小宮こっちを向いて。

タイガー&フィッシュ

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もしも、あの時傍にいたなら何て言ったかな?ねぇ君は何て答えるの?

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 神奈川県鎌倉市大船駅から山を越える懸垂式の湘南モノレールが江ノ島まで延びている。地元の足として活躍している。曰く初見の乗り心地はジェットコースターらしい。

 3月末の晴天は何をするにも持ってこいで行楽も良い買い物も写真を撮るにも。

ヤマハのビーノに乗り大船駅から数えて三駅目の深沢駅から至る江ノ島方面に向かった大通りの四つ角でシャッターチャンスを待ってる小宮恵那(こみや えな)は高校2年生で写真部で最近好きな人に振られたばかり。

恵那が告白した日、部員の山口と清水は機材を取りに行こうと部室の前でたまたま聴いてしまった。お互い目だけで合図して忍者のごとく気取られないように部室の前を去った。

3人しかいない弱小写真部は廃部の憂き目になりかけたが清水が何かを撮ってる小宮を撮った写真が大会で賞を取った事で放送部との合併は免れた。

「はぁ、待っても来るのはモノレールと車ばっかり、気晴らしに写真部で来たのにさ」かれこれ2~3時間は過ぎた。

恵那はジト目で隣を見る。

「そんな目で見ても何も出ないよ小宮」ややぽっちゃりの山口は眉をハの字にして困った顔で笑う。下顎に人差し指を当てながら上を見る。

「うーんたまには写真じゃなくても良いんじゃないかな?部は存続決定したし遊びに行くのも悪くないんじゃない?」

「じゃあ山口達でどこか気の利いた所に連れてってくれんの?」 

むくれっ面にジト目のままの小宮と目が合う。大きな瞳に綺麗な鼻筋と目よりもよく動く形の良い口。ロングの癖っ毛は軽くウェーブしてる可愛いよな、間違いなく。

「小宮が良ければ遊園地でも行く?」誤魔化す為に口をついた割には、なかなか良い提案が出来た。目を見つめ続けたら向き合わなくてはいけなくなる、誤魔化して蓋をした気持ちに。

「何か引っかかる言い方だなぁ、でも連れてってくれんなら、いいよ」ニヒヒヒと笑う。


カシャ!


シャッターを押してから気づくレベルの無意識。自分でもデジカメを構えた事に暫く気付かなかった。
撮った写真に予感を覚えた、引いた波が当然のように押し寄るみたいに。

「あぁ~勝手に撮ったな!サイテー消してよね」文句も耳に届かない。

あまりにも可愛いかったからさ小宮が………
言える訳ない小宮が傷心中なのを抜きにしたって。

小宮が反対側に向かって手を振る、釣られて見ると長身でやや猫背にやる気の無い歩き方の清水はだるそうに手を振り返す。

デジカメを操り小宮の目を盗みながら写真を確認する。
鼓動が脈を早めた、本当はまだ悲しいのに精一杯笑ってる大人みたいな笑顔。

今度は明確な意思を持ってカメラを構える。

信号が変わり、車がまばらに流れ始めるモノレールが音を立てながら近づいてくる、春風に彼女が乱された髪を片手で押さえながら目を瞑る。

桜吹雪が舞ってガソリンスタンドの店員が大声でお礼を言っている。

小宮こっちを向いて。

「ねぇ何してんの?」小宮の声に刺があった。

「ん?シャッターチャンスを待ってるんだよ」余罪は少ない方が良い。下心のこもった願いが通じた。

小宮が小動物のように「音」に反応して振り返って道路を見た。

近づいてくるだけで他の乗り物とは違うと判る地響を立てて通り過ぎる巨大クレーム車の後に檻を積んだ車が何台も後に続いた。車は車体にラッピングされていて熊が玉乗りしたり空中ブランコの絵と一緒にサーカスと書かれている。

「今の凄くない?見せてよ山口」

「うん」顔を近付けてカメラを覗きこむ。

「何これ私の顔じゃん」

「違うやつだって、ちゃんとあるよ」小宮は山口から受け取ったデジカメを操る、それを少し後ろから山口も眺める。

雨の日の校舎。電車に揺られてる向日葵。

野球部が白球を追いかけて走っている。

真夏の図書室で思い思いに時間を過ごす人達。

小宮の顔がハッとなる。真冬の放課後に制服のままバッターとピッチャーだけで野球をする2人。

「ねぇお腹空かない?」殊更、山口は明るく言う。

「減ったかも」

「あーみてみてタピオカ売ってるよ2人も飲もうよ」小宮が1オクターブ高い声で言う。

げんなりする男子を引っ張ってタピオカ屋の列に並ぶ、タピオカは女子には食べ物になるらしい、キヤッサバを小豆くらいの大きさにされて食べても小腹も満たせない。

「結構並んでるね」

「山口タピオカって何だよ」清水は僕より幾分背が高く覗きこむように聞いてくる。

「今流行ってる飲み物」

「美味いのか?」

「それを今から確かめるんじゃない?」

さっき通ったクレーム車と何台もの車は近くの空き地に止まり作業を始めた。

「絶対に家に帰るんだから、休みは頂戴ね」年齢は高めだが綺麗な女性のサーカス団員が他の団員に大声で言う。周りは判ったとか我が儘聞いてここまで来たんだろ?とか女性の希望を叶えたと主張している。
声だけじゃない存在そのものが目立つ。

タピオカの売店はかなり即興で作られた物で店員はピエロだった。買ってくれたお客に一芸を披露して女の子はキャーキャー言いながらスマホで写真を撮っている。

「オーゼン、ナンパか?」大声の女性が近づいてピエロの店員に絡む。

清水はそれら一連の流れを酷く鬱陶しい顔で見ていた。

そうこうしている内に番が回って来て小宮は呪文のような商品名を注文した、男2人は仲良くシンプルな味を注文した。

ピエロは写真はどうするかとジャスチャーで伝えると小宮は手を横に振り断った。

初めて飲んだタピオカは美味しかった。
それ以上することは無かったのでこの日はお開きになった。


 


 次の日季節外れの転校生が来た。 
なんとそいつは外国人で肌の黒いイケメンだった。名をオーゼンと言った。

クラスは騒然となった挨拶もそこそこにオーゼンは迷いなく歩を進め「やぁ」と小宮に挨拶をする。

「はぁこんにちは」小宮は呆気に取られて周りの視線に気づくと。
「何処かで会ったけ?」

「昨日のピエロです。何で君だけは写真を断ったのかと思ってさ」ズケズケ強引に小宮に話し掛ける笑顔が爽やかなイケメンに山口は軽い殺意を覚えた。

しまった、殺意を抱いたままオーゼンと目が合っている先ほどと変わらない足取りでオーゼンが僕に近づいてくる。


まずい僕は腕力なんて、からっきしだし喧嘩なんて幼稚園の時におねしょをばらされて逆切れした時以来だ。

オーゼンは「大輔じゃないか?」山口はまったく想像していない事を言われて固めった。

「なに見てんだ」

「文句あるのか」 

「お前もあの娘が気になるのか」

絡まれた時の常套句を想像していたせいかまだ思考が追い付かない。

「ねぇやっぱり大輔?」オーゼンは山口の顔を覗きこむ。

眉毛長ぇーし鼻は高けぇし顔は小さい。こいつ本当に僕と性別一緒?

「おーい聞いてる?」

こいつに、なれたらどんなに良いかね。

「あっ大輔は昔と変わらず電車が好きなんだな」

 しまったと思った、机の上に出したままの小田急線各駅停車町田行きの六会日大前から湘南台に向かう長い直線を走る写真。

「昔から?ん?」改めてオーゼンの顔を見る。

「早乙女?」何かが引っかかった。

「おぉー良く旧姓を覚えててくれたね」

「本当に早乙女?僕と対して体型と身長が変わらなかった」

「うん、そうだよ。小学校に上がる前に転向してさ、実は親の離婚と母さんの再婚で海外のサーカス団に入ったんだ。あぁ父さんは元々体が弱くて病気がちだったんだ、だから死期を悟った猫みたいにある日家から姿を消した。母さんは驚なかった何か2人だけで話していたんだと思う。そしたら母さんが「エミットの事は心から愛しる。けど今度は身体の強い男の嫁に行く」って言って知り合った人がサーカスの猛獣使いだったんだ、母さんからは後悔するならやってからにしろって言われてる」

「波瀾万丈に育ったんだ」

パワフルな母と違いオーゼンの父は寡黙で頭の良い人だったはずだ、幼稚園の頃にオーゼンの父が迎えに来た事が一度あった、
背が高くて、かなり、いや異常に肌が白くて右腕に持ってる鞄にしては大き過ぎて薄い何かも気味悪かった。歩くのは極端に遅い、いや動作そのものがゆっくりだ。僕は思わずオーゼンの父に「病気」なの?と聞いてしまった。

「うーんもしかしたらそうかもしれないね。身体は健康だけど気持ちは病的かも」

不思議な人だった。浮世離れしてると思った。

それから暫くしてオーゼンの父の正体が判った。

ある日遠足で美術館に出掛けた。みんなは騒いで一様に絵なんて見てなかった。オーゼンはある絵の前で固まっていた。それが可笑しくて僕は後ろから回り込んで脅かそうとした。

日葵が満開に咲いていて真っ青な空に雲が泳いでいた。キャンバスに夏が切り取られている。

「凄いね」思わず口にした、その一言でオーゼンは「夏」から僕の居る「今」に帰って来た。

「内緒ね」オーゼンは指を指す。額の下に早乙女エミット作と。



「大輔は変わらず写真を撮っているのかかい?」

オーゼンの声にハッとして、引き戻された。「あぁ趣味でね」

「でも彼女はそうじゃなさそうだよ?」

小宮は僕の言った事が気に障ったのか
「写真部だから趣味じゃないの」

「小宮彼は僕の昔の」友達?知り合い?オーゼンと僕の関係は何に当たるのだろう?

「友達だよ、大輔とは」オーゼンは満面の笑みで僕より先に答えた。 

本当?と小宮は顔で聞いてくる。いやもっとこう「こんな失礼な奴の友達なの?写真好きな奴の友達は写真好きなんだよね普通」くらいは言ってると山口は思った。

「本当だよ」柔和な笑みで肯定した。

「何山口もサーカスやってたの?」

「まさか、僕はサーカスよりも写真の方が好きだよ」

一応納得をした顔を小宮は見せた。

「ふむ、それは聞き捨てならないなぁ」早乙女太一(さおとめ たいち)改めオーゼン・ハワードは放課後に付き合うよう約束を僕と小宮に取り付けた。




「なにここ」

「僕の家と職場になるかな」

オーゼンの「部屋」に僕と小宮は招かれていた。サーカスのテント近くに停まっている車はキャンピングカーの役割も兼ねている。

「ひゃぁ」小宮が悲鳴を上げた。

オーゼンは脈略なく着替えを始めパンツ一丁。

「せめて一声掛けてくれれば出ていったのに」

もう、小宮は退散していた。

「なら大輔も着替えちゃってよ」

成されるがままピエロの格好をさせられた。

出てきた僕等を見て小宮は爆笑している主に僕を見て、まだ笑い残りしなが3人でテントの中に入る。

「適当にやるから格好良く撮ってね」オーゼンは馴れた動きで助走をつけてバク転を繰り返す。

空中ブランコでは目を覆いたくなるようなハラハラする演技をする。

「すごーい」小宮は目をキラキラさせたお客になってしまった。

「そうだね凄い技だよ」僕は夢中でシャッターを切った。

あっという間にオーゼンの練習は終わった。

「ふーどうだった?」額にうっすらと汗をかいたオーゼン。

「凄っく良かったギャップがあってそこが特に良かったよ」

満更でもない表情のオーゼンは初めて戸惑って苦笑いしていた。

「じゃあ大輔もやってみようか」

写真ばかり撮っている新米ピエロは本業に打ち込む事と相成った。
オーゼン団長のレッスンは特別運動が得意でもなければ苦手でもない並みだと自負していた僕にサーカスの演技はとてもこなせそうにないと痛感させる事に成功した。

本人は知るよしもなく「まだ始めたばかりだからこれからこれからさ大輔」とポジティブを発揮した。


サーカス仲間も成り行きをました見守っていた。稽古時間外の自主トレだったから他の人達も沢山居た。
オーゼンは僕のフォローに夢中だったから

バク転の練習をする団員に気づくのが少し遅れた。


嫌な音がした。

誰かが大声で頭を動かすな救急車を呼べと言っている。

オーゼンはバク転していた人とぶつかった。

倒れている。オーゼンの顔は見えない。

無理だよオーゼン、人には向き不向きが存在するのさ。

暫くすると、ざわついたテントの外に救急車が到着して救急隊員が一斉にオーゼンに掛けていく。

事の成り行きをただ見守るしかなかった。

どうやって家に帰ったのか覚えてない。その日から一週間学校に行かなかった、いや行けなかった。自室から必要最低限のこと以外で出る事は無かった。よく晴れた日曜日の午前中に僕は世間を恨みながら過ごしていた。

「大輔お客さん、とびきりの美人さんだよ」

「やっほー凄い窶(やつ)れたね山口」

「小宮も負けず劣らずだと思う」お互い目の下にクマが出来ている。

小宮はコンビニ袋を左右に降ってお土産があるとジェスチャーで僕を誘導する。

「くれないの?」

「ここまで取りに来て」

「久々に外に出た」

「少しは気が紛れるでしょ?」

「うん、少しは、ね」

小宮が何処に向かってるのか僕は薄々分かっていた。

「ねぇ私1人だと勇気が出なくてさ」

「そうだね、1人じゃ大変だよ」

2人でオーゼンが入院してる病院に来た。
お見舞い。

受付で病室を聞いて向かう事にした。

「何て言えば良いのか」僕は独り言のように呟いた。

「じゃあ見本を見せてあげる」

小宮は勢いよくドアを開けて「オーゼン元気ぃお見舞い来たよー」大声で馬鹿に明るく言う。

オーゼンは驚いたて、でもすぐ笑顔になった、表情が忙しい奴だな。山口は安心した。
「怪我の具合はどう?」

「順調に回復してるよ今はリハビリ中2人も付き合ってよ」

「あら、こんにちは」オーゼンのベッドの横に椅子に座ってる人がこちらに振り向き
会釈する。

「こ、こんにちは」小宮が頭を下げる。

「こんにちは」僕も頭を下げながら、何処かで見た気がすると思案する。

「オーゼンの母の早乙女美紀子(みきこ)です」快活な声に昔を思い出す。

病院の屋上でオーゼンは僕達をベンチに座らせて少し足を引きずりながら僕達の正面に立つと「では今からマジックを始めます。」ショーを始めた。

コインを使った簡単なパームトリックを披露する徐々に難易度を上げて行く度に僕達は拍手をした。

オーゼンは全ての手品を終えて恭しく(うやうや)頭を下げる

美紀子は3人を見渡しながら「ねぇ、みんなに1つ頼みたい事があるんだ」少し日が傾き出したのが山口の目に止まった。




「良かったよちゃんとある。ここが昔の家、オーゼン覚えてる?」美紀子が言う

「何となくね」オーゼンは答える。

家の跡地はトラテープが張られて雑草が生い茂る空地だ。

「すっご」

「うん」僕と小宮は写真を撮っていた。

「さぁ、みんな行こう」美紀子は雑草の中を躊躇なく歩き始めた。

「行こうかっ」オーゼンは一言残し美紀子を追いかけた。僕と小宮は逡巡したが後に付いて行く。

雑草の中心辺りに2人は居た。

「2人ともこっち」美紀子が手を振る。4人が集まった場所の足元には



地下に続く扉があった。


美紀子が、ポケットから鍵を取り出して扉を開けて下に続く階段を4人で下がる。少し広い空間に出た。スマホのライトで辺りを照らす。四畳半くらいの広さのアトリエがあった。何枚も絵が飾ってある画材道具が散乱している。

「ここが父さんの仕事場所」美紀子が机の埃を愛しそうに薬指でなぞりながら置いてあった封筒を中指で挟む。

「オーゼンあんたが大きくなったらここに来る事にしてたの父さんとの約束でね、でも出来なかった怖かったから、だからあんたが入院してこのままでも良いかなって思ってたら山口の前で手品始めちゃってさ、このタイミングだぁーって勢いでさ?ほら秘密はみんなに知って貰ったら秘密じゃないでしょ?」一気に喋った。そして美紀子は封筒をオーゼンに渡した。

オーゼンは中身を確認する手紙が入ってた。



「オーゼンへこれを読んでる時は何歳なんだろうね?大きくなってるな、そして僕はきっとこの世にいないね、母さんと父さんは仲が悪くて別れる訳じゃないよ僕はもう老い先長くないんだ持って一年って所だねだから母さんにワガママを言ってこのアトリエに籠って絵を描くことに決めたんだ最後に描いた絵を2人に見てほしい、オーゼンが全てを受け止められるようになったらね、僕が身体が弱い事は知ってたね特に足が残念だけどオーゼンにも遺伝してる、どこまで悪くなるかは分からないけど身体を鍛えれば大丈夫だ。今まで言えなくて本当にごめん」

「オーゼン」美紀子は一言

「うん少し考えさせて」





 怪我が治って学校にオーゼンが来て一月が過ぎた。

「ねぇオーゼンまたバク転してよ」

「オーゼンお昼食べよ」

「タピオカ飲みたい」


ホームルームも休み時間もオーゼンは予約の取れないレストランのように大人気だ。

「ならサーカスに来てほしいな」

「えっー何それ」

「この間行ったじゃん」

切りの良い所で休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。他のクラスから来ていと女子が自分のクラスに戻っていく。

「人気ものだね」僕はオーゼンに言う。

「だろ?」見事なウインクをする。

普通なら嫌味になるのにコイツがやると不思議と様になる。

次の授業は移動教室でクラスメイト達はダラダラと移動を始めた。

「僕もサーカスを始めたら少しは人気者になるかな?」

「今のままなら無いと思うよ」

「何でだよ」

「だって大輔やる気なさそうだもん、そんな曲がった根性じゃ身にならないし怪我するよ」それはお前だと、冗談でも言えない。

女子のグループが僕等を見ながらヒソヒソ話して、教室を後にする。

「小宮さんと喧嘩でもしたの?」

オーゼンが愛想を振り撒いて手を振っている。

「ご心配なく関係は良好です」
ただ最近はサーカスの写真ばかり主にオーゼンの。
この間も似たよう事があった、1学年上の転校生の写真を熱心に撮って使用の許可を取ろうとしている内に恋愛していた事が、実を結ばなかった事が。事の全部なんて知らないけど前回の事があっただけに今回のオーゼンの事も何だか心配だ。

「眉間に皺寄ってるよ」

「の、覗きこむなバカぁ」

「大輔、小宮さん好きなの?」

「別に好きでも嫌いでもないよ、そんなこと聞くオーゼンはどう思ってるのさ?」

「可愛らしいよね小宮さんって」

「否定はしない」

「なになに二人して何の話?」

「丁度小宮さんの何処が可愛か大輔と話していたんだよ」

「ふーん。はいオーゼン」どうでもいいと態度で表す。

オーゼンは小宮から渡された物をまじまじと見つめていた。

「凄い」ポツリと呟いた。

「でしょー」小宮は満足そうな笑みでオーゼンを見つめた。

「へぇー、良く撮れてるね」

「大輔思ってないでしょ心が籠ってないよ、でも良くは撮れとる」

「カメラマンの腕かな」

「被写体も込みじゃない?」小宮。

小宮とオーゼンは二人で、盛り上がっている。

「さぁ次の授業の準備しよっと」
わざとらしくてクソ下手な演技をしてしまった。いたたまれなくなって教室から僕は出ていく。オーゼンと小宮はまだ楽しそうに会話している。



それから下校するまで、授業もぼけっと聞いていた。帰れると判ったら急に安堵した。机に突っ伏して気が揺るむ。今日は部活も休んで好きな映画でも観よう、心の中で帰宅した後の予定を立てる。

「ねぇ大輔この後買い物に付き合ってよ」

「んっ?」それは僕の予定にないぞオーゼン。


頼まれるとノーと言えない元来の性格が、災いして藤沢駅周辺の普段は寄り付かないお洒落な洋服屋に来ている。

「何で僕が一緒に行かなくちゃいけないの?」

「こういうのは自分にはない感性の持ち主に選んで貰った方が楽しいからね」

本気とも冗談とも取れないオーゼンにはきっと何を渡しても凄く良いとか言って難なく着こなすと思う。

真剣に選ぶのも馬鹿らしいが然りとて冗談ですと言うのも何か違うかもと悶々とする。

「どうしたの?ウンウン唸ってお腹でも痛いの?」

「一応君の服を選んでいるのに悩んでるだよ」


「えっ何で俺のなのさ?」山口はたじろぐ。

「それはね」ニタついた顔で近づいてくるオーゼンに気圧される。





よく晴れた日曜日。笛田(ふえて)公園には人がまばらに居た。

「なんでこんな事を」清水が一眼レフを構えて愚痴を言う。

「まだ本職なだけましだろ?」僕は清水に言う。

「大丈夫しっかりサポートするしさ」オーゼンはピエロの格好をしている。

「ねぇー本当に私もしないといけないの?」肩を出したTシャツをパンプキンパンツにインして足元はスニーカー。プロポーションが強調される格好の小宮。

「良い思い出でしょ?」オーゼン

「否定はしない」僕は渋々だけど頷く。

清水は無言でシャッターを切り続けている。

僕達は3人でサーカスを始めた。それはそれは拙いサーカスちっとも上手くいかないサーカス。

でも

みんな笑ってたし楽しかった、小宮は意外と運動神経が良くって小道具を使って失敗と成功を繰り返した。

僕はある意味ピエロの役をまっとうしたと思う。何せ、やることなすこと全く上手くいかない、それでもオーゼンの細かいフォローのお陰で足を止めて見ていた人達からはまるで「そういう演技」に見えていたと思う。笑い声が絶えなかったから。


最後は4人で横一列に並んで手を繋いで頭を下げた。あっという間に終わった。線香花火の火花の行く先を見つめている時に似ていた。

オーゼンはやって来て去っていくのも突然だった。だからお別れの、挨拶もなく実にあいつらしいと僕は思った。学校の女子達はとても残念がっていた。

けど暫くしたら日常が帰ってきた。誰にも等しく。

「ねぇ今度のコンクールの写真はどれにするの?」

「これ以外にないだろ」

「だね」


清水の撮った写真を市が催す展覧会に出す事に4人で決めた。そして後日3人で行くことを約束した。オーゼンの馬鹿。


「ねぇどれが私達の写真?」小宮が言う。

「この学生の作品って所」清水が興味無さそうに言う。


3人が夢中で演じたサーカスを切り取った見事な写真。清水と小宮は騒ぎながら見ている。


山口は隣の寄贈の絵に目が離せなかった。

日葵が満開に咲いていて真っ青な空に雲が泳いでいた。キャンバスに夏が切り取られている。あの絵にピエロが玉乗りをして家族3人が楽しそうに見ている絵が付け加えられていた。

「ねぇ小宮こっちを向いて」

終わり。


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