DIDN’T

Mehoko0095

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火のないところに

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「お前だろ、山田の家に火をつけたの。知ってるんだぜ。」
 振り返ると笹木が後ろに立っていた。
 山田の家は昨日火災に遭って、付近の家にまで延焼し、隣の家のばあさんが焼死体として発見された。
 山田は同じ学年、隣のクラス。学年一の秀才で、学校でも有名なヤツだった。だからといって関わり合いも無く、話したこともない。
「何もしてない。俺を疑ってるのか?」
 笹木に言い返して、ほとんど誰もいなくなった教室を出ようとしたら、笹木は行く手を塞いで話を続けた。
「山田、桃香に告白してOK貰ったらしいじゃん。桃香って、お前の元カノじゃん。それって恨む理由になると思うけど。どう?」
「知らない。桃香とは今年入ってから話してないし。」
 頃は2月。俺ら中学三年生は受験の真っ只中だ。みんな自分のことでいっぱいで、他のことはどうでもよかった。受験する学校は決まっているが、合格はまだ取り付けられていない、そんな中のことだった。
 山田の家が燃えたのは、午後七時。山田は家族とファミリーレストランで夕食を食べていたため、火事には巻き込まれなかった。その間、俺は家で受験の願書を書くために自分の部屋の机の前にいた。山田の家は俺の家から見える位置にある。丘のふもとにある山田の家から立ち上る煙は丘の上にある俺の家のベランダから昨夜見えた。
「笹木、お前、どうして俺を疑ってるんだ?そもそも、お前の言うことの根拠は何だ?」
 笹木はニヤリと笑うとこう言った。
「見てたんだよ。あの火事のとき、俺はお前を確実に見た。写真も撮ったんだぜ。」
 ほら、とスマートフォンをこちらに向けた。画面には黒尽くめのフードを被った誰かが写っている。だが、はっきり写ってはおらず、これだと誰とも言えないような有様だ。
「笹木、そんな写真撮る暇あったら警察に言えよ。写真見せて、犯人を見ましたって言えばいい話だろ。」
「言ったんだよ。そうしたら、これじゃ証拠にはならないって言われて。」
「なら犯人じゃないんだろ。俺は帰る。」
 そう言って教室のドアの前にいる笹木をひょいとかわして通り抜けた。
 何で笹木は俺に食ってかかるんだ?俺はその時自室にいた。ただ、親はまだ帰ってきていなかったから、裏付けとなる証拠はこれと言ってない。言えるのは、俺は山田に対してやましい思いも何もないということだけだ。
「新宮、お前なんだよ、火をつけたのは。お前が自白しない限り、俺は追い続ける。見てるからな。」
 笹木は俺の後ろから大声で叫んだ。俺は振り返りもせずに帰路についた。
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