ーwaterー

あざまる

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第1章 ーオー・レーモンと隣国ー

北の森 Ⅱ

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「おばあちゃん!連れてきたわ!」
ツリーハウスに付けられたはしごを登り、アンドレアは木の上の小屋の入口にかけられたすだれを勢い良く捲った。
「……!!」
そこには、アンドレアと同じ茶髪のエルザが1人静かに佇んでいた。
彼女はかなり年老いていた。その年季が厳格を感じさせる。
これが北の森の長ー私は生唾を飲み込んだ。
「おやおや、これはまたねえ。よくおこしになられたねえ。こんな隠居な森に自ら入ってくるなんて物好きもいるもんだわねえ。」
長はふはは、と陽気に笑う。
お母様がいっていた見た目で人は判断出来ぬ、とはこういったことなのだろうか。私の頬も少し綻ぶ。
ふと、長は笑い細めていた目を私に止める。そしてまじまじと私を眺める。
「そこの銀髪の髪を結った娘、親はエルザかい?」
私の心臓は跳ね上がるように鼓動を弾ませる。
北の森の長は人を見ただけで分かってしまうのかー?突然の質問に口が動かなくなる。
「はい、長。こいつの父親が人間、母親がエルザです。」
硬直する私の隣に座ったバラードがフォローする。
私は眼球だけ動かしてバラードを見る。バラードは「気にするな」という様な表情で微笑んだ。
「…… ……ほお……。こりゃ不可解なこともあるものだねえ。娘から感じるのは純粋たるエルザのもの……父親の遺伝子の方が優勢に出たのかね。まあしかし娘は角も翼もない人間だからねえ。」
また長はふはは、と目を細めて笑い出した。
「ごめんね、サリア。おばあちゃんが変なこと言っちゃって。大丈夫、気にしなくていいのよ。」
アンドレアもなんの疑いもなく笑う。その姿は長が目を細めて笑ったときの表情と重なった。
「いいえ大丈夫よ。アンドレア、私達にこの森を案内してほしいわ!」
アンドレアは嬉しそうに、「任せなさい!」と言った。

日が沈むまで、北の森のあちこちを回った。たくさん歩いたが、不思議と疲れなかった。
そして、4日が過ぎた。
「ねえねえあんたらさ、夫婦なの?」
私とバラードが北の森へ来た日から、私達とアンドレアが泊まるツリーハウスで彼女が意地悪そうに質問をした。
「は、はあ?!馬鹿かお前!ちげえからな!そもそも夫婦の前にカップルか、だろうが!」
バラードは真っ赤になって言う。
「ふーん、なんだ。てっきり新婚旅行でもしに来たのかと思ってたわ。」
アンドレアはつまらなそうに髪をかきあげた。
「そういえば、2人は旅人なのよね?ここを出たあとどこへ行くつもり?」
「ルスティカーナ帝国よ。」
「……ルスティカーナ……?」
突然の行き先の公開にバラードもぎょっと驚いている。
アンドレアも眉をひそめる。
身勝手だと思っているがこの決意を変えるつもりはさらさらない。
「理由ならちゃんとあるわ。聞いてほしい。」
西の大国オー・レーモンはルスティカーナ帝国と近年、平和条約を結んだ。
その年からプリンセス誕生祭に毎年出席してもっていた。
ルスティカーナ帝国のエレナ帝王は私とレイラが歳を重ねる度にルスティカーナ帝国への来国を進めてきてくれるのだ。
きっとこれは友好の証であると感じている。
「しっかりとした根拠は残念だけどないの。バラードが辛い思いをするかもしれない。でも私はあの人に協力を求めたい。」
バラードはなにか深刻に考えるように「俺は別に構わねぇけどよ」と続ける。
「お前がそう思っていても今のサリアはどう見たってただの町娘なんだぜ?あいつはそんな下の身分の奴を城に入れたりしないぜ?」
「それは……必要に応じて正体を明かすわ……」
「ちょ、ちょっと待って……?」
アンドレアが困惑を含めたトーンで言った。
「ルスティカーナ……?身分?……ど、どういうこと?」
私はああ、そうかと思い出す。
「アンドレアにはまだなにも話していなかったわね……。貴方には、とてもお世話になったわ。今まで一緒にいて分かったけれど貴方はとても真っ直ぐなエルザなのね。だから、私の1番の秘密を聞いてほしい……。」
私はまた、すべてを話した。
話していくうちに彼女の相槌は少なくなりやがて消えていった。
全てを話し終えたその時だった。
「…… ……信じられない……。」
今にも掠れ消えそうな声でそう言った。
「それで……ここへ来た理由が……護術士を仲間にするため……?」
肩にかかっていた彼女の長い茶髪が空中に垂れる。
「アンドレアや長に旅をしている、なんて嘘をついてこの森に入ったの……謝るわ。ほんとうにごめんなさい。」
「許さないわよ。」
彼女は間髪入れずにそう言った。
「…… ……っ!……」
バラードが何かを言おうとしたが、それが口から出てしまう前に言葉を飲み込んだ。
「でも、私は貴方達が好きよ。だから選択肢を与えるわ。」
アンドレアは片膝を床につけ、もう片膝を顔に寄せ左手は背へ、右腕の甲を私達に向けるような姿勢をとった。
「……そ、それは……!」
「私をその旅へ連れて行って。」
北の森独特の忠誠を表す姿勢だった。
長い前髪で覆われていた顔は私をとらえていた。
その目はキラキラと輝いていた。
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