8 / 13
"無"の存在、畏怖の対象
しおりを挟む
屋敷から出て、二人は周囲を警戒しながら道を進んでいく。気付けば雨は不思議とすっかり止んでいたが、道を進むごとに、先ほどから二人の感じていた重々しい空気が確実なものへと変わっていった。その空気に心が押し潰されそうになりながらも、桜香は響夜の後に続いて歩いていく。前を歩く彼もまた、進むことに躊躇しているように見てとれた。
「…響夜…これ、枯魔だと思う…?」
「わからない…枯魔、かもしれない。……もしかしたら、また別の何者かもしれない」
「……っ」
桜香も気付いていた。この空気は、明らかに枯魔とは大きく異なるものだと。今まで枯魔と対峙してきた中で、討伐に苦戦した大型の枯魔ももちろん存在するが、これほど驚異的…否、狂気にも近い禍々しい空気を放つようなものは一切いなかった。だからこそ、二人は不安で仕方がなかった。
これまで討伐してきた枯魔たちを上回る程の脅威。その正体は一体なんなのか…。そういったものが、一度でも噂として耳に入ってきたことがあっただろうか。二人は記憶を辿り頭を巡らせながら歩いた。
「…桜香」
響夜が突然歩みを止め、桜香を庇うように片腕を伸ばし制した。彼のその行動に、桜香も素直に従う。何かに警戒するようにゆっくりと、再び慎重に進む響夜。その目線の先には、猫が力なく倒れていた。
「…猫…?」
「寝てる…訳じゃなさそうだ。馬車に轢かれた…」
近づき確認しようと触れた途端、響夜はあることに気付く。猫の体温が、まだ仄かに残っているのだ。彼の言う通り、眠っている訳ではない。しかし、目立った外傷は見えない。そこまで年老いているように見えないうえに、特に病気を持っているようにも見えない。なのに、息絶えていた。それも、二人が来る寸前で。響夜は、先ほどから微かに感じていた悪寒をはっきりとその身に感じ、急ごしらえで周囲に結界を張った。
「桜香! 構えろ!」
「ちょっ…何!?」
「近くにその元凶がまだ潜んでる!!」
「!!」
響夜の言葉に、桜香も理解する。慌てて自身の械樞を構え、響夜と背中合わせにその時を待った。すると、周囲一帯の空気が急激にひやりと重苦しいものへと変わっていく。季節は冬でもないのに、二人は強い寒気に襲われた。その寒気に誘発されてか、見えない存在に対する恐怖からか、体が否応なしに震えだす。冷や汗も止まらない。息遣いも荒く短いものになる。
そして、とうとうその元凶ともいえる"人物"が、二人の前にその姿を現した。
「ほう…? 面白い力を感じると思ったが、おぬしらがそうか…?」
「!!」
それは音もなく、どこからともなく現れた。二人に近づく足音すらなく、その場に忽然と"出てきた"のだ。死装束のような真白な着流しを纏い、裸足で立つ者。顔は仮面で覆われ、二人はますます不信感を募らせた。
「…響夜…これ、枯魔だと思う…?」
「わからない…枯魔、かもしれない。……もしかしたら、また別の何者かもしれない」
「……っ」
桜香も気付いていた。この空気は、明らかに枯魔とは大きく異なるものだと。今まで枯魔と対峙してきた中で、討伐に苦戦した大型の枯魔ももちろん存在するが、これほど驚異的…否、狂気にも近い禍々しい空気を放つようなものは一切いなかった。だからこそ、二人は不安で仕方がなかった。
これまで討伐してきた枯魔たちを上回る程の脅威。その正体は一体なんなのか…。そういったものが、一度でも噂として耳に入ってきたことがあっただろうか。二人は記憶を辿り頭を巡らせながら歩いた。
「…桜香」
響夜が突然歩みを止め、桜香を庇うように片腕を伸ばし制した。彼のその行動に、桜香も素直に従う。何かに警戒するようにゆっくりと、再び慎重に進む響夜。その目線の先には、猫が力なく倒れていた。
「…猫…?」
「寝てる…訳じゃなさそうだ。馬車に轢かれた…」
近づき確認しようと触れた途端、響夜はあることに気付く。猫の体温が、まだ仄かに残っているのだ。彼の言う通り、眠っている訳ではない。しかし、目立った外傷は見えない。そこまで年老いているように見えないうえに、特に病気を持っているようにも見えない。なのに、息絶えていた。それも、二人が来る寸前で。響夜は、先ほどから微かに感じていた悪寒をはっきりとその身に感じ、急ごしらえで周囲に結界を張った。
「桜香! 構えろ!」
「ちょっ…何!?」
「近くにその元凶がまだ潜んでる!!」
「!!」
響夜の言葉に、桜香も理解する。慌てて自身の械樞を構え、響夜と背中合わせにその時を待った。すると、周囲一帯の空気が急激にひやりと重苦しいものへと変わっていく。季節は冬でもないのに、二人は強い寒気に襲われた。その寒気に誘発されてか、見えない存在に対する恐怖からか、体が否応なしに震えだす。冷や汗も止まらない。息遣いも荒く短いものになる。
そして、とうとうその元凶ともいえる"人物"が、二人の前にその姿を現した。
「ほう…? 面白い力を感じると思ったが、おぬしらがそうか…?」
「!!」
それは音もなく、どこからともなく現れた。二人に近づく足音すらなく、その場に忽然と"出てきた"のだ。死装束のような真白な着流しを纏い、裸足で立つ者。顔は仮面で覆われ、二人はますます不信感を募らせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる