津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
43 / 105
野崎村焼討 元亀一年(1570)初冬

密談 9-2

しおりを挟む
 久慈くじ信義のぶよしは為信の兄である。彼の手紙は秘密裏に大浦城へ届けられた。為信は大変驚き、夜遅くに兼平と森岡を呼び寄せる……。

 ろうそくの火は揺れながら、燃え続ける。話す人の反対の方へ煙がたなびくかと思えば、もう一人の強い息遣いでまた別の方へ流れる。

 為信はいう。

 「……悩ましい。」

 九戸をとるか、信直の下につくか。大浦家の行く末が決まる。判断をたがえれば、家は滅びる……婿殿にとって、荷が重い。

 兼平が口を開く。

 「恐らく、他の家にも誘いがありましょう。」

 津軽に石川家が入って日は浅い。石川高信公は既に亡く、次子の政信が新たに郡代となった。もし先代が存命であれば、軍を率いて助けに行っただろう。ただし政信公はそこまで至らず。今回のことで彼の決断力の鈍さが露呈した。

 諸氏は情勢をどう考えているだろうか。……石川家の下、津軽で大きな力を持つのは主に三家ある。大光寺、千徳せんとく、そして大浦。大光寺は石川家随一の重臣、千徳は穀倉地帯を有する。大浦家は港から金銭の収入が多い。この三氏のいずれかが九戸につけば、均衡は一気に崩れるだろう。

 
……ここで森岡は、兼平に耳打ちをした。兼平は少し戸惑ったようだったが、話すことを許す。

 「殿、これまで通り信直様につくのがいいと存じます。」

 
 為信はいぶかしむ。森岡は続けた。

 「実は……私と兼平は、見ていたのです。鹿角合戦で殿が信直様をお助けになり、手柄を譲ったことを。」

 兼平もうなずいている。為信は困惑こそしたが、すぐに真顔に戻した。二人に問う。

 「他の者に知れているのか。」

 兼平は即座に嘘を返す。

 「いえ、二人だけの秘密にて。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...