異世界民泊始めました。~異世界からの旅行客を美味しいお店にご案内~

maa坊/中野雅博

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第四章 エルフの嫁入り

16人――いる? 1

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「結婚式って、たっけえなあ……」

 俺は自宅のノートPCで結婚式場のHPを見ながら深いため息をつく。
 下限は100万前後から、上限だと500万はいってしまう。しかし、すまないがそこまでの貯金はない。いや、なくもないのだが、支払うと貯金が尽きる。これから物入りになるかもしれないのに貯蓄ゼロは非常にまずい。しかし、ミリアルに満足のいく結婚式をプロデュースしたい気持ちは当然ある。金に糸目は付けない、とは言えないが、最低限――いや、少なくとも彼女の満足は最大限にしないといけないと思うのだ。

「――もっと貯金しとくんだったなあ……」

 民泊を始める前はもっとカツカツだった。理由の大半は『外食』だ。俺の生活費のほぼ半分が外食費に消えていたと言ってもいい。新しい店を開拓したり、贅沢な飯を率先して食い歩いたりしたこともある。その都度交通費と飯代が俺の財布を直撃し、散財していた。
 さらにいうなら副業がまったく当たらなかったのもある。小説家としては最初に刷った印税分以外ほぼ貰っていない。コスト的に考えてもハッキリ言ってなんかバイトしてたほうが時給は良かっただろう。それでも好きなことで金が貰えるのだからそこに関しては感謝している。

「何見ているの?」

「え……うん、その結婚式どうするか、と思って」

 自宅の居間でHPとにらめっこしていたら後ろからミリアルが覗き込んできた。

「ねえ、私も手伝ったほうが良い?」

「え、でも悪くない? こっちのこと何も――」

「二人の式でしょ? お互いが協力したほうが楽だと思うけど?」

「……確かにそうだけど」

 男の甲斐性としてその、何というか。

「変に安いプライドを持つべきではありませんよ、ご主人様」

 居間のテーブルの上にそう言ってレイがお茶を置く。

「や、安いって……」

「失礼ですがご予算もまともに確保なされていらっしゃらないのですから、偉そうなことを言うべきではないかと?」

「ちょ――レイさん、ミリアルの毒舌うつってないですかね?」

「あら、事実でしょ?」

 おほほ、と女性二人して俺を笑う。くそう、その通りだよ!

「でも、別に豪華さなんて望んでいないから。希望はあるけど」

「希望?」

「出来ればそうね――こっち伝統の結婚式、がいいかな。こっちの世界に受け入れられたって感じがするから。そのあと簡単な会食でもすればいいでしょう? ちなみに費用は半分私も受け持つから」

「え、いや、ミリアル働き口なんてあるの?」

「ないわよ? でも式まで時間があるんだから見つけてくるわよ」

「そ、そう? いや無理しなくてもミリアル食べさせる分ぐらいは稼いでるよ?」

「でもそれじゃ式の費用足りないでしょ? 自分の分は自分で稼ぐわよ。おんぶでだっこなんてまっぴらごめんよ。こっちに来た以上、私は頼りすぎたりしないわ、貴方にも」

 そう言ってミリアルは不敵な笑みを浮かべる。

「お互いが支え合うからこその、夫婦。素晴らしいご決断です」

 レイがそれに賛同し、俺もそれの気持ちを受け止めた。最初に会った時とは完全に印象が変わったな、と思う。もはや俺の方が、頼りない。

「それでは式場は早めに見つけましょう。半年待ちなどざらですので。と、言うわけで後はお任せします、ご主人様」

 そう言うとレイはミリアルを連れ立って外に連れ出してしまった。二人で式場選びか……仲良く末永く幸せに――いや、結婚するの俺なんだけどな?

     ◆

「はて、上手いこと今日の民泊のお客様のお出迎えを任された感があるんだが」

 別にそこに不満はないが、体よく追い出された感が若干気に掛かった。なんというか、蚊帳の外、みたいな気分である。女性同士でキャッキャうふふとお出かけする

「ま、いいか。気を取り直して――」

 俺が屋敷の門を潜った瞬間、異界の門の方に反応があった。やべ、もう来てるじゃん。

「はいはい――お待たせしま……」

 しかし――光輝いた扉からは誰も出てこなかった。

「あれ? おっかしいなあ……」

 俺は周囲を警戒する。最近は魔力も得たので変な種族に不意打ちされることもない。ふはは、強いぞ俺(鼻ほじ)。

 ――果たして、そうかな?

「え?」

 あれ――、あれれ?

 地面が揺れる。視界が――滲む。気持ち――悪い。

『――魔力がいかに強かろうが関係ないのう。お主とワシはリンクし過ぎる。せっかくだから、楽しませて貰おうではないか』

 まずい。意識が『乗っ取られていく』。
 謎の声が耳に反響し、そのたびに平衡感覚が失われ――う、があああああああああああああ!

『無駄じゃよ。×××よ』

 俺の意識は、そこでぶつりと途絶えた。

 ※※※※※

 板の床に倒れた身体が再び、ゆっくりと起き上がる。己の身体の動きを確かめるように、男は右手の指をゆっくりと握り、開く。

「ふむ、馴染むのう」

 男は笑う。この世を堪能するかのように。そのために奪ったこの身体を最大限に利用する――。

「さて、まずは――」

 男は屋敷の外へ踏み出す。

「飯でも食うかのう」

     ◆

「ふむ……」

「どうかなされましたか、お客様?」

 中野新橋駅近くのペットも入れるというカフェに、とりあえず男は入ってみた。なれたところよりも、目新しいものを――、それだけの気持ちで入ったのだがこれは失敗だったと言える。なにしろ、メニューからしてチンプンカンプンだったのだ。何を注文したらいいかもわからない。彼の文法の中にわかるような単語がないのだ。そんな彼を見かねて店員が声を掛けたのだが、彼はじっとメニューから目を離さない。

「和食――にしても大分勝手が違う――」

 このメニューに書かれた塩麹とは何だろう? いや、麹は彼にもわかる。しかし、塩麹なんて料理に使ったことはないし、味も想像がつかない。和食の定食ならまだ解読も出来るが、このペペロンチーノだのカルボナーラだのはもはやどんな食べ物だというのか?。

「さらに、この飲み物――」

 コーヒーや紅茶はまだわかる。しかしシナモンだのチャイだのミントライムスカッシュだの、何の呪文だろうかと訝しむ。

「いや、すまん、失礼した」

 そう言って彼はその場を辞す。恐らく食べれるものはあるだろう。美味しい匂いに誘われて入ったのだからきっと味も問題ない。それでも、これは自分の食べるものではない――彼はそう感じていた。

「――違う」

 次に入った中華料理店でも彼は一口出てきたラーメンをすすり、確信する。『これではない』と。一緒に注文したチャーハンに口もつけず、彼はお代だけを置いて店を出た。

 その瞬間だった。

 ――てめ、ふざけんなこら。飯を残すんじゃない!

「む――、まだ動けるのか」

 意識は乗っ取ったはずだが、まだ動けるとはなかなか見た目よりは骨があるらしい。

「中年太り気味のくせに」

 ――一言多いんだよ!

「もう少し、大人しくしとれ。さらばじゃ」

 ――ふがっ……むぎゅう。

 危ない危ない、この男、飯のことになると予想外に魔力が膨れ上がるようだ。念入りに今度こそ封印させてもらう。

 ――て……てめ、ざっけんな……何が目的だ……。

「大人しくしておれ。なあに、ちょっとした観光じゃよ」

 ――嘘……吐け。

「嘘ではないぞ? ワシはな、昔からこうやって、人界を楽しんで居るのだからな。実体がないのだから」

 ――ま、さか。

「そう、俗にいう、霊体じゃよ」

 男の正体はレイス――霊魂が変異しアンデットとなった憑依型のモンスターである。
 どうして彼がこのような姿になったのかというと――まあ、色々あったのだ。今はそれに関しては割愛させていただく。


「こうやって人に憑依しなければ何も楽しめん。飯の味もわからん。だから借りているだけ――正当なことだと思うんじゃがなあ」

 くくく、と男は笑う。もう話しかける相手の声は限りなく小さくなっている。もうすぐ、完全に閉じ込めることも叶うだろう。

 ――返せ。

「ふむ、嫌じゃ」

 ――返、せ、俺は……ミリアルのとこに。

「ほほ、想い人か。なら、それも一緒に味合わせて貰おうかの――」

 ざけんなジジイ!

 やべ!? と彼はいきなり勢いを取り戻した男にびびる。どうやら、こういう冗談は通じないらしい。

 ――く、そ、う、動けねえ……。ぜってえ、そんなこと許さねえ……。

 抵抗する男の様子を伺いながら彼は思うところがあるのか、彼に訊ねた。

「……ふむ、ならワシにピッタリ合う店を見つけて見よ。そうすれば、その娘には手出ししないと誓ってもよいぞ?」

 ――守る気なんてねえだ……ろ。

「そう思うならそれでもよい。だが、他に手があるのか?」

 男は暫し沈黙する。どう答えるのか悩んでいるのか、それとも、もう封印され声もでないのか――。暫しの沈黙ののち、自由を奪われた男は決断した。

 ――わかった、あっちだ。

 
 男は中野新橋から鍋横商店街方面を脳内から指し示す。そこに何があるのか――レイスは不安半分、そしてこの乗っ取った男への期待半分でそこへ向かった。
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