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宝来の思惑 3
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悠緋は冷や汗を流しながら、慌てて首を横に振って否定した。
「違う、断じて違うからな!? 本気でそうするつもりは無いぞ! 朱莉には僕たちの関係を伝えていなかったから、話の流れとして出した訳であってだな!?」
「ほぉ……だとしても妹君は随分その話を信じていたようじゃないか。さぞ具体的に話が進められたんだろうなあ?……どうなんだ、悠緋」
「ご、誤解だー!!」
「兄様っ! ちゃんと説明してくださいませ! 私がいずれ響夜様と婚約できるというお話も、嘘だったということなんです!?」
「あぁああ朱莉はちょっと黙ってなさい!」
妹の暴露により、更に墓穴を掘っていく宝来家の現当主。そこへ、背後に鬼をちらつかせた響夜もいるものだから、悠緋の心境はひとたまりもないだろう。
しかしそんな喧騒も束の間、紅香の一言で早々に収束せざるを得なかった。
「あの、あまり大きな声で話されると、桜香さまも起きてしまいますし、ご近所の目もありますので……」
「しまった……すまない、紅香。助かった」
「兄様、後程とことん詰めさせていただきますからね?」
「うぅ、ごめんって……」
最初の自信ありげな態度から一変して、妹からの厳しい言葉に肩を落とす悠緋。幸いにも桜香はまだ目を覚ましていなかった為、響夜は安堵の息を吐いた。
興奮冷めやらぬ妹を宥め、帰る素振りを見せた後、悠緋はすぐに真剣な表情で響夜へ耳打ちした。
「近いうちに上が抜き打ちで調査に来る。手持ちの械樞を全てだ。特に無登録の械樞は徹底的に調べられるから気をつけろ。紅香ちゃんのことも、お前のことだから無許可で造ったんだろ?」
「械樞の調査? なんでまた急に……」
「禁忌の存在が示唆された。お前、真名「唐紅」って械樞は知らないか?」
「?……いや、聞いたことないな。禁忌って言っても、それはどういう械樞なんだ?」
悠緋は早口で且つ慎重に忠告しながら、桜香宛の調査がある旨が書かれた手紙を渡す。突然の訪問も、このことを伝えるために来たのかと、ようやく響夜も気が付いた。聞き慣れない真名の械樞に戸惑いつつ、悠緋の話に耳を傾けた。
響夜の問いに対して、彼は静かに首を振りながら答える。
「具体的な能力は誰もわからない。ただ、命を奪う危険性のある械樞であることは、共通の認識ってことだ」
「随分、漠然とした報告だな……わかった、調査のことは桜香にも伝えておく。悪いな、こんな回りくどいことをやらせて」
「いいんだ、僕らの仲だろう? あ、それと……」
先程よりも更に顔を寄せ、眉を顰めながら告げる。
「能力はわかっていないが、これだけは把握できている。その械樞の花紋は曼珠沙華だそうだ」
「っ!」
彼の言葉に息を呑む響夜。その様子を見た悠緋は「気をつけろよ」と一言言い残し、朱莉を連れて都へ戻って行った。
「違う、断じて違うからな!? 本気でそうするつもりは無いぞ! 朱莉には僕たちの関係を伝えていなかったから、話の流れとして出した訳であってだな!?」
「ほぉ……だとしても妹君は随分その話を信じていたようじゃないか。さぞ具体的に話が進められたんだろうなあ?……どうなんだ、悠緋」
「ご、誤解だー!!」
「兄様っ! ちゃんと説明してくださいませ! 私がいずれ響夜様と婚約できるというお話も、嘘だったということなんです!?」
「あぁああ朱莉はちょっと黙ってなさい!」
妹の暴露により、更に墓穴を掘っていく宝来家の現当主。そこへ、背後に鬼をちらつかせた響夜もいるものだから、悠緋の心境はひとたまりもないだろう。
しかしそんな喧騒も束の間、紅香の一言で早々に収束せざるを得なかった。
「あの、あまり大きな声で話されると、桜香さまも起きてしまいますし、ご近所の目もありますので……」
「しまった……すまない、紅香。助かった」
「兄様、後程とことん詰めさせていただきますからね?」
「うぅ、ごめんって……」
最初の自信ありげな態度から一変して、妹からの厳しい言葉に肩を落とす悠緋。幸いにも桜香はまだ目を覚ましていなかった為、響夜は安堵の息を吐いた。
興奮冷めやらぬ妹を宥め、帰る素振りを見せた後、悠緋はすぐに真剣な表情で響夜へ耳打ちした。
「近いうちに上が抜き打ちで調査に来る。手持ちの械樞を全てだ。特に無登録の械樞は徹底的に調べられるから気をつけろ。紅香ちゃんのことも、お前のことだから無許可で造ったんだろ?」
「械樞の調査? なんでまた急に……」
「禁忌の存在が示唆された。お前、真名「唐紅」って械樞は知らないか?」
「?……いや、聞いたことないな。禁忌って言っても、それはどういう械樞なんだ?」
悠緋は早口で且つ慎重に忠告しながら、桜香宛の調査がある旨が書かれた手紙を渡す。突然の訪問も、このことを伝えるために来たのかと、ようやく響夜も気が付いた。聞き慣れない真名の械樞に戸惑いつつ、悠緋の話に耳を傾けた。
響夜の問いに対して、彼は静かに首を振りながら答える。
「具体的な能力は誰もわからない。ただ、命を奪う危険性のある械樞であることは、共通の認識ってことだ」
「随分、漠然とした報告だな……わかった、調査のことは桜香にも伝えておく。悪いな、こんな回りくどいことをやらせて」
「いいんだ、僕らの仲だろう? あ、それと……」
先程よりも更に顔を寄せ、眉を顰めながら告げる。
「能力はわかっていないが、これだけは把握できている。その械樞の花紋は曼珠沙華だそうだ」
「っ!」
彼の言葉に息を呑む響夜。その様子を見た悠緋は「気をつけろよ」と一言言い残し、朱莉を連れて都へ戻って行った。
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