平和への使者

Daisaku

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使者の遺志

17話 使者の備え

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そこでユウキが

「マリちゃん、マリちゃん、大丈夫?話を聞いていた?」

「え、あ、うん聞いてた」

ユウキはぼ~としているマリを見て、これは刺激が強すぎると考え

「すみません、ちょっと意見してもよろしいですか?」

「どうぞ」

渡辺が睨むようにユウキを見た。

「まず、この相続を放棄した場合はどうなりますか?マリちゃんはまだ、若いですし、いくら大臣が特別代理人だとしても、いきなりでは無理だと思います」

「たしかに橘くんの言う通りだと思うが、あくまで、私達はマリさんの遺志を尊重したい、
もし、相続放棄をすれば、飛島ヤエさんの功績やマリさんへの願いもすべて無になり、消滅してしまう」

「はい、大臣の言う通りです。その時はここに用意してある、相続放棄の書類と、万が一の場合に備えて、ここで遺言書も作成していただきます。私どもとしては、今、この場で決断していただき、ご回答、願います。そうですね、しばらく、お考えください。お待ちさせていただきます」

渡辺はいかにも仕事といった感じで淡々と話をした。

「マリちゃん、お~いマリちゃん、今の話聞いていた?」

ユウキは自分自身も驚いているが、マリはもっと違う次元での驚き方だった。

「う~ん、なんか、とんでもない話だよね。困ったな~。もし断ったら、おばあちゃんの頑張りがみんな消えてしまうし、相続しても大変そうだし、私、おばあちゃんが好きだけど
こんなにすごい人だとは思わなかった。でも、相続するものをお金にしたら、どれくらいなんだろう?たぶん、3億円ぐらいの価値はあるよね。きっと」

話声を聴いていた渡辺がなぜか、少し怒ったような顔ですかさず

「マリさん、違いますよ。3兆ですよ。おおよそですけど」

「3丁って豆腐もいただけるんですか」

ユウキはあきれた顔で硬直しているマリの体をゆすって

「マリちゃん、豆腐じゃないよ。お金だよ。お金。3兆円ということだよ、そうですよね
渡辺さん」

「はい、そうです。」

近くで警備課の冴島がクスクスと笑っていた。そこで大臣の志木が

「おい、笑っちゃあ、いかん、君はここで今なにが起きているのか。わかっているのか」

興奮気味で注意をした。

「ねえ、マリちゃん、今、決められないなら、とりあえず相続をして、
これから、ゆっくりと考えればいいんじゃないかな。断ったら、
すべて消えてしまうし、どうかな」

ユウキは必死にマリに話しをしたが、なんだかマリは上の空だった。

「でも、相続なんかしたら、なんか、たくさんの悪い人に命を狙われそう。大丈夫かな」

そこで、今度はすかさず、冴島が

「マリさん、大丈夫ですよ。今日も朝から、マリさんの警備は警視庁でも有能な人間が
警備してましたから」

冴島は自身満々と言った顔でマリを見つめた。

ユウキとマリは目を合わせて

「あの~、もしかして、その警備の人って、如月さんと松田さんですか」

えっ、とした顔で冴島が

「そうですけど、あれ、もうお会いになりましたか。おかしいなあ、会うなって指示しておいたのに」

「なんか警備がああいう人だと余計に心配だなあ」
「あの、なにかありましたか?」

「すみません。今朝、すぐに尾行されていることに気づき、怪しい人だと思ったので、ちょっと、一撃を入れて、眠っていただきました」

「一撃、まさか、二人は警視庁でも教官を務めるほどの凄腕ですよ、それにすぐに何かあれば連絡があるはず・・・」

冴島はこんなことがあったのに連絡もしてこない二人に手がブルブルするぐらい怒り始めていた。

それを見たマリは

「なんか、ここにいる人達は、怒る人ばかりだよね」

「そうだね」

ユウキは黙って、マリが答えを出すのをじっと待った。

15分ぐらいマリは考え続けた、そして急に立ち上がった。

「私、おばあちゃんのことが大好きです。だから、おばあちゃんの気持ちに答えようと思います」

「では、マリさん相続をすることでよろしいですね。代理人である、大臣もよろしいですね」

二人は頷いて答えた。

「それでは、この書面にサインと印鑑を押していただきます」

渡辺はすかさず、カバンから書類を出し、次から次へとサインと印鑑を押させた。

全ての書類の手続きが終わった後、

「マリさん、現在、飛島ヤエさんの所有していた全ての者は、日本国がお預かりしています。
この件は、表には全く出ません。そのため、贈与税や、その他、諸経費等は一切ございません。通常ですと、20歳になるまでは、財産すべてを自由にはできませんが、志木大臣の責任において、また、飛島ヤエさんのご指示により、今より、すべての権利を飛島マリさんに移行いたします」

「はい、わかりました」

マリははっきりと答えた。

「あの~、日本の5か所にある保管庫ですが、いつでも、確認に行けるのですか?
また、どなたが現在管理しているのですか」

ユウキはマリの変わりにできるかぎり、確認しようと思った。

渡辺は丁寧に

「いつでも、行けます。また、現在・これからも日本国が責任をもって警備していきます。
さきほどもいいましたが、その費用はすべて、国で負担していますので、ご安心ください」

「わかりました」

「マリちゃん、良かったね、国が管理していれば、安心だね」

「でも、今は高校受験が忙しいから行けないけどね」

マリはギロっとした顔でユウキを見つめた。

「あれ、マリちゃん、須地伊留高校なら、そんな勉強しなくてもいいんじゃないの」

「ユウキくん、何言ってるのよ、美波高校に決まってるじゃない」

マリは顔つきが変わった。きっとヤエさんの思いがそのすべてが消えてしまわないように
生きていこうと考え始めていることを感じた。

「これで、遺志書・遺言書に伴う、相続手続きを完了します。また、これからは、なにかあれば、渡辺まで連絡ください」

そう言って、連絡先の入った携帯電話をマリに渡した。

「あの、これいただけるんですか?」

「そうです、あと、先ほど眠らされた、警備の者の連絡先も入っていますから」

渡辺は不機嫌そうな冴島の顔を笑いながら見てそう言った。

「え~と、警備は今日だけですよね」

また、渡辺は怒ったような顔つきで

「何、言ってるんですか。毎日ですよ。先ほどの相続書であなたは、政府高官と同等と
いうことになりましたから、当然です」

「え~、近くにいられると迷惑なんですけど」

「それは、連絡して、自由に指示してください。しかし、あなたを警護するのが目的ですから、危険な時は、こちらの指示に従ってもらいます、ですよね、冴島さん」

冴島は、まだ、イライラしていだが

「そうです、その通りです」

マリはしぶしぶ承諾した。

最後に志木が

「マリさん、その電話、私の連絡先も入っていますから、まあ、私には連絡することがないかもしれないが、たまには連絡してください」

そう言って、三人はまた、黒塗りの高級車でその場を去っていった。

三人を見送っている時、ユウキはマリのことをじっと見つめて、自分が来なくてもマリちゃんは世界を救う平和のへの使者になっていたのではないかと思った。
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