ーwaterー

あざまる

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第1章 ーオー・レーモンと隣国ー

優しさ

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この港で働き始めてから7日がだった。
私の仕事ぶりもなかなか様になってきたのではないか、と思っている。
最初の頃は魚を捌くことも出来なかったが、今は得意の剣術で素早く捌けるようになった。
バラードは7日前話していたように、出航するときはいつもあのイヤリングを付けている。
潮風が彼の短髪を揺らし、その耳元でそのイヤリングが確かに輝いているところを見ると、私は何故かいつも誇らしい気持ちになる。
今日は雲ひとつない晴天の日だった。
「サリア、今日はここまでにするぞ!」
バラードは船の反対側から叫ぶ。
「わかったわ!!」
私がそう返すと彼は木製の舵に勢いを付けて回転させた。船の方向は一転し小さく見える港へと向かっていった。
私たちはいつも通り採った魚達を網からだしバラードの家の屋根の上で1匹づつ干していく。
その後は各々でシャワーを浴びたり、着替えたりをして夕食を食べ、就寝。
シャワーを浴びる時に毎回髪で隠している角がバレてしまわないか心配していたが、今のところバレている様子は無い。
しかし今日は少しだけいつもと違っていた。
「サリア、出かけるぞ。」
いつもなら掛けてあるハンモックに入る時間だが、バラードはドアを半分開け私に手招きをしている。
「どこへ行くの?」
「いいから、付いてこいよ。」
私はバラードに肩掛けを持たされ彼のあとを追った。

「…… …… ……なんて、美しいのかしら…… ……」
バラードに連れてこられたのは、いつもの港。そこから漁をする時には使わない小さなボートに乗って海へ出た。
波の立たない、鏡のような海面、そこに映り込む曇り無き夜空。
私が初めて海を見たあの時とはまた違う海の印象を捉えた。
「ほんと、見とれちまうよな。」
バラードはボートを漕ぐ手を休めて私と同様、その光景に見入った。
「バラード、私にこれを見せるためにボートを漕いでくれたの?」
「……まあ、それだけじゃないけど、間違ってはないぜ。」
彼の表情は優しく穏やかだった。
「サリア、俺達の港で何日か働いてくれてありがとな。お前は、あの日ぶつかってしまった代わりに、なんて言って仕事手伝ってくれてたけど本当に助かったぜ。」
今まで何度も見てきた、バラードが白い歯を見せて笑う姿。
「今までありがとう。これからは、自分が行きたいところにいけよ。……サリアはどこに行くんだ?」
命を何にも縛り付けないその思想ー私はバラードの心根が好きだった。
少しだけ共に過ごしてわかったが、彼は裏表の無く澄んでいる。
身元もしれない私にここまで丁重に扱ってくれた彼を信用している。
バラードになら私は秘密を明かすことが出来る、そう思ったのだ。

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