのおばあちゃんから亡くなる前にもらった大事なお守りをあの女子高生が取ろうとしたから、あの時、暴れたんだよ」

町から森の中の緑道を抜けて、マリの家が見えてきた。

「マリちゃんの家ってすごく大きいよね」

「そうかな」

「そうだよ」

「お父さんがすごいお金持ちなんだね」

「違うよ、あの家やいくらかわからないけど、お金もすごくあって、それ全部おばあちゃんが持っていたの、私の本当のお父さんが相続するはずだったけど、亡くなっちゃたから、
全部、私のおかあさんが受け継いだんだよ」

「へえ~」

「そうだ、家に着いたら簡単に案内してあげる」

マリはユウキが家に来てくれるのがすごくうれしいようでニコニコと笑ってそう答えた。

自宅についてからマリは広い自宅を簡単に案内してあげた。
玄関から長い廊下があり、しばらく歩くと右手の窓外には大きな庭と池があった。
10部屋以上はあるかと思う扉が各所にあった。
こんな大きな家に3人暮らしとはと、ユウキは思った。
しばらく歩いていたら、古い引戸の扉があった。

「ここは、誰の部屋なの」

ユウキが訪ねた。マリは古くなった、引戸をぎーっと開けた。

「ここが、さっき言っていたおばあちゃんの部屋だよ。おかあさんと話して、亡くなったあともさみしいから部屋をそのままにしておこうということになったの」

「ふ~ん、ちょっと覗いてもいいかな」

「いいわよ、特に珍しいものはないけど」

「マリ~。ちょっとご飯作るのを手伝いなさい。あなたがご飯を作ることでユウキくんを呼んだんでしょ」

母が声をかけた。マリはいけねといったかわいい顔で

「私、おかあさんとご飯の準備してくるから」

マリは台所のほうへ歩いて行った。
ユウキは机の上にある古い白黒の写真をみて、やっぱりといった顔で

「こんなところにいたのかい、ヤエ、あれからだいぶたったね、もう一度、会えると思ったけど・・・」

ユウキは古めかしい机の片隅に置かれた写真に向かって、悲しい顔で話しかけた。

「こんなに世界は広いのにまさか選ばれたのが君の孫だったなんて驚いたよ」

ユウキはまた写真をみつめて

「2回目の大戦はヤエがぎりぎりのところで
人類を滅亡から止めてくれたけど、今度の大戦はマリちゃんしだい、あなたの孫はきっと何とかしてくれると信じているよ」

ユウキは悲しい顔をしていたが、すぐに新たな戦いの日々を覚悟した顔に変わった。

その顔は白黒写真のヤエの横にいる青年と同じものだった。

平和の使者として成功することを信じて
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