津軽藩以前

かんから

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万次党、従属 元亀二年(1571)夏

運の強さ 14-1

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 ……北の国も、梅雨に入る。蒸し暑く、寝苦しい日々。坂東や中央であれば珍しいことでないだろうが、陸奥はだいぶ異なる。この季節で“蒸し暑い”というのが驚きなのだ。このように思えるのならば……今年は豊作だろう。

 その日も雨が降っていた。ざあざあ雨ではなく、しとしとと延々に続く。……夕刻ぐらいか、東の山の向こうから、藁を身に覆った急使が大浦城に参上した。いくら雨除けを施していても、中の服まで濡れている。多くの水滴がしたたり落ちる。

 
 “信直公。九戸勢を打ち破り、三戸を奪取”

 
 ……津軽有事の報を聞いた九戸勢は、一万の兵を率いて信直がいる八戸へ向かった。これまで中立を保っていた八戸政栄に、信直の身柄引き渡しを要求する。
 対して政栄は迷った。渡せば信直は殺される。渡さなければ攻め込まれる……。最後に己では決めかね、信直自身に判断をゆだねてしまった。

 そうこうしているうちに、九戸勢の本陣は目前のくしびきはちまんに置かれた。もう時間がない。


 信直は、政栄に別れを告げた。

“九戸らの横暴は許しがたく、私の妻だけでなく弟をも奪った。だが私怨によって戦い、罪なき民を巻き込むのは本意ではない。ならば最後まで付き従ってくれた家来らと共に、本陣に切り込み華々しく命を散らそう”

 政栄は涙する。腕で目をぬぐう。情に脆いこの武将もまた、決意を固めた……。


 ……かつて父高信が私に話した言葉。

 “生きてこその大事”

 そのようなものは、忘れてしまった。信直の心に哀しみ以外の何かがあるとするならば、それは恨み。最期に一泡吹かせ、心軽やかに死んでいきたい。信直はそう願った。

 家来にも感謝する。よく慕ってくれた田子の民にも礼をいいたい。

 馬をそろえ、攻め込まんとする。櫛引へ続く一本道を駆けるべく、道に出でる。

 
 しかしここで、政栄は信直を止めた。
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