津軽藩以前

かんから

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野崎村焼討 元亀一年(1570)初冬

密談 9-3

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 信直は為信に恩義を感じている。これまで通り忠誠を尽くせば、見返りも大きいはず。それは為信にもわかる。

 兼平は少し肩を落とす。

 「しかし、驚きました……。この北奧の田舎で、火縄を十丁も持つ男がいたなんて……。」

 為信は一丁だけ持つ。それも運よく譲られたものだ。買うには……大金が必要だ。大浦家は他家と比べ銭を多く持つが、火縄ほど手の遠いものはない。

 それを信直は十丁だ。どのような手段を使ったのか。

 
 森岡は口調を強めた。

 「……戦が変わるでしょうな。」

 
 危機感が漂う。兼平は言葉を加えた。

 「もちろん、九戸も必死になって火縄集めに走るでしょう。津軽でも、多くの者が同じことを考えているはず。」

 
 ただし湿気に弱いという欠点がある。雪国でそれをどう克服するかという問題は残る。果たして気づいているか。かつて家来の小笠原は冬の間、多くの松明を焚いて火縄を乾かした。確かに有効だが……莫大な金がかかる。

 為信は応えた。

 「小笠原に、火縄の入手について詳しく聞いておく。」


 次に“さて、九戸の件をどうするか……” と考えを移そうとすると、ここぞとばかりに森岡は為信に詰め寄った。眉間に皺が寄っている。炎は揺れた。

 「最近、殿は他国者ばかり優遇なさる。もちろん小笠原殿の力量は認めております。しかれども……そう思わざるを得ませんな。」

 
 兼平は首を振り、だまって森岡を見る。森岡は兼平に “仕方ないだろ” と文句を言った。

 為信は……確かにそう見えるかもしれないと思った。小笠原に限らず、面松斎もしかり。……ただしそこに、最初の頃の幻想はない。
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