平和への使者

Daisaku

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影の組織

135話 悲しみとお詫び

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フランス大統領官邸にて治安情報局がワシントンで襲撃された件を聞いたフレデリック大統領は興奮して大声を上げた。

「これは、フランス政府として、アメリカに対してすぐに声明を出す。急いで用意しろ!」

普段はとても穏やかなフレデリック大統領も今回ばかりは我慢も限界にきていた。しかもアメリカ国内で起きた襲撃事件なのに、アメリカ政府から声明どころか、状況説明やお詫びの連絡すらない。我がフランスが誇る治安情報局の亡くなった方達への哀悼の意もなく、もう事故が起きて1時間が過ぎようとしているのに、アメリカの態度にまたイライラしていた。そんな時に連絡が入った。

「大統領、ドイツのブルクハルト首相から連絡です。出られますか?」

「すぐに出る、執務室に廻してくれ」

「フレデリック、この度は大変な事になり、我がドイツからも治安情報局の亡くなった方達にお礼とお詫び、そして、哀悼の思いを伝えさせていただきます。恐らくこれから、声明を発表すると思いますが、ドイツでも、大変お世話になりましたので、フランスと同じく、アメリカを非難する声明を出させていただきます」

「そうですか。わざわざ連絡ありがとうございます。首相、また、後で落ち着いた時にこちらから連絡させていただきます」

報道の準備スタッフが走って来て、

「大統領、準備出来ました。この放送は世界のほとんどのTV局から生放送されます」

「よし、すぐに行く」

アメリカよりも先にフランス政府は全世界に向けて、今回の襲撃事件の声明を発表した。
「全世界の皆様、約1時間前にフランス政府高官がアメリカのワシントンで襲撃されました。
今回は我が国の最高機関である治安情報局の局長以下3名と、アメリカ合衆国元大統領レナード氏も
同乗しておりました。今回、アメリカへは非公式に入国し、この件を知る者はアメリカ政府でも、
ごく一部の者だけしか、知りえない情報でした。
フランスはアメリカ政府が用意した車、運転手、指示された時間、車でのルートを何ひとつ変更することもなく、予定通りに行動しておりました。ですが、まるで、アメリカ政府が計画したかのような、待ち伏せに合い、車は大破、しかも、その大破した車の状況を映像から我がフランスの分析官によれば、アメリカ軍の最新式ランチャーによる対象物のみ消滅させる特殊ミサイルという事も判明しております。これは、事故ではなく、アメリカ政府による、殺害計画が実行されたと思われます。現在、アメリカ以外の主要国と結束し、アメリカをテロ推進危険国としての承認の動きに入っております。
そのことを裏付ける様にアメリカは事故現場に軍を投入して、現場検証もせずに、事故車やその残骸を速やかに片づけてしまいました。事故から1時間経過しても、フランス政府に対して、なんの連絡もないことからもわかるように、他国の優秀な機関が自国の優位性を脅かすという観点から、この様な犯罪行為に国として実行したと思われます。今後、アメリカ以外の国と結束し、全世界の協力の元、今回の事件の全容を調べ、徹底的にアメリカに制裁をする所存です。亡くなった方はもう、戻ってはきません。しかしレナード元大統領との協力のもと、世界平和に向けた治安情報局の行動がアメリカ政府には面白くなかったのでしょう。邪魔者は殺すといった恐ろしい国とは、我がフランスだけではなく、全世界が共通の認識で協力してくれることを願います」

フレデリック大統領はまだまだ言い足りないことが沢山あったが、放送を見てくれている人達にわかりやすく話すことができたと思った。そして、その後、ドイツの首相やマリ達がこれから訪れて諸問題の解決に尽力することを期待していた主要国をはじめ、たくさんのフランス支持者からのTV放送が配信された。

深夜、日本ではそのTV中継を自宅で松田マツが見ていた。

「たしかになぜ、襲撃されたか、指示した人間が誰か、調べる事は大切だ。だが、まずは亡くなった遺族に挨拶をするのが先だろう」

マツはマリと初めて出会い、楽しく話をしていた、応接に座り、マリのかわいい好奇心旺盛な笑顔が思い浮かんできた。そして、マリの両親にどのように報告するかを考えていた。
その時、応接室に連絡が入った、執事の黒川からだった。

「会長、フランス国防大臣アベル様から連絡が入っております」

「なに、わかった、つないでくれ」

マツは急に、また、イライラし始めた。そして電話がつながると

「アベル~!お前が付いていながら、なんでこんなことになったんだ~」

アベルはこんなに怒った声を出すマツにおびえながら

「本当にすみません。まだ15歳のマリさんにこのような任務をさせてしまい、申し訳ありません。ただ、マリさんは次から次へとその人柄と行動力などから、仲間を増やしていき、フランスは元より、世界でも治安情報局のマリさんはリーダーシップを発揮され、あらゆる所で活躍され、この短期間で信じられない程、成長されました。そのため、我々も、甘えてしまい、あの方達なら大丈夫だろうと思ってしまいました」

「ふん、お前が私に今更なに言ったって遅いんだよ。それより、マリさんのご両親にこれから、挨拶に行かなくてはならない」

「そのことですが、現在、日本の伊藤総理とフレデリック大統領が電話会談をしております。今は、日本は深夜なので、本日朝、9時に伊藤総理大臣と志木国務大臣がマリさんのご両親に今回のご報告に伺うように了解が取れたようです」

「そうかい、お前にしては、めずらしく段取りがいいじゃないか」

「本当は私や大統領も飛んで行きたいのですが、日本まではかなり時間がかかりますし、
今回の事故の件で、各国との打ち合わせがあり、動く事ができません。ですが、こういうことはすぐにご連絡したほうが良いと思いまして近くにいるお二人にお願いしました」

日本では深夜3時になろうとしていたが、マツは目をぱっちり開けて、

「いきなり、そんなお偉方が来ても驚くだけだから、先に私が言ってまず話をするよ」

アベルはフランスにいて何もできない自分が情けなく思い

「マツさん、すみません。大変だと思いますがよろしくお願いします」

「わかった・・・」

そして電話を切った。

マツは悲しいのと悔しいのとそんな感情がいり混ざっていて、いつもは寝ている時間であるが、全く眠くなることはなかった。
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