ーwaterー

あざまる

文字の大きさ
12 / 18
第1章 ーオー・レーモンと隣国ー

正体

しおりを挟む
「私は貴方にずっと隠していた事があるの。」
「……?なんだよサリア、言ってみろ。」
バラードの優しい眼差しは、依然として変わらない。
私は親指と人差し指で固く結んだ紺色のリボンを摘む。
その指に力を込めるも、自分が自分を拒んでいる。
初めて明かす私の秘密ーもしこのはなしが何らかの方法で漏れてしまったら……国民は混乱し国が荒むのが目に見えている。
しかし、私はそのリスクを負ってでもバラードには言うべきだと判断した。
ここは私達以外誰もいないボートの上今しかない思った。
目を瞑りリボンを一気に引く。
「…… ……?!」
彼の目は見開かれ、口は唖然と開いていた。ボートを漕いでいた筋肉質な腕はだらんとその場にぶら下がる。
私の長い銀髪は踊るように解けていった。
私の角が露になる。
色々な思いが募る。
頭にはお父様、お母様、レイラ、オンディーヌの顔が次々と浮かんでは消える。
私はゆっくりと瞼を開く。
「これが、私の秘密です。」
「……なっ?!……これ、本物かよ……?!じゃあ、お前は……!?」
バラードが私の角にゆっくりと手を伸ばす。そして指先だけ一瞬触れて、力無く「本物だ」と呟いた。
「私はサリア・オー・レーモン。この国の元王女です。」

私は、すべて話した。
今まで起こったこと全てを。
召使い、オンディーヌに国を任せたことを。
「7日前のプリンセス誕生日のあの日そうして私はここへ来たの。今は召使いオンディーヌがこの国を動かしているわ。…… ……幻滅したでしょう。姉の為に国を見捨てる王女……。でもね、私は貴方になら話したいと思ったの。この国の真実を知っていて欲しかった……。」
彼は俯いている。
「…… ……!」
彼は声を殺して泣いていた。
「ど、どうして貴方が泣いているの?……こんなにも不甲斐ない王女で本当にごめんなさい……。国民を泣かせてしまうなんて…… ……うっ……」
私は自分のどうしようもない無力さに嗚咽が零れた。
「……よ……」
「え?」
「違ぇよ!!」
バラードは勢いよく私の両腕に掴みかかる。その衝動につられボートが大きく左右に揺れる。
彼の真っ直ぐな視線が私の瞳を捉える。
「今すぐ、行かなきゃダメだろ!!」
目の前に迫るバラードは短く息継ぎをして続ける。
「レイラ女王を助けにいけよ!…… ……俺も行く……恩返しさせてくれよ、俺達を救ってくれたパンドラ国王の娘はお前だろ?!俺の命を賭けさせてくれよ!」
「……!!!」
実に私は『感無量』という感覚に陥った。
大切な国民にそんなことさせられない、そう彼に言い聞かせようとしたが、きっと私がそう言ったところで聞く耳を持たないだろう。
それくらい、バラードの意志は固かった。
私は、またたくさん涙を流した。
それは7日前の冷たい涙とは違う、暖かい温もりを持つ涙をだった。
私は咽び泣きながら彼に『ありがとう』と伝えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...