平和への使者

Daisaku

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フランス2

47話 公園の朝

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考古学研究所では最新の機材を使い、遺物である棺の調査を行っていた。レモンド中佐は部隊からの連絡がなにもなく、何か、不測の事態が起こったのではないかと考えていた。

「ぷるるる・・」

レモンド中佐のスマホにやっと連絡が来た。遅かったなと思い電話に出ると

「レモンド!お前の部隊は全員、軍に逮捕連行されたぞ、どんな指示を出したんだ。お前と私も処分を受けることになったぞ!」

将軍から想像もしなかった連絡が入った。

「いえ、研究所から、逃げ出した女性の捕獲の指示を出しただけですよ」

「女性?」

「はい、将軍は信じられないと思いますが、棺の中に女性が入っており、巧みな話術で脱走、捕獲の指示を部隊に出しました」

「棺?1万年以上前の物から、人なんか出てて来るわけないだろ」

「いえ、ビデオ映像もありますし、本当なんです」

「とても今は、そんな話は信じられないが、パリのど真ん中で、お前の部隊は武器も持たない、一般女性に発砲し威嚇して、市民にも危険な行動を取ったことが、大問題になっているぞ。もう、SNSでその様子は世界中に拡散しており、我々は明日、軍の取り調べを受けることになった」

レモンド中佐は、自分の知らないところで何が起きてしまったのか、わけがわからなくなっていた。

「とにかく、明日の9時に軍基地まで出頭しろ。そこで、詳細は聞くこととする」

そう言って将軍からの連絡は切れた。研究所では、相変わらず、あらゆる機材を使用しても、棺をあけるどころか、キズすら付けることもできず、あまり、調査の進展もない、わかったことといえば、この棺の造られた材料が地球上にあるものではないということぐらいだ。結局テレビ局の取材も棺を映して終わってしまった。まあ、外観は見たこともないような金属素材と文字や紋様ををしているから、絵的にはそれらしく撮れたのだろうが、やはり、ふたが開かないことには、始まらない。そんなことを考え、レモンド中佐は夜になった、研究所を後にした。

翌朝、SNSでフランス軍との戦闘シーンが世界中に発信され、謎の日本少女の話題でアクセス数はうなぎ上りだ。これは特撮で本当の映像出ないとか、やらせだとか、いろいろな情報が飛び交う中、マリは、そんなことも知らずにホテルから1kmほどはなれた、マルス公園でいつも通り、朝稽古をしていた。いつもは練習用の道着を着て行うのだが、今日は人目もあるため、ジャージ姿で行っていた。夜が明け始めて、犬の散歩やジョギングなどをする人たちが少しずつ公園に出始めていた。マリの稽古は毎回、最初は基礎体力をつけるためにランニングや腕立て・腹筋・背筋・けんすいなどを行い、柔軟体操を行う。その後は、日によってさまざまなことを行う。今日は、敏捷性を高める訓練で、猛スピードで動き、新体操の選手を凌ぐ、動きで空中でアクロバットな動きをして、あらゆる攻撃を想定し、それをかわすような内容だった。それは、目で追いかけるのも大変なぐらいすさまじい動きだった。マリの警護官、松田葉子は朝の3時30分に起床して、マリの朝稽古に付き合い、近くで警護をしていたが、マリの朝稽古を始めて見て、そのすさまじさに開いた口がふさがらなかった。しばらくして、マリが松田葉子のところにきて、

「葉子さん、あの~明日からはどこか、武道館のようなところで稽古をしたいんですけど、
朝の5時すぎだというのに、こんなにギャラリーがいると落ち着かなくて・・・」

葉子が周りを見渡したら、もう30人ほどの人が立ち止ってマリを見つめていた。マリの訓練が特殊で、人間の動きを超越したものだったため、そばを通る人たちは立ち止って、マリの動きに釘付けになっていた。

「たしかにそうですね・・・だんだん時間が経って公園を利用する人も増えてきてますし、わかりました。今日、探してみます。費用がだいぶかかるとは思いますが、この近くで手配してみます」

「よろしくお願いします」

「マリさん、如月と警護は日によって変わりますが、できれば、私が警護をしている時は
この朝稽古にできる範囲で一緒に参加してもよろしいでしょうか?私も体を鍛えないと
何かあった時にお役に立てませんから」

「はい、かまいませんよ」

「ありがとう、ございます」

マリはにっこりと笑って、すぐに芝生の広がる公園で稽古を再開した。そんな時、20歳くらいの犬の散歩をしている男性が

「昨日のカンフーガール!」

大きな声で叫んだ。マリを見ていた通行人もその声に呼ばれて、公園を利用している人たちがどんどん集まってきた。

「ジャポネイズ!」

昨日の軍との交戦でマリはかなりの人に知られる存在になっていた。だが、マリはどんなことがあっても朝稽古の時間は決まった通りに行うのが習慣のため、かまわず、稽古をしていた。
マリが空中ですごい動きをすると、群衆が

「オ~、スーパー」

30分ぐらいして、葉子が

「マリさ~ん、人がかなり集まってきてます。今日はこのへんで終わりにしませんか~」

「葉子さん、あと30分したら、終わりますから」

マリは決まった時間まで絶対に稽古をやめない。もう、体に染みついているのだ。そろそろ朝稽古が終わる時間になり、マリがタオルで汗を拭いているときに、若い女性を先頭に5人くらいの人たちが機材を持って近づいてきた。

「ボンジュール!」

マリは誰?と言った顔でその人達を見つめた。

「テレビ局の者ですが、撮影よろしいですか?」

松田葉子はすぐさま、駆け付けて

「撮影はできません。一般のプライベートな時間ですから、帰ってください」

葉子はマリとの間を遮るように飛び込んできた。

「あなたは誰?こちらの少女に聞いているんですよ」

「わたしは、この方を警護する者です。お帰りください」

「警護?それは興味深いですね。昨日の軍との交戦はあなたですよね?」

「マリさん、もう稽古が終わったのでしたら、ホテルに戻りましょう」

「そうですね」

マリと葉子はテレビ局の質問を無視して急いで、ホテルに帰って行った。
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