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1A-1(Amane)
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使い回されたような無難なリズムとポ
ップなメロディー、芯のない甘ったるい
裏声で女々しい文句を吐く。これが今の
流行り。
レジの後ろに設置されたスピーカーか
ら流れる「ぽっと出人気若手バンドが今
週発売したばかりのニューソング」を傍
らに聴きながら、俺は今日も懲りること
なく時給の低いCDショップで営業スマ
イルを振りまいていた。
最近の若いバンドは・・・などと言う
とまた「素直に音楽を聴けないのか」、
「昔を過大評価している」と周りから諭
されてしまうのだろうが言わずにはいら
れない。近頃の若手バンドからは情熱や
深みが感じられない。もちろん例外もあ
るが、片手間に音楽をやっているような
印象すらある。
SNSなどメディアが充実し、下積み
時代が短いアーティストがメジャーデビ
ューしていきなり武道館などの大型会場
でライブをするのも最近では特に珍しい
ことでもなくなってしまった。それを思
えばひたむきな情熱や深みが感じられな
いのにも納得がいく。
小さなライブハウスで全く知らない他
のバンドとなけなしの金を出し合って対
バンをし、日々作った音源をひたすらレ
コード会社に送りつけるという地道な努
力をしてきた先人達には敵わない。彼ら
は音楽に人生を賭けていた。
まあこんな、自分の進む道も満足に決
められず、いろんなことを中途半端にか
じった挙げ句に志望大学にも落ちて結局
フリーターをやってる俺が言えた口じゃ
ないんだけど。
いや、そんな俺だからこそ、そんな一
途な人間に憧れているのかもしれない。
「ありがとうございましたっ。」
それにしても平日の昼間は暇だ。朝の
十一時から出勤してもう三時間になる
が、レジを打ったのは今の客で五回目な
のだから。その他はCDの取り寄せをし
て欲しい旨の電話が三本あったくらいで
時間が経つのが長く感じた。この時間帯
はアイドルが急に新譜情報を解禁したり
しない限り平和で、まあこの状態だけを
見れば給料が安いのにも合点がいく。但
し、新譜が入荷する火曜、水曜の夕方に
シフトが入っている人は給料に見合わな
い働きを求められるので文句を言いたく
もなるだろう。
ちなみに夕方は学生アルバイトの時間
なので数少ないフリーターである俺は、
楽な時間帯である日中をほぼ独占させて
もらっている。だから安くても相変わら
ずこの仕事を続けている。
続けていると言っても受験に落ちた数
日後に面接を受けて、実際に働き始めて
からは三ヶ月しか経っておらず、未だに
胸元に付けた名札には『研修中』の赤い
文字が印刷されてある。
「日比谷くん、そろそろ休憩行ってきて
良いよ。」
まあ、いくら暇な時間帯だとはいえ研
修中のアルバイト一人に店を任せられる
はずもなく、基本俺の隣には十歳くらい
年上のパートタイマーが居て、今日は山
浦さんだ。
レジ横に設置されたデスクトップパソ
コンで社内メールを確認する狐のような
ツンとした顔の女性が肩に掛けていたふ
わふわのサイドテールを煩わしそうに背
中の方へ払い除けると、露わになった耳
に三、四種類のシルバーアクセサリーが
突き刺さっているのが見えた。若い頃は
かなり遊んでいたんだろうな・・・実は
今も絶賛不倫中だったりして。
「どうした?」
俺の視線に気づいた山浦さんが子を気
にかける母親のような顔をした。ああ、
そういえばこの人二児の母なんだった。
いくら見た目が若くてギャルっぽくて
も、山浦さんは俺なんかよりずっと大人
だった。
高校を卒業すれば大人の仲間入り、勝
手にそう思っていたがそれは大間違いだ
った。俺はまだまだ未熟で、自分のこと
すら満足に出来ていない。自分の人生を
他の誰かに使ってやれる余裕なんて毛頭
ない。
「すいません、ちょっとぼーっとしてま
した。」
「じゃあ、休憩行ってきな。」
「はい、そうします。」
「うむ。」
ニコリと笑いながら子どものように手
を小刻みに振る山浦さんは、なんという
か友達のお母さんのようだった。
ップなメロディー、芯のない甘ったるい
裏声で女々しい文句を吐く。これが今の
流行り。
レジの後ろに設置されたスピーカーか
ら流れる「ぽっと出人気若手バンドが今
週発売したばかりのニューソング」を傍
らに聴きながら、俺は今日も懲りること
なく時給の低いCDショップで営業スマ
イルを振りまいていた。
最近の若いバンドは・・・などと言う
とまた「素直に音楽を聴けないのか」、
「昔を過大評価している」と周りから諭
されてしまうのだろうが言わずにはいら
れない。近頃の若手バンドからは情熱や
深みが感じられない。もちろん例外もあ
るが、片手間に音楽をやっているような
印象すらある。
SNSなどメディアが充実し、下積み
時代が短いアーティストがメジャーデビ
ューしていきなり武道館などの大型会場
でライブをするのも最近では特に珍しい
ことでもなくなってしまった。それを思
えばひたむきな情熱や深みが感じられな
いのにも納得がいく。
小さなライブハウスで全く知らない他
のバンドとなけなしの金を出し合って対
バンをし、日々作った音源をひたすらレ
コード会社に送りつけるという地道な努
力をしてきた先人達には敵わない。彼ら
は音楽に人生を賭けていた。
まあこんな、自分の進む道も満足に決
められず、いろんなことを中途半端にか
じった挙げ句に志望大学にも落ちて結局
フリーターをやってる俺が言えた口じゃ
ないんだけど。
いや、そんな俺だからこそ、そんな一
途な人間に憧れているのかもしれない。
「ありがとうございましたっ。」
それにしても平日の昼間は暇だ。朝の
十一時から出勤してもう三時間になる
が、レジを打ったのは今の客で五回目な
のだから。その他はCDの取り寄せをし
て欲しい旨の電話が三本あったくらいで
時間が経つのが長く感じた。この時間帯
はアイドルが急に新譜情報を解禁したり
しない限り平和で、まあこの状態だけを
見れば給料が安いのにも合点がいく。但
し、新譜が入荷する火曜、水曜の夕方に
シフトが入っている人は給料に見合わな
い働きを求められるので文句を言いたく
もなるだろう。
ちなみに夕方は学生アルバイトの時間
なので数少ないフリーターである俺は、
楽な時間帯である日中をほぼ独占させて
もらっている。だから安くても相変わら
ずこの仕事を続けている。
続けていると言っても受験に落ちた数
日後に面接を受けて、実際に働き始めて
からは三ヶ月しか経っておらず、未だに
胸元に付けた名札には『研修中』の赤い
文字が印刷されてある。
「日比谷くん、そろそろ休憩行ってきて
良いよ。」
まあ、いくら暇な時間帯だとはいえ研
修中のアルバイト一人に店を任せられる
はずもなく、基本俺の隣には十歳くらい
年上のパートタイマーが居て、今日は山
浦さんだ。
レジ横に設置されたデスクトップパソ
コンで社内メールを確認する狐のような
ツンとした顔の女性が肩に掛けていたふ
わふわのサイドテールを煩わしそうに背
中の方へ払い除けると、露わになった耳
に三、四種類のシルバーアクセサリーが
突き刺さっているのが見えた。若い頃は
かなり遊んでいたんだろうな・・・実は
今も絶賛不倫中だったりして。
「どうした?」
俺の視線に気づいた山浦さんが子を気
にかける母親のような顔をした。ああ、
そういえばこの人二児の母なんだった。
いくら見た目が若くてギャルっぽくて
も、山浦さんは俺なんかよりずっと大人
だった。
高校を卒業すれば大人の仲間入り、勝
手にそう思っていたがそれは大間違いだ
った。俺はまだまだ未熟で、自分のこと
すら満足に出来ていない。自分の人生を
他の誰かに使ってやれる余裕なんて毛頭
ない。
「すいません、ちょっとぼーっとしてま
した。」
「じゃあ、休憩行ってきな。」
「はい、そうします。」
「うむ。」
ニコリと笑いながら子どものように手
を小刻みに振る山浦さんは、なんという
か友達のお母さんのようだった。
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